第4話 成瀬君とお弁当を食べる

 微妙な沈黙が支配する中、わたくしも成瀬君の直ぐ隣に腰を下ろしてお弁当を広げました。


 全寮制のわが校では、基本的には学食でお昼が提供されます。完璧に栄養管理されていますので、わが校に極端な肥満ややせ型の方はいらっしゃいません。

 ただ、お味はパターンが決まっておりますので、新鮮味が無いのが残念なところですね。


 でも、わたくし、今日は早起きをして自分でお弁当を作ってきたのです。

 

 新鮮な食材を個人的に揃えるのは材料費が高くなりますので、学園ではご自分で作る方はほぼいらっしゃらないのですが、わたくし、こう見えてお料理好きなのです。

 時々自分で手作りして勉強しておりました。今日はそれを箱に詰めて持ってきてみたのです。ここだけの話ですが、将来の夢は栄養学博士なのですよ。

 卵焼きにたこさんウィンナー。じゃがいもとお肉の煮物にブロッコリーやミニトマトなど、彩にも気を使った自信作。


 だって……成瀬君と一緒に食べられたらいいなと、そんな淡い期待を抱いていましたので。


「成瀬君、実は多く作り過ぎてしまったのです。よろしかったら手伝ってくださると助かります。残したらきっと腐ってしまいますし」

「……」

「わたくしの作ったものでは美味しくないかもしれませんが」

「委員長が自分で作ったのか?」


 信じられないものでも見たかのように、驚きで大きく目が見開かれていました。

 ふふふっ。成瀬君の新しい表情。もう一つ見ることができましたね。


「はい。わたくし、こうみえてお料理好きなのです」

「驚きだな。成績優秀で効率重視の委員長が、自分で料理をするなんて」

「好きなことは、別に効率のためにやっているわけではありませんわ。好きだからやっているだけですもの」

「へぇー」


 少しだけ見直してくださったような気がいたします。

 その声音に温かい響きを感じて、わたくしの心臓がドキッと反応いたしました。なんて穏やかな低音ボイスなのでしょう。

 

 少し目を細めてわたくしのことを見つめられてから、興味深そうにお弁当を覗き込んできました。


「学食のよりうまそうだな」

「そうですか! 嬉しいです」


 思わず嬉しさで笑顔全開になったわたくしの顔。まぶしそうに目を逸らされて、成瀬君がぼそりと言いました。


「その黄色いふわふわの奴……もらえるか?」

「卵焼きですね!」


 わたくしの願望が伝わったみたいですね。卵焼きだけでなく、わたくしは色々小皿に盛って差し出しました。


「すまない。ありがとう」

 思ったよりもずっと礼儀正しい姿に、またわたくしの心臓がどきんと鳴りました。  

 


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