その2 食事デート
※本編4話と5話の間の話です。
俺たちは、ショッピングモールの中のフードコートに訪れた。
「何食べたい?」
「んー、なんでもいいかな。哲也くんと一緒のものにするよ」
「そうか。ならおれは……」
答えようとしたが一度踏みとどまった。
これは、來菜が最後に食べるものだ。
彼女は、自分で最後に食べるものを決めたくないのかもしれない。
なら俺がしてあげれることは……
「ハンバーグ定食にする亅
「ハンバーグ? 哲也くん好きだっけ?」
來菜は、疑問そうに首を傾げた。
「來菜好きだろ? 昔よく食べてたし」
俺は、その質問に、恥ずかしさを隠しながら、答えた。
「覚えててくれたんだ。嬉しいな。うん。そうしよっか」
俺の反応に満足したのか來菜は、ニコッと笑った。
※※※※※※※※
「うわぁ。美味しそう!」
來菜は、目の前にあるハンバーグに目を輝かせている。
ハンバーグ定食を提案してよかった。
俺は、來菜の嬉しそうな表情に頬を緩める。
ただ……すっかり忘れていた。
ブロッコリーがあるんだった。
俺は、子どもの頃から、この野菜だけはどうしても食べれなかった。
なので、最近は口にしていない。
人には好き嫌いがあるのは仕方ない。
そんなことを忘れて、俺は注文していた。
こうなったら……噛まずに飲み込むか。
俺がそうしようとした時だった。
「哲也くん、まだブロッコリー苦手だよね?」
來菜は、指を指して俺にそう告げたのだ。
「え?? そ、そんなことはないけど」
「うそだ。顔見たらわかるもん。なんかこの世の終わりみたいな顔してるよ」
「なんで覚えてるんだよ……そうだよ。嫌いだよ」
顔に出ていたのは、致し方ない。これ以上言い訳しても仕方ないと思い正直に答えた。
「分かった。じゃあ、私があ~んしてあげる。それなら食べれるでしょ?」
「ちょっと待ってくれ。それは恥ずかしい」
ブロッコリーも食べたくないが、人のいる前であ〜んをされるのは少し小恥ずかしい。
「えいっ」
俺が話しているときに、不意に來菜は、自分の定食にあるブロッコリーを俺の口に入れた。
「なにして……あれ苦くない」
俺はブロッコリーが苦手なはずだったのに。
「案外ね、年をとったら苦手な食べ物がそんなに苦じゃなくなるときがあるんだよ」
來菜は、それとね。といって付け加える。
「私の愛情が入ってるから美味しいんだよ」
「……來菜は作ってないだろ」
上目遣いで話す來菜にあやうく騙されかけるところだった。
「へへへ。ばれちゃった」
「まぁでも、好き嫌いが減ったよ。ありがと」
「それじゃあ、次は私の番だね。哲也くん。あ~んして」
來菜は俺のハンバーグに目線を向けてきた。
仕方ない。周りの目線は気になるが、もうあと一回しか一緒に食事を……って、なにを考えてるんだ。
俺は來菜を楽しませたいんだ。
「ほら、あ、あ~ん」
俺がフォークでハンバーグの一切れを來菜の口に持っていく。
「ん〜。美味しい。なんか私達バカップルみたいだね」
「やめてくれ。口に出したら恥ずかしい。てか、來菜は俺のハンバーグ食べたかっただけだろ?」
「ふふ。哲也くんは何でも私のことがわかるなぁ」
「当たり前だろ。何年か話さなくてもそんなことはわかるんだよ」
こんな幸せな時間がずっと続けばいいのに。
俺は、このときずっとそう思っていた。
來菜もそう思っていたら嬉しいな。
俺の幼馴染である神楽來菜は明日を知らない モフ @mohhuru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます