第7話 beauty-B-T-arbitrary-buddy2

「おかえりなさい。どうしたビーちゃんこの子は。生き別れの兄弟か?可愛いな」


 違うしそのマッシヴな顔立ちにすんごいフリフリのエプロンは似合わな…いや、逆にありか?


「ビューティーと申します。兄がお世話になっております」


 変な嘘はやめなさい。あとそいつに不用意に近づくんじゃない。母性的に食われるぞ。ある意味で愛の獣だそいつは。


「安心しなさい。追われる身を匿うのも我らの仕事だ。別段、追う側を裁きもしないがね」


 神は平等に愛しておられるからな。諸外国と違い、それが何より畏ろしくもあるが。この感覚は、この古い古い国の民には理解できないものであるが。


 ビューティーはどこに刺客がいるかもわからないので宿に泊まらず、ひたすら野宿しながら経験値をコツコツ貯めていたらしい。それを半年ほど繰り返し繰り返し、磨り減ったところに異形の俺が魅惑的に現れて、思わず縋ったらしかった。

 初対面でやたらグイグイ来るなと思っていたが、人淋しさが限界を迎え、とにかく話がしたくて仕方ない変なテンションになっていたそうだ。

 落ち着いた頃に恥ずかしそうに告白してきた。うぅん。可愛らしい。

 それはそれとして、レベル3個分の経験値はさきゅっといただいたが。お陰でレベル4になりました。邪聖少年も経験積めてWin-Winである。


 レベルが上がった。つまり、魔法が使える。悪漢のような複合的な能力を持つ職業は、強いは強いがレベルがある程度上がらないと魔法を覚えないのだ。ステータスを限界まで上げていた為か直ぐに最低限の数の魔法を覚えてくれたが、そうでなければ覚えるまで邪聖少年からガンガン邪聖を抽出しなければならなかった。流石に忍びない。

 それでも邪聖少年の相当な量を邪聖させたので少年の年齢も若返ってしまったが。初心者の街にくる年齢だと、体型など個体差にバラツキがある年頃だし、小柄な少年で通せはするが。レベルドレインの意外な副作用であった。

 経験値とはつまり、人生の積み重ねであるからには、費やした日数まで奪い取ってしまうのだ。その割に奪った俺も若返っているというか、精気に満ち溢れているのだが、どういうシステムなのか。

 とにかく、俺もレベルドレインで元気、ビューティーも見た目を誤魔化せて安心、Win-Winである。


「ビーちゃん。しかし、顔の傷は治さないのかい?悪魔というのは半分、実体のないような存在だ。その気になればレベルドレインの時にでも治せるだろうに」


「ああ、これか」


 顔を斜めに切り裂く傷をなぞる。さすがに、うっすら浮かぶ位には治しはしたが。


「いや、これはこのままでいいんだ」


 愛おしく撫でる。


「そうか、いや、余計な詮索だった」


 受付おねーさんは痛ましそうに、邪聖少年は少し妬ましそうにこの傷を見つめる。


 ふふん、こういうカッコいい意味ありげな傷は、残しておいた方がカッコいいし意味ありげなのだ。特に今生の顔立ちは美形も美形、超絶美魔少年であるからに、却って瑕疵がある方が只人はぐいぐいっと惹き付けられてしまうのだ。魅了チャーミングの効果も倍増である。その事に気づいて慌てて戻れ戻れと念じたくらいだ。興奮すると強く浮かび上がるとか、ちょとした要素の追加も良い。


「ちょっと夜風に当たってくる。晩御飯前には戻るよ」


「そうか。では、ビーちゃん兄弟にご飯のお手伝いをしてもらおうかな」


「え、…はい。わかりました。待ってるねB兄さん」


 何か気を利かせて見送ってくれるらしい。しめしめ。


 早速覚えた魔法を試さねば。悪漢が覚える魔法で代表的なのは、一度食らった魔法をそっくりそのまま発動する《隠忍雀オニスズメ》、一度見た魔法のデッドコピー版を何度も放てる《猿真似モンキーモデルマジック》。特に魔法を食らうとかいう人体実験に、あの母性猛獣が協力してくれる訳がない。しかられておしりペンペンも、まあ、悪くはないが、意味はない。人体実験に、加害者側で協力してくれる者が必要であった。


 前にひっかけた幼なじみ三人組は、善属性健康優良児なのでもう街に戻り、酒場でご飯前の打ち合わせか、宿屋でストレッチでもしてるだろう。ならば風呂屋に誘ってついでに魔法を食らわせてもらい、お返しに別のものも食らわせてもらいで誰もが得する、Win-Winの関係である。悪漢というのは高度な複合職。魔法も使えれば商才もあるのだ。ロマンの塊な職業なのである。

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