女の子にモテたくて仕方なかった僕はヤケクソで黒魔術に手を出してしまい、神社で踊り狂っていたら何故か学校一の美少女が彼女になっていた件について

くろねこどらごん

第1話

「ウホホイ!ウホホイ!ウホウホホーイ!」




 僕の名前は下峯宇海しもみねうかい。高校一年生の全裸だ。

今絶賛踊り狂ってる真っ最中である。


 夏の開放感に包まれて、僕は今、自然と一体となっていた。




「Foooooooooooooooo!!!!!!!!!!イエァァァァァァァァァァッッッッッツ!!!!!!!!!」




 …………ごめん、訂正させて欲しい。これじゃあ僕がただの頭がおかしいやつみたいじゃないか。

 踊り狂っているのにも、れっきとした理由があるのだ。

だ、だから勘違いしないでよね!楽しんでるわけじゃないんだから!

 別に普段全裸がデフォの露出狂でもないし、いつもちゃんと制服を着用している、どこにでもいるただの真面目な学生なんだよマジで。




「いあ!いあ!ふんぐるい!いあ!いあ!フィアアアアアアアアアアア!!!!!」




 繰り返すようだけど、理由があるからさ。

決して好き好んでこんなふうに叫んでいるわけではないんだ。

 どうか誤解しないでくれ。本当に僕は嫌々ながらやっているんだよ。


 ノリノリでやってないよ、うんマジで。ぼかぁストリーキングでも露出狂でもないのだから。




 まぁとりあえず話だけでも聞いていってくれ。


 事の起こりは数時間前、僕が学校を後にしようとしたことから始まるんだ―――


















 僕はモテたかった。


 とにかくモテたかった。死ぬほどモテたかった。


 これまで彼女がいない人生を過ごしてきたが、高校生になった今、とにかく女の子からモテたくてモテたくて仕方ない。


 これは僕でなくても思春期を迎えた男子なら誰でも思うことだろう。




 僕の場合、人よりもその思いがほんの少しだけ強かったようだ。


 具体的に言うならば、夏休みまでに彼女ができなかったら舌を噛みちぎって死ぬだろうと明確に自分の死に様を予知できるくらい、女の子からチヤホヤされたくてどうしようもなかったのだ。




 なぜ夏休みかって?いやわかるだろ、んなもん。


 よく言うだろ、ひと夏の経験は人を大人にさせるんだよ。そんなやつらが街中に溢れかえるわけだ。


 つまりカップルのイチャイチャがより活発になる季節でもある。




 そんなものを僕のようなピュアなチェリーボーイが目撃してみろ。


 あまりの視覚の暴力により、メンタルと脳をズタズタに破壊されるのが目に見えてる。


 そんなものを毎日見せ付けられるくらいなら舌を噛みちぎって死んだほうがよほどマシだ。ひどく論理的な結論であると僕は思う。




 だから僕は一刻も早く彼女が欲しかった。


 彼女さえいればなんとかなる。寿命が伸びるうえに、心の平穏も保たれるはずなのだ。いいことづくめとはこのことである。


 そんなわけで夏休みを目前に控えた今、性別:女性の生徒に手当たり次第アタックをかけたわけだが全て撃沈。


 失意のドン底にいるのが現状というやつだった。




「彼女が欲しい…もう女の子ならだれでもいいと妥協してるっていうのに、なんでダメなんだ…」




 誰かがこの場にいれば、そんな上から目線だからダメなんじゃね?と突っ込まれたかもしれない。


 だけど放課後の廊下で黄昏ている僕にツッコミを入れる第三者はいなかった。友達は未だ教室でだべっているし、やつらは既に彼女を作ることを諦めた負け組だ。


 一緒にいたらモテない運気が流れ込んできそうだったので、早々に教室からの退散を決め込んだのである。




 よって、今僕はひとりだった。


 特に予定があるわけでもないけど、とりあえず本屋にでも行こうかと考えている。


 理由はまずモテるなら形からということで、とりあえずモテるファッションでも研究しようかと、ふと思い立ったからだ。


 ちなみにワックスをつけたり、髪を切ったりは既に実践済みである。やれることはやってるのさ。だけどさぁ…






 髪を切ったところでよぉ!モテるわけがねぇだろぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!


