第16話: 帝国内で暗躍する者。そして砂漠国家での親睦の育み。
アビミャー達がイラム王国でイーシュマヒッド第3王子との密会に臨んだ時に、その同日の夜のレネティーエネッス帝国内の【ディーライントゥーロアー帝都】、
【レイーゼルフォーア皇城】のとある一室にて:
「ふっ....相変わらずの忍び足だな、ゼフーラヌイッス」
たくさんの宝飾や装飾品で飾られている豪華な部屋であると同時に、灯りもつけずの薄暗い環境で片隅に座禅を組んで瞑想に入っているのが、奇妙な
形の仮面を身に付けている20代前半の女性だ。
誰かに向かって話しかけているのか、灯りの範囲が届かない向こうの暗闇に向かって的確で鋭い魔力オーラを発し始めている。
「....先日はキミの自室にて待ち合わせする約束だったはずですがな..」
暗闇から徐々に姿を現して歩いていくのが額で一本の小さな角が生えている男で、背を向けて床で瞑想している女性の声に対して言い返した。
その人間にないような青色の肌を持っている様子からすると、どうやらその男は魔族の類かのように見える。
「【透明化魔法(メクトール)】などという小細工を使わずしても粒も同然な存在群相手に対してここまで忍び込めない状況とは、どうやら私としたことがお前を高く
評価してしまったようだ、魔の者よ」
「これはこれは辛辣な感想で恐れ入りますね。まあ、『貴女の立場でもある者からして』それはいつものことですし、本題に移ろうではありませんか?」
「私からの嫌味を今まで上手く受け流してきた飄々としたその気質と器...そこだけは買っているぞ?まあ、魔族のお前にとっては朝飯前のスキルか..まあ、何はともあれ
まずはお前の言ったとおりに、『あの男』がついに現れた様子だな?」
高価なケープと衣服を着ているその女性は、ようやく立ち上がって後ろの魔族の方に振り向くこともせずに向こうのベランダに向かって外の夜の空気を肺にいっぱい吸い
込んでいる模様だ。
「そうですね。あそこへ派遣させてた奴等からの情報が先日から入ったばかりでして....ドゥージョアー卿にまで届いたとなると【淵鏡(ブルズーグット)】が如何に役立つか
やっと信用して貰えましたよね、さすがに?」
「まあ、悪くはない性能だとは思ったがな。最速で、かつ傍受される可能性のない魔力波長であの国からここへと通信ができたものだから、お前も言葉通りにちゃんと
働いてくれてるようで意外だとも思うぞ?」
「ははは....疑われてるばかりでは癪ですので、稀にしか施しをしない主義の我でさえ秒速ぎみな決断で譲渡しましたけどな、持っていたもう一つの
【淵鏡(ブルズーグット)】を..」
相手から信用されていない事実でさえもどこか吹く風に軽く思っている魔族は、涼しい笑顔ながらもどこか威厳のある面立ちで真っすぐな射貫くような目で女性を
見る。
「それで、あの男が大昔からやっと転生してきたのを確認したのがいいが、予定通りに彼の実力の底を奴等に測らせるつもりなのだな?」
「その通りですけどね。まあ、いくらお膳立てする準備が整いつつあるとしても、最終的に彼を奴等だけで仕留めるのが困難な仕業だとも踏みましたが...」
「でも仕留めるまではいかないとしても、何がしらかの布石を敷くことが可能だということでいいんだな?」
「はい。彼の底が見えるようになっていたらそれだけで十分な成果だとも思うので、我がかつて彼に受けた辱め類もようやく挽回できるチャンスへの足掛かりさえ掴めれば
と.....」
今度は苦々しく顔を歪ませた魔族の男は、遥か彼方へと思いを巡らすように遠い表情になるけど、すぐに切り替え、
「昔、まだ弱かった自分だった頃は彼の浅い表面までしか測れなかったからですね....」
悔しい思いのはずなのに、さっきの苦い顔を浮かべたのが嘘かのようにまた涼しい顔に戻った。
「でもいずれ彼も何があっても始末せねばなるまいがな。『崇高なる計画』への邪魔に成りかねないぞ?」
「ええ...分かってますとも。『崇高なる計画』といえば、我の方がもっと詳しいからですよね?少なくとも、『生まれたばかりの卿』よりは...」
「もちろんそこは十分に理解しているつもりだ。私達は確かにそれぞれの目標を達成するのにお互いを利用し合っているという自覚を持っている。私の目標のために、
