第6話 beauty-B-T-arbitrary-buddy

 しかし鎚矛メイスが重い。ステータスは限界まで上げているのでキツくはないのだが。


 安定してダメージ与えられると思って持ってきたんだが、オーバーキル気味で通常攻撃なんだかクリティカルなんだかわかんないし、一旦戻って武器替えたほうがよいかね。


 おっと、…少年少女のパーティーが近くにいるのか?狗尾草コボルトの集団の争う音がする。積極的に関わると宿屋のおねーさんにギルティ食らうかもしれんのであくまで一人で潜っていたわけだが、こういう緊急事態の助太刀ならば体面も立つからな。待ってろよ経験値ちゃん。


 黒ずくめの戦士が、狭い袋小路を多対一で上手く利用していた。大きな盾を構え常に正面から打ち合えるように振る舞っている。

 一人、一人か、こんな所で?俺も初回なので縦に深くは潜っていないが、しかし獲物が多い脇道に、横に深く潜っている。強くはないが遭遇率は上がる、つまりモンスターの縄張りに近い領域。多人数のパーティーには余り旨くない場所ではあるが。目立つのでどんどんおかわりがくるからな。…訳ありか?


 まあいいや、詳細はベッドの上ででも聞けば良い。助太刀するか。


 右で投石紐を回し、左で狩猟用の投げ棍棒を振りかぶる。今生の俺はかなり器用で、このように体に馴染まない武器を左右に持っても百発百中だ。ステータスを限界まで振ってるからなのか、左右別々に致す才能があるからなのかはわからないが。多分後者なんじゃないかな。サキュバス的に。


 2匹に命中し残りは4。初心者ながら6対1を凌いでいた遣り手である。仲間が減ったことすら相手に悟らせず上手く4匹の殺意を集めている。もう1匹、へちゃむくれ顔を投石で仕留める。流石に目端の利くマズルの長い1匹が不審に思い、振り替えるがその隙を突いて黒い戦士が喉を裂く。

 ここで残り2匹は我に返り、後衛が軒並み死んでいる事に動きがとまる。その隙に、しっぽがくりんとした方に鎚矛メイスを叩き込む。奇襲に驚く最後の1匹、カイゼル髭つけたみたいな面のそいつを黒戦士が最小限で切り裂き、絶命させる。

 異様に手際が良い。低レベルで高ステータスならば、戦士系統の上級職だろうか。

 全身を黒く染めた革の鎧で覆われていて、頭から爪先まで鎧の隙間が無いように見える。大きな盾は木製の土台に同じく黒革を張り、多くの鋲で固定と強化がされている様である。装備の点数では俺よりも多いのではないか?


「ありがとう。助かったよ」


 黒ずくめはフルフェイスの兜を外し、上気した顔を曝す。

 色素の薄いピンクの髪に白い肌。ずいぶん北方側の出だろう。もしかしたら今生の故郷よりずっと。


「ヒューマン。だよな。」


「ああ、いや、この髪だ。先祖のどこかで混じってると思う」


「いや、純粋なヒューマンだ。臭いでわかる」


 一瞬、附子デーモンハーフかと錯覚したが。髪色も顔立ちも常人離れしているし、何より、雰囲気があまりにも邪悪過ぎた。


「《君主》系統の職業だろ。あんた」


「へぇ。わかるものなのかい?」


 わかる。きっと、本人は、誠実で敬虔な国民なのだろう。だが、属性・悪というのは別に、性格が悪いとか、悪事を平然と行えるとかそういう者に与えられる性質ではないのだ。性質。文字通り本質が悪である者に与えられる烙印。レッテルの様なものである。

 運命がそのものを悪と定めるような。生きている事そのものが悪で在るような。

 だから、神官や司祭、君主系統には属性・悪は稀に現れる。その鉄の信念が、どうしようもなく悪とされる者が、必ず一定数でてくる。もちろん、我らが神はそのようなものたちも平等に加護を与えてくださるが。



 そうか、この袋小路。思い出した。心のノートをめくる。

 同じ時間を行き来していても、毎回何もかも同じではない。俺の賽の目が毎度違うように、この袋小路も毎度様子が違っていた。鎧の破片や何かの肉片が残っていた事が大半なのだが、何の痕跡もない場合もあった。一度だけ、複数の狗尾草コボルトと相討ちになったらしき死体を見つけた。目の前のこの邪悪な少年だ。

 相討ちにより、死体を持ちかえる者が居なくて、たまたま死にたての姿を見つけることが出来たのだった。

 更にノートを捲る。別の場所でも、この少年、正確にはその死体に出会った事がある。在る時は王都のスラム街で抗争の末に路地裏で、在る時は英達し騎士となりそして首を晒された刑場で。出会う時は必ず死んだ時であり、生きている時は必ず裏に表に酷く影響力を持って隠れており決して出会うことのなかった怪物。


 《闇の君主》と仇名されていた人物が目の前に生きていた。



「そうだよ。僕は君主系統。その特殊派生職。その結果がわかってから、故郷を離れ、何とか誕生日まで逃げ回ってやっとこの神聖不可侵の初心者の街に来た」


 その薄い瞳に俺の顔が映っている。


「職業は《すめら》。卜占に依ればいつか、今の王に取って代わる運命にあるそうだよ」


 この古い古い、未だ神様のお側に座します国で、卜占の的中率はいかばかりだろうか。


「名前は捨てた。そうだな。beautyビューティーとでも呼んでくれ」


「そうかい。俺はB-T。職業は《悪漢》だ。同じく故郷で責め殺されそうな所を誕生日まで逃げ切った。特に運命なんて持ち合わせてない。裸一貫。寸鉄どころか一糸も纏わず街に来たしな」


 俺の金の光彩にはこの邪悪少年が映っているだろうか。


「名前まで似てるなんて奇遇だね。運命なのかな。ねえ、僕とパーティーを組んでおくれよ。人でなしの悪属性どうし、仲良くしよう?」


 今生の俺は、最初のダイス振りから邪悪少年握手まで、過去これまでの生とは、何から何まで違っていた。もしかしたら、新しい発見があるかもしれない。そしてあわよくば。


「いいぜ。パーティーを組んでやる。ただ、」


 手を握ったままステータスにものを言わせて邪悪ピンクを引き寄せる。俺?俺は聖純ピンク。呼び分けできて安心だな?


「ただ、仲良くするのはベッドだけだ」


 耳元で魅了チャーミングに囁く。


「ーーーぃゃん」


 照れかたは飛びっきりに可愛かった。邪聖ピンクに格上げしてやろう。

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