彼女が俺を離してくれない
俺の名前は首藤狩也。友達からは首狩り族の愛称で呼ばれている高校二年生だ。愛称、とは言うが、ある意味でそれは正しかった。というのも、俺が何かしらの縁で作った友人は皆酷い目に遭うのである。首狩りというのも名前の漢字を合わせただけではなく、皆が皆、別の意味で再起不能になる事から、まるで首を刈られた様であるという意味が込められている。俺自身は何もしていない。只、昔から厄介事に巻き込まれやすく、その度に酷い目に遭っているだけだ。よく、浮気性の女と結婚した際に女を見る目がないとも言われるが、俺の場合は友人を見る目が無かった。いや、あったのかもしれない。ある意味で。
それでも俺がこうして順調に生活出来ているのは、偏に唯一の女友達―――水鏡碧花という友達のお陰である。「~なんだろう?」や「~するのかい?」など、およそ女性らしくもない口調が特徴の彼女とは友人以上恋人未満の付き合いをしており、友人を短期間に作っては無くす自分にしては珍しく長い付き合いをしていた。一度、どうして自分と付き合うのかと尋ねた所、彼女は冷静に、
「心地良い場所に居たいと思うのが人間だ。私は君の隣が心地いい。何か文句でもあるのかい?」
そう言われて、何かを返せる程弁が立つ訳ではなかった。彼女は授業や体育などで分断されている時を除けばいつも俺の傍に居て、話しかけてくれる。それが嬉しかった。
問題があるとすれば、彼女は非常に頭もスタイルも良く、クラスの男子からは彼女にしたい同級生ナンバーワンに選ばれていた。そのせいで隣に居る俺はいつも交際を疑われ、それを否定すれば仲を取り持ってくれと、どれだけ言われた事か。しかしこれは嬉しい悲鳴に近いものであり、本当の問題は次だ。
先程、俺は友人を直ぐに失うと言った。友達付き合い……つまり連絡先を交換する様な仲になった人間を短期間の内に失う。その理由はというと碧花の機嫌を損ねてしまったから。
時にはその対象者が死んだり、行方不明になる事もある。けれども彼女は冷淡に、
「態度が気に食わないね」
どんな言葉にせよ死んで然るべきだったと断言して、何事も無かったように俺の隣を歩き出す。そう。彼女は俺の周りで起きたあらゆる事件の元凶、即ち―――
黒幕系彼女、だった。
ああ。そう。黒幕系彼女だった。もう過去の話だ。いや、正確に言えば、あり得た未来の話だ。
なら、改めて自己紹介をしよう。俺の名前は首藤狩也。小学校の頃から孤立し、未だに新しい友達一人出来ない憐れな高校二年生だ。
それでも俺がこうして順調に生活出来ているのは、偏に唯一の女友達―――水鏡碧花という女性のお陰である。「~なんだろう?」や「~するのかい?」など、およそ女性らしくもない口調が特徴の彼女とは友人以上恋人未満の付き合いをしており、そのお蔭で順風満帆な生活が遅れている。
友達は碧花しか居ないが、それだけで俺は幸せだ。
「あ~彼女欲しいなあ!」
「……ごめん狩也君。そんなにチラチラ見られると、鳥肌が」
「え、ひっど! 嘘だろおい、友達に対しての態度じゃねえよ! もう少し態度ってもんをだな……」
「うん分かった。じゃあこっち見るな。気持ち悪い」
「余計酷くなってるううう! 何でそんな不満なんだよ……何か俺したか?」
告白の結果?
あんなものは茶番だ。
あの後、碧花が急に泣き出したと思えば気絶してしまったので、有耶無耶になったと言った方が正しいだろう。それ以来、俺は告白出来ていない。いや、していない。だって恥ずかしいし。そういう訳で俺達は友達のままだが、以前と比べれば変化は大きくあった。それは碧花の表情だ。
よく笑い、良く喜ぶ様になった。かつての碧花にマイナスポイントがあるとすれば無愛想すぎる事だったが、その欠点が無くなった今、彼女の人気は止まる所を知らない。机にはいつも大量のラブレターが入っているそうな。しかし誰も相手にはしていないらしい。
「別に何も? 君のイヤらしい視線に身体がゾクゾクしただけだよ」
「それ結局鳥肌立ってるよな!」
「そんな訳無いだろ? 何なら見せようか。ちょっと待っててね。今脱ぐ―――」
「いや脱ぐな。ここ家じゃないんだぞ? 寒いなら俺の学生服貸してやるから、お願いだから脱がないでくれ」
「ふッ。冗談なのに」
「冗談に聞こえる冗談を言おうな」
屋上からグラウンドの方を何気なく見遣る。二人の男女が、丁度校門を出ていくところだった。
「早く行くぞ! 俺は待つが、怪異は待っちゃくれないからなッ」
「ぶ、部長…………早いですよ~!」
二人は俺の事を知らないし、俺も二人の事は知らない。そういう事にしておけばいい。実際、そうなのだから。
「―――ねえ、狩也君。ありがとね」
「急にどうした?」
「いいや、何でも。ただ、こういう道もあったんだなって思ってね…………」
時刻は午後五時。特に部活にも所属していないなら、そろそろ帰らないと怒られてしまいそうだ。誰に怒られるかは、わざわざ言うまでもあるまい。俺はグラウンドから目を離すと、ベンチに置いていた荷物を手に取って、肩に提げた。
「碧花。今日俺の家に泊まるか?」
「え、ほんとッ! 泊まらせてくれるのッ?」
彼女は露骨に喜び、直ぐに荷物を手に取った。
「ああ。一緒のベッドで寝ような」
「―――フフフッ! 夢みたいッ! 狩也君がこんな事言ってくれるなんて」
「そこまで喜んでくれるなら、一緒にお風呂でも入ろうか?」
「……狩也君のエッチ」
「冗談だよ」
「ほんとお?」
「―――そんな事したら妹に殺されるからな」
自虐的な笑みが零れる。碧花は涙を見せながら笑っていた。笑い過ぎていたくらいだった。
「ねえ狩也君」
「何だ?」
俺は階段の手前で振り返り、首を傾げる。碧花はかつての輝きを瞳に乗せて、精一杯俺に笑いかけた。
「こんな日が来るなんて、思ってなかった。有難う狩也君」
「俺もだよ。お前ともう一度こうして暮らせるなんて夢みたいだ」
「碧花」
「狩也君」
「「愛してる」」
黒幕系彼女が俺を離してくれない 氷雨ユータ @misajack
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