お前からの提案を受けたまではいいが、私の預かりしれぬところで妙なことをやろうとすればどうなるか、分かるな?」
仮面をつけていても察知できるような凄みと魔力波上昇に対しても、尚も怯まずに立ち尽くすだけの魔族は、
「これはこれは心外ですな、ドゥージョアー卿?我がただ年功序列の観点で意見を述べたまでのことですよ。他意とか軽視するつもりはありませんのでどうか落ち着きをー」
女性の並みならぬ魔力量、圧力や気迫を前にしても言った言葉に反した落ち着いた声色の魔族はただ丁寧にお辞儀するだけで、大した怯えもしていない様子だが、
「ふん。まあ、良い。お前と話しているとついに熱くなる自覚もあるので、不問に付しておく。で、お前のところの【大魔樹(フェーフレット)】とやらの情報によれば、
いずれ開く予定みたいだな、【例の大門】は....」
「そうみたいですね。大魔様のご解放は何千年も前から我ら魔族すべての切望ゆえに、最初から聞くと目から涙も大量に流した程の朗報ですな」
「なら引き続き【例の大門】周りの守護を固めるが良い。魔族の王と名乗るお前にしかできないことだからな」
「当然ですね。卿もくれぐれも表向きの計画の一環として、慎重にことを進めて下さいですね。今における人間社会の世界情勢にて、
帝国以外に他の二つの大国が連なっているようですが、いくらとんでもないバケモノ級な魔力量を誰にも知らせることなくずっと隠してきた卿とてへまをしたくないでしょう?」
「そこに関しては案ずるな。お前の関わるべきことじゃあるまいし口出しは無用だな、ゼフーラヌイッス」
「そうは言ってますけど、隣国のじゃじゃ馬な小娘は最近、好き勝手やりたい放題だとは聞いているんですがな...。彼女が身に余る冒険をし出すようになれば...」
「そうなったら、忍びで消しに向かうから心配する必要はないぞ?」
「なら安心ですな、ドゥージョアー卿。さすがはレネティーエネッス帝国が歴代誇るようなな手腕を持つ絶対的王者で、巷で持てはやされてきただけのことはあります。
軍の者からの期待や信頼も半端ないみたいですし、やっぱり建国以来の才姫というのは伊達じゃありませんね」
涼しいながらの表情で誠実に聞こえてももどこかお飾りみたいな世辞に対して、女性は、
「報告の確認がもう終わったようだな?なら、今回の談話はここまでだ。退くがいい」
「ははは....対等な協力関係にあるというのに、後輩と見なされても差し支えない年齢なのにも関わらず、どこまでも上から目線をする卿はやっぱり皇女様ですな、
ははっ!」
「余計な挑発はもういいと何度も言ってるのに、まだ続く気ならその舌を切り落としても良いぞ?」
「おっと、我としたことがすみませんね。少し揶揄ったつもりで意見を述べたまでのことでした。お気に障ったらごめんなさいですね。では、【あれ】と対峙した後の彼はどうなるのか、次の落ち合いが楽しみでなりませんな、はははっ....」
ずーーー!!
言うが早いか、不気味な声で控えめで低く笑ってみせたのにも関わらず何となく演技っぽい雰囲気を醸し出した魔族の男は、まるで最初からそこには誰もいなかったかのように綺麗さっぱり消え去った。
「【転移魔法(アグルタール)】か....今の魔法が衰えている時代にて、それを使える者はお前、私、そして....【あの男】の3人くらいか....」
遠いところへ見つめそうな佇まいをしている女性は、ベランダの縁に手を添えて夜のとばりが深くなりつつある帝都の全貌を前に心持ちをさらに切り替える様子だ。
「でも、いくら【伝説級な魔術師】であっても、必ず計画への邪魔だけはさせぬぞ。なぜならばー」
金髪のポニーテールを揺らして、ベランダを後にするべく眼下の町から踵を返すと、
「次期皇帝である女帝になる後継者としての私が、『彼女の復活』が果たされるまでに過去の亡霊であるお前の横やりだけは要らないがな」
そう呟いた仮面の皇紀らしき女性は、魔術付与も施されているであろうティアラを被りながら、颯爽と部屋から出ていくのだった。
「それにしても、あの雑魚二人も使いようによっては便利な駒にもなれるものなのだな....つくづく狡猾なやり方で魔族らしいといえばらしいけれど..」
ドアを閉じると同時に仮面の女性が漏らした一言はどこともなく発せられた。
........................
..........
