神崎さんは成瀬君を笑わせたい

涼月

第1話 成瀬君とお友達になるには

 実はわたくし、最近とても気になる方がいらっしゃるのです。

 あ、でも、決して個人的な好奇心からでは無いのですよ。


 気になっているのは、隣の席の成瀬君のことです。

 品行方正な我が学園には、優しくて朗らかな生徒が多いのですが、そんな中でとても異色な印象を与えていらっしゃるのが、成瀬光来なるせこうき君です。


 まずは身だしなみ。制服のシャツを第二ボタンまで開けたまま。ネクタイはもちろん、ブレザーのボタンもお留めにならず、麗しい鎖骨が丸見えでいらっしゃいます。

 前髪もかなり長くて、その隙間から見せられる視線は、凍えるように冷たくて。

 今まで一度も誰かとお話したり、笑っていらっしゃるところを見たことが無いのです。授業中は睡眠時間と思われているようですし。


 こんな反抗的な態度では、無事卒業できるかわかりません。わたくし、一応学級委員長でもありますし、何とかして差し上げたいと思っております。

 できればみんなで卒業したいですしね。


 それにわが校のモットーは『博愛の精神』

 ですから、困っている人に手を差し伸べるのは当然のことですわよね。


「あ、あの」

 思い切って声をおかけしたら振り向いてくださったので、ちょっとほっといたしました。視線の冷たさは変わりませんけれど。

「成瀬君、眉間にしわが寄っていますが、何かお困りのことがあるのでしたら」

「別に」

 一言で終わらせると、今度は突っ伏して寝てしまいました。

 困りました。これでは会話が続けられません。何か良い方法を考えないといけませんね。


 その夜、わたくしは自室で色々調べてみました。こんな時はハウツーを調べるのが一番です。


『お友達になりたい方と仲良くなる方法』

 一、共通の話題を見つける

 二、相手の話に共感する

 三、悩みや弱みを打ち明け合う

 四、食事に誘う

 五、困っていたら全力で助ける


 五の『困っていたら全力で助ける』、これは今まさにわたくしが目指していることですから、方向性は間違っていないようです。

 まずは一の『共通の話題』を見つけなくてはいけませんね。でも、お教室でお話する機会がほとんどありません。どうしたら良いのでしょうか?


 そうですわ! 四の『お食事に誘う』を応用して、お昼ご飯の時にご一緒させていただきましょう。


 そう思ったら、自然と頬が緩んでまいりました。明日のお昼が楽しみです。


 あ、申し遅れました。

 わたくしの名前は神崎真矢かんざきまや。この『若草学園』高等部、三年A組の学級委員長です。

 以後、お見知りおきいただけたら嬉しいですわ。

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