第2話 トラウマ

 中学校に入ってからの私の周りの生活は一変した。

男は男、女は女と性別によって大きく二分化された。

服装的な面もそうだし、生活的な面もそうだ。

制服上、男子はスラックス、女子はスカートと服装の見た目から性別を表す。

また同性同士は仲良くするが、異性とは原則話をしないという暗黙の了解みたいなものが生まれていた。

私は男女隔たりなく仲良くしたいと思っていたのでこの暗黙の了解には不服を感じていた。

ただ時代も時代で男尊女卑が明確にあり、“女子に構う必要なんてない”とほぼ全男子が抱いていた。

それでも私は“男だから”とか“女だから”みたいな理由で関わる人を選びたくなかったので極力その人の性別に関わらず話したい人とは話すというスタンスを取った。


 事件が起こったのは中学一年生の後半だった。

どうやら私はクラスの男子から煙たがられているようなのだ。

私に対する対応が他の人にする対応とは違っているように見えた。

もしかしたらただ私が考えすぎなだけかもしれないが、“あいつに近寄ってはいけない”という無言の圧力を周りから感じていてあたかも私はその場にいないかのようだった。

幸いなことにこれは男子からのみのことであって女子とは特に何もなかった。

私自身、なぜこうなったのかと今までの自分の行動や言動を振り返ってみたが特に思い当たる節はない。

強いてあげれば男女隔たりなく関わっていたことくらいだ。

年頃の男の子たちからしたら気に入らないことなのかもしれない。


 そんな風に原因が分からないまま、クラスの居心地が悪くなった。

誰かに話をしなくても生きてはいける。

けれども人と話をすることに、というよりは自分が話したいだけなのかもしれないけれどもそれによってこれまで楽しく生活して来れたと思える部分は大きい。

あくまでも私が話をすることができないのは男子だけだが、原因も分からない中でより活発に女子の元に行けばむしろそのあとどうなるか分からない。

話をしたくてもあと一歩が踏み出せない、そういう日々が続いた。


 男子と話をしない日々が始まってから二週間、私の心は限界を迎えていた。

最初の方は今の自分の状況を忘れて男子に話しかけにいくがそのときに感じる“圧力”に負けて追い払われる。

次第に自分の状況を理解して話しかけなくなったが、本来は誰かに話したいことを自分の心の内に留めておくのはとても苦しいことだった。

ただ話すだけで気持ちに大きな変化が生まれることすらある。

話したいことが頭に浮かび、でも話すことが出来ないというのは最悪な状況でしかない。

気付いたときには“もう学校に行きたくない”という思いが強かった。

事情こそ話していないが、親はあっさりと学校を休むことを了承してくれた。


 私が休み始めて以降、担任から家に毎日のように電話が来た。

その電話は親が中継ぎとなって私の話を伝え、担任はいつ私が教室に戻ってきても良いように努力をしてくれた。

また家では“学校に行くことがすべてではない”という理念が掲げられているように私の目には映った。

戻りたければ戻ればいいしそうでないならそれはそれだと言われ続けているので気が楽になった。


 進級してクラスが変わった。

先生たちの配慮からか最も私を毛嫌いしていた人たちとは別のクラスになり、私は格段過ごしやすくなった。

クラスのことを何も気にしなくて良いとは言わないけれども気にすることはほぼなかった。

自分が話したいときに人と話せるというのはとても気持ちが良かった。


 その後の私の中学校生活は穏やかな日々だった。

しかし男子はいつどこで何をしてくるか分からないという“男不信”のようなものに陥ってしまった。

ある意味でのトラウマなのかもしれない。

こんな人たちにはなりたくない、という思いが沸々と煮えて私はより一層“男からの解離”が進んだ。

そして“男らしさ”がとてつもなく嫌なもので恥ずべきものだと自分の中で認識するようになった。

さらには“男っぽい”身体になっていくのに嫌悪感を覚えた。

“男らしさ”を自分の中から排除して“女らしさ”を少しでもまといたいという気持ちになっていた。

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