イラム王国の【アールバルクハ―】という辺境な町より、近くの【ウルメン鉱山】の外れに立てられたばかりのキャンプ場にて:
「ふ~は~~~~~!朝はいつも怠いものだよなぁ....」
あくびをかいた俺はストレッチすると同時に、まだそこで寝ている王子を置いてキャンプの外へと出る。
「うん?あら、アビミャー師匠。随分と早起きできますのね。魔力量が桁違いに多すぎるからてっきりその反面に朝が弱いかと思っておりましたけれど..」
「おはよう、ポーリンヌ。昨夜はよく眠れたかな?あの変異種な魔生物との初めての戦闘だったからな。俺はこの通り、浅く眠っていても元気が出るものなんだけど、
あんたならどうかな?」
どうやら、先に起きてきたのは俺と彼女くらいのようだ。彼女の具合が気になって彼女の顔を近くで覗いてみると、
「~~!?顔が近いですわよ、師匠!もっと距離をお保ちになりなさいな!と、紳士的な殿方でしょう、貴方は!?」
「おっと、これはいけない!ただ気になって勢いつけてしまっただけのことだ。それで近くまで踏み込みすぎたけれど気にしないでね?」
「わたくしは別に、し、師匠なんて近くまで接近されても気になんてしていませんわ!た、ただ....」
ん?珍しく口ごもりながら俯いているようだけど、何かな?
「実は...わたくしは今まで生きてきた中で、その...こうして気軽に、自身の家柄と地位を気にしないながらで誰かの殿方との会話を....する機会があまりなかったから、
その....近くまで来られると、つい...慣れないというか、理由もなく心拍数が上がるとかっていう訳分からない身体的反応が...」
ふむ、なるほどな。
「どうやら、まだ異性との会話には熟練度があまり高くないように見えるな。学園では男友達とかいなかったの?」
「それは、まあ、なんと言いますか...多分...そうだとも言えますわね。だって、確かに生徒会長としての職についているわたくしなんですけれど、副会長のロザリーンの
他に、書記には男子生徒もついていますわね。でも....」
「でも?」
あまりに間が開いてるので聞いてみれば、
「彼は..わたくし達の目からすれば会計の子に気があるように見えますし、それのお蔭か、フレンドリーな態度でわたくしと接することは一度もなかったんですのよ」
「ふむ、そうか。道理で気安く近づきすぎた俺のことをそんなに反発してきてるものだね」
「は、反発だなんて人聞きが悪いですわよ、師匠~~!ただ慣れないだけですからね~!師匠なんてふ~~ん、ですわ!」
そっぽを向いて拗ねてるようだけれど、その頬を膨らませてる仕草と紅潮してるような表情、なんか可愛く見えてしまう!
「...あのね..」
「うん、どうした?」
ポーリンヌが指で金髪の横髪をいじりながら何か言いたそうにしているので聞いてみると、
「さっきのウルメン鉱山での戦い....あそこでわたくしを助けて下さったこと....誠にありがとうございましたわ。師匠がいなかったら、魔生物のローリングタックルに巻き込まれ
ミジンコに潰れてしまっていましたわ」
「どういたしまして、ポーリンヌ。俺が同席している戦場で仲間や弟子を死なせるなんて、極黒天魔英としての名折れだからな。だから、あまり恩を感じることしなくて
いいぞ?」
それに、【ゾーマス級】だと思っていた相手がいきなりの訳わかんない変異種だかになってる様子だからな。普通な訓練用な魔生物にしては実戦経験もほとんどなかった
彼女達には荷が重すぎたから。
「でも、師匠がああ言うけれど、わたくしとしてはやっぱり借りを作ってしまいましたわって気分になりましたわよ?ですから...」
また俯いて何か言いたげなポーリンヌへ、
「みんなまでいう必要はない、来る時が来れば、そん時はあんたに厳しい訓練を施したり、魔術鍛錬になりそうな単独任務を課すことになるから深く考えなくていいよ?」
「~!はい、師匠!もう元気が上がりましたわ!貴族としてのわたくしのプライドはやっぱり、手出し無用ですと決まっていた戦闘に師匠からの援護が加わったことだけは
感謝すると同時に悔しいとも思っておりましたわ!ですが、今に覚えていて下さないな、アビミャー師匠!
これからはたくさん学んで訓練して、いつか師匠みたいに強くなりますわ、
のおほほほほ~~~!!」
「その意気やよし!じゃ、皆が起きてくるまでの間、俺達二人だけで野生物とかを狩ったりしていくぜ?」
「はいですわ~!」
まずは朝食の調達から始めるのが先決だしな。イーシュマヒッド王子の依頼を受けるかどうか話し合うのはロザリーンも揃った3人組になってからじゃないと。
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極黒英雄の転生物語 明武士 @akiratake2
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