大巫女の死

「大巫女さま! それは、お止めください。その祈祷をすれば大巫女さまのお命が……」


「わかっておる、お梅。しかしな、このまま雨が降らなければ、いづれ皆死んでしまう。そうじゃろ? わしはこれから、三日三晩お堂に籠り『雨乞い』をするが、それでも雨が降らぬ可能性がある。その時はじゃ、この手紙をお鈴の元へ持って行ってくれ。頼む」


 大巫女は、お梅にそう言うとお堂の中へと入って行った。お梅は、拝殿へ向かい大巫女の無事を祈る。

 しかし、大巫女の命を懸けた祈祷も虚しく、一向に雨は降らない。お梅は、大巫女の『帰家祭きかさい』を済ませてから、お鈴の元を訪ねた。


「お鈴さま、お久しゅうございます」

「大巫女さまの帰家祭きかさいにも出席できず、申し訳ない」

「いいえ、お鈴さまのご事情はわかっておりますから、お気になさらないで下さい。実は、大巫女さまよりこれを預かっております」


 お鈴は、お梅から手紙を受け取ったが、封を切ることができずにいる。お梅は、手紙を持つお鈴の人差し指が気になったが、黙っていた。


「お読みにならないのですか?」

「……いや、読ませていただく。ただ、内容の見当はつく。私に雨乞いして欲しいというのであろう」

「では、雨乞いをして下さるのですね?」

「いや、大巫女さまの最後の頼みといえど、私は……」

「できないと?」

「……」

「大巫女さまはこの村の危機を救えるのはお鈴様より他にいないと、そう思われていたのですよ。それと、お鈴さまを守り切れなかったことを大変嘆いておられました」

「私は、巫女としてあるまじき行為をしたのだ。村八分にされても仕方あるまい。大恩ある大巫女さま亡きあと、私がこの村に留まる理由はなくなった。私は太郎と共に、この村を出て行こうと思う」


「——逃げるのですか? 村人を見殺しにして! この日照りの原因は、あなたが村の禁忌を破ったからなのではありませんか? そうなのでしょ?」


 それまで静かに語っていたお梅が、初めて語気を荒げた。


「お鈴さまのその欠けた指と、大巫女様の雨乞いでも雨が降らないこと。この二つのことを考えると、何が起きているのか想像はつきます。蛟の沼に行き、魚を食べたのですね?」

「指は、鉈で切り落とした。蛟の沼になど行ってはおらぬ!」

「あくまでも、この日照りとは何の関係もないと?」

「その通りだ! もう、帰ってくれ!!」


 お梅はお鈴の家を後にし、村長むらおさの屋敷へと急いだ。


(お鈴さまが村を出る前に、太郎殿を捕まえなければこの村は終わる)

 お梅は焦っていた。そして、これから下す己の決断の恐ろしさにぶるっと震えるのだった。

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