村長の謀
「お鈴を奥座敷へ放り込んでくれ。村の代表として、お鈴と二人っきりで話がしたい。皆は、わしが使いを送るまでそれぞれの家でゆっくり休んでいるがよい。おぉ、そうじゃ。わしの裏庭の井戸から水を汲んで行くがいいぞ。此度の礼じゃ」
「水を!!
川の水が底をついてきて、飲み水の確保に苦慮していた男衆たちは大喜びだ。
「礼なんかいらん。
腹の底でほくそ笑みながらそう言うと、お鈴のいる奥座敷へと急いだ。
高揚する心を抑え切れないのか、
(何も知らない可憐な花を摘むのも良いが、毒を孕み美しくなった花を摘むのもまた乙なものよのう)
襖を開ける
ごくりっと、唾を飲み込む。
「ほぉ」
粘りつくような視線が、お鈴を捉える。
「#&%‘*#」(側に寄るな!)
猿ぐつわを噛まされ、言葉にならない。
「どれ、猿ぐつわを少し緩めてやろう。嫌がるおなごの声は、わしの体を興奮させるからのぅ」
「私に、何をするつもりだ?」
「知れたことよ。この日照りの罪を償ってもらおう。体でな」
嫌だ! 嫌だ!! 嫌だ!!! 誰か、助けて―――
心の中で叫んでも、助けは来ない。自分で切り拓くしか逃げる術はない。絶望から這い上がれ! 頭を使え! お鈴の中から沸いてくる力。
「贄を穢したら、蛟さまの呪いを受けるぞ!」
咄嗟に出た言葉だった。しかし、
「なにっ?」
疑るような目で、お鈴を見つめる。
「知らぬのか? 神に捧げる贄を穢した者はその報いを受けることを。いや、一族だったかもしれん。嘘か真か、お梅に訊ねるがいい」
冷たい水を浴びるかのように、
「早く、私を拝殿に連れて行け!」
「あぁ、そうしてやるさ。だが、このままじゃ、わしの気がおさまらねぇ。お前にいい話を教えてやる」
「……いい話?」
「あぁ、お前の男、三太と言ったかな」
「それが、どうした?」
「あいつが、郷に帰る前に少し話をした。お鈴という女は、誰とでも寝る女だとな」
「なっ!」
「あの男、最初は信じなかったけどな、お鈴の右胸の下に少し大きな痣があるだろうと言ったら、顔色を変えて走っていったよ」
「……どうして、痣のことをお前が知っている? まさか!」
「まさか、なんじゃ?」
「時おり湯殿でおかしな気配を感じていたが、お前が覗いていたのか?」
「あぁ。わしの趣味じゃ。もう一度、その痣を拝ませてもらいたかったが、蛟さまのお怒りを買うのは御免じゃ。それにしても三太という男も、大した器ではなかったのぅ。あれから、ちぃーとも戻って来ん。わはははははは」
声高らかに笑う
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