雷音
キザなRye
第1話 幼少期の“違和感”
今、歳を取ったから言えることだが自分には正直でいた方が良いと思う。
自分の気持ちには真っ正面からぶつかるべきだ。
そんな話をこれからしようと思う。
あれは私が4歳だか5歳だかのまだ幼い頃だった。
トイレで座る度に何かが違うなと感じていた。
それが何なのかは分からない。
ただ、そう感じるのだ。
それと同時に“女の子への憧れ”を抱いていた。
自分の中にはない何かがそこにあると幼いながら感じていたのだと思う。
もしかしたら世間の男の子が見るような戦隊ものを見るのではなく、女の子が見るようなものを見てきたのが憧れに繋がったのかもしれない。
ただ、その憧れにはスカートを履きたいとかそういう服装に関することは一切なかった。
小学校に入ってからも“憧れ”を捨てていなかった。
というよりもむしろ想いが強くなった気もする。
私は通学路に落ちている何か分からないものを意図的に踏んでいた。
今になってみれば想像力が豊かすぎると評価したいところだが、得体の分からないものを踏むことで自分が男から女へと変われるかもしれないと思っていたのだ。
真剣にそう思っているというよりはそうなってほしいという願望が強かったと思う。
いくら願望が強いと言えどもここまでの想いを抱いていた自分にあっぱれと言いたい。
実際にそうはならないとちゃんと分かっていながら高学年になっても道路に落ちているものを踏むことをやめなかった。
小学生の終わりから中学生くらいにかけて男女に身体的な違いが明確になってくる。
いわゆる性差というやつだ。
性格とか振る舞いとかの内面的な“男らしさ”、“女らしさ”は自分の意識次第でどうとでもなるが、外面的な要因はどうすることもできない。
身体の為すがままにすることしかできない。
私は自分の身体が毛むくじゃらになることがとても嫌だった。
こんな身体を誰にも見られたくないなと思った。
日に日に毛が濃くなる自分に嫌悪感まで覚えた。
多分自分の中で肌が綺麗な大人に憧れていて毛が濃くなることで綺麗な肌を手に入れられないと心から思ったからだと思う。
さらに声が低くなるのも嫌だった。
段々高い声が出なくなって行くのが“君は女の子ではない”、と誰かに言われているような気がしてならなかった。
幼い頃から声が高いと私は言われて自分の中でそれを誇らしく思っていただけにいわば自分のアイデンティティーを失ったという喪失感は拭えなかった。
これによって私の気持ちとしての“男からの解離”がより進行した。
そして“女の子”というものへのある種の崇拝が芽生えていた。
自分は女の子になれなかった落ちこぼれという気持ちが知らず知らずに生まれていたのだろう。
ここに来てようやく自分が“男の子”よりも“女の子”でありたいという気持ちが強いことに気付かされた。
今まではただの“憧れ”だと思っていた感情が“でありたい”とうっすら思うようになっていた。
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