第2話 成瀬君の後を追う
翌日のお昼時間、わたくしはいつも一緒に食べている友人達にお断りをして、成瀬君の後を追いかけてみました。
実は彼、いつも学食でお昼を食べていらっしゃいません。『
ポケットに手を突っ込みながら、前かがみになって歩いていく成瀬君の背中を、こっそりつけていきました。手首に掛けられたビニール袋がスラリとしたおみ足とぶつかって、カサカサと乾いた音をたてています。
成瀬君は外に出られると、中庭へと足を向けられました。
広い学園の中には、憩いの場として公園があります。そこのベンチでお食事されるのかも知れないと予想していたのですが大外れ。公園を通りこして、さらに奥の森の中まで入って行ってしまいました。
学校の敷地が広いのも、ちょっと考えものですわね。
足の長さの違いなのか、成瀬君はどんどん前を歩いて行ってしまいます。
隠れながら進んでいたわたくしは、一瞬見失ってしまい、慌てて走り出しました。
「委員長、なんでついてくんだよ?」
「あ!」
気づいていらしたようです。こうなっては仕方ありませんね。
「いつも成瀬君は学食でお食事をされていらっしゃらないので、お昼はどこで召し上がっているのかなと思いまして。単なる好奇心です」
「先生に言われたんじゃねえのかよ。監視しろって」
「そんなことは誓ってありません! わたくしが個人的に気になっただけです」
成瀬君は、前髪の間からいつも通りの氷の視線をわたくしに向けてきました。
でも、わたくしだって負けてはいられません。先生のスパイでは無いことを証明するためには必死に見つめ返すしかありませんね。強い眼光に押されて、ちょっと背中がゾクゾクしましたけれど、なんとか逸らすことなく踏ん張りました。
成瀬君がふっと視線を外されました。
疑いが晴れたのでしょうか?
「俺はここで食って昼寝するだけだから、委員長は帰ってちゃんと飯食えよ」
「わたくしの心配をしてくださるなんて、成瀬君はお優しいのですね」
心からそう申し上げたのですが、「けっ」と言われてしまいました。
そんなにおかしなことを申し上げたのでしょうか……
でも、その眼差しが少しだけ柔らかくなったのは、わたくしの願望が見せる幻ではないと思います。
「成瀬君、よろしかったら一緒にお食事しませんか?」
「だから! 俺は一人で食いたいんだよ」
その時、みゃぁという可愛らしい鳴き声が聞こえました。
成瀬君のお顔が、明らかにぎょっとしたような表情に変わりました。敢えて声の方へ顔を向けないように、必死になってわたくしの顔を睨みつけていらっしゃるように感じます。
「早く帰れよ」
なるほど、そういうことでしたのね。
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