第4話 lady-skeleton-key

 レベル上げるっつっても下準備がある。


 いくら能力が高くても一人はキツいからな。


 深夜、善属性がお行儀よく眠っている間に墓荒らしをする。生きている奴を食い物にすると怒られるので死んでる奴を食いに来た。過去生でパーティーの、初期か晩年かは別として誰かしらがこの墓地でレアアイテムパクって所持してたので、天罰食らわないのは証明済みだ。俺一人で荒らすのは初めて、多分初めて、だが。


 バコンッ


 うおっ?スコップが棺桶を叩いて、そのまま簡単に貫いた。土を払って表面を撫でる。薄い銅板貼ってる高級品なのに。


「もしかしてクリティカルヒットかぁ?これ大丈夫なのかね。日常生活にも支障でるんじゃないか」


 悪漢のスキル《ノーバディ》は生活用品ツールによる攻撃にクリティカルの補正が入る。つまり剣じゃなくてナイフ、槍じゃなくて銛、棍棒じゃなくて麺棒、鎌、鍬、槌、鑿、鋸等々…とりあえず戦争に使う用な武器は対象外らしいが、それ以外で殺傷力あるものなら狩猟用の手投げ槍とかボウガンでもクリティカルが発動するガバガバスキルだ。


 さすがにレベル1だからクリティカルに期待してナイフ持つより普通に短剣使った方が安定するだろうが。…いや、鋤とかマタギ槍とか持った方が安全な上にクリティカル発動するのか?おねーさんたちの誰かにねだってみるか。誰か持ってんだろ。



 棺を貫通したスコップをやっとこさひっこぬき蓋をずらす。…おもいっきりご遺体も貫いてたが後輩冒険者のやらかしである。見逃してくれい先達よ。


 ご遺体の手から目当てのものを引ったくる。



 骨製のピック?を手に入れた。



 最上級職の悪漢。もちろん賢者達のように目利きもできる。



 鑑定成功


 骨製のピック?は『レディ・スケルトン』だと判明した。



 これは扉や宝箱の開錠に強い補正がかかる優秀な装備だ。万能鍵ピッキングツールにして解錠道具スケルトンキー。歴代の盗賊系職業の冒険者から敬意を込めてレディ・スケルトンと呼ばれているらしい。


 武器としては弱い。過去生でもたしか、帯刀禁止の王宮でテロリストとやりあった時に、パーティーの《戦闘特化型執事コンバットバトラー》が使ってたその一回しか見たことない。その後それをアイスピックに使いやがって最悪だった。…この心のノート消していいかな。


 弱い武器だが、この最初期の冒険なら十分通用する。


 他の墓も漁って資金稼ぐか。何かあるだろ。


 何しろ一人での冒険である。ステータスが高いので無いことは無いのだが、それでも安全に冒険しないとすぐ死ぬからな。なんだ安全な冒険って。悪漢だぞこっちは。もっとヒリついて生きようぜ。俺は安全マージンとるがな。卑劣漢だから。


「…誰かいるのですか?」


 花を抱えた、おそらく神官系職の子供が墓石の間からひょこっと顔を出した。自主的にお祈りにでも来たのだろう。見知らぬ先達連中の鎮魂の為に。熱心な善属性である。お陰でこっちの心は安まらねぇぜ。


「ひっ!?グール!…ぐふっ」


 ああああ、条件反射で腹パンしてしまった!やべぇ。いや、正当防衛だこれは。悪の。悪党防衛である。俺は悪くねぇ!いや、悪い悪い悪属性なんだけども!どうするこいつ。こいつも魅力チャーミングさくっとやっちまって良いのか?バチあたるかな。


「うーん、セーフかなぁ」


 ハートを鷲掴みされてしまった。背後から音もなく忍び寄る、宿のおねーさん。こいつ、この方だけ、次元違うくない?怖いんだけど。


 いや、御墨付き出たんだ。とりあえず宿に持ってってコイツ経験値に変えよ。

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