 ちょっと前髪切ったんだふーんで終わりだったよ!元がイケメンじゃなければ意味がないってか!ぶっ殺すぞ!






 ハァハァ…悪い、つい熱くなってしまったよ。やはり世界はフツメンに厳しい。


 早くこの世界を滅ぼす方法を考えないと…まぁそれはそれとして、さっさと行きますか。ここは僕にとってあまりにも居心地が悪すぎる。カップルなんてクソくらえだ。




「さて善は急げというし…ん?」




 さっさと玄関を出ようとしていたとき、ふと視界にある人物がよぎる。


 いや、正確にはふたり。女の子と、その後ろをついて歩く男の姿がそこにあった。




「なぁ、いいだろ?これからどっか遊びに行こうぜ」




 制服を着崩した明らかにチャラい男が、女の子を遊びに誘っているらしい。


 イケメン気味で遊び慣れた雰囲気のあるやつだ。モテる臭いがプンプンする。


 正直言ってぶっ殺してぇ。僕はイケメンが死ぬほど嫌いだったのだ。理由はどうか察して欲しい。




「嫌よ」




 だけどそんな気持ちを押しとどめたのは女の子の態度だ。


 イケメンからの誘いをにべもなく断るその姿には惚れ惚れする。というか惚れそうだ。よく見ると、その少女には見覚えがあった。




(あれ、隣のクラスの及川翔子おいかわしょうこか…噂通り美人だなぁ)




 及川は学年でも屈指の美少女として名高い生徒だ。ナンバーワンという声もよく聞くが、近くで見るとそれも納得の可愛さだった。


 長い黒髪が印象的で、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせた、大人びた少女である。


 同時に、数多の告白を断ってきた猛者としてもその名前が知られていた。


 そう、お決まりの断り文句が確か―――




「君、全然面白そうじゃないもの。さっきから同じことしか言わないし、他の誘い文句のパターンないの?せめてレパートリー増やしてから出直してきて」




 出た、及川の代名詞。面白く感じない。


 その言葉で、これまで全ての告白相手を撃沈してきたと聞いていたが、生で聞ける機会が訪れるとは。


 それを聞いて男はポカンと口を開けていたが、少し経つとみるみる顔を赤くし、無言で足早に去っていった。




「ナイスブロック」




 僕は思わずサムズアップをかましていた。美少女がイケメンを袖にする光景を目にして、僕の胸には今爽やかな風が吹いている。


 やっぱさぁ、こういうのって必要だよね。イケメンだけに優しい世界なんて理不尽だもの。ああいう勘違いしたクソ野郎が得するようじゃ、世の中狂ってるとしかいいようがない。




 とはいえそれはそれとして、やはり学年一の美少女ともなると、付き合えるために乗り越えるべきハードルは高いようだ。


 僕もできるなら彼女のような美少女を彼女にしたいと思うけど、僕自身はごくごく平凡極まりない、どこにでもいるつまらないただの一般男子生徒。及川が物語のヒロインだとすれば、自分はただのモブキャラだった。


 彼女のいう面白そうのハードルを超えられる気がまるでせず、声をかけることすらできやしない。




(及川のような美少女は、やっぱ話の上手い爽やかイケメンと付き合うことになるんだろうなぁ…クソがぁっ!イケメンなんて死ねよぉぉぉぉ!!!!)




 結局世の中顔なのだ。顔がよければどうとでもなる。いくら努力しようとも、生まれ持った壁を越えることなど出来はしない。




 この世の不条理を嘆きつつ、僕は校舎を後にする。


 及川の姿はいつの間にか見えなくなったが、それも付き合える可能性がゼロに等しい僕にとっては、既にどうでもいいことだった。












「お、あったあった。これだこれ」




 あの後、駐輪場まで歩いた僕はギコギコと古びた音の鳴るママチャリを乗り回し、商店街の本屋まで来ていた。


 どこで買っても良かったが、単純に帰り道にあったからこの店に寄ることに決めていた。


 とはいえ客足は芳しくなく、少しばかり寂れている。夕方に差し掛かっているのに若者の姿が見えないのは、近くにショッピングセンターができた影響だろう。


 わざわざここに足を伸ばす理由もなく、同級生達も大抵はそちらのほうに足を向けるのがほとんどだ。




 まぁそんな事情を考えていても仕方ない。店内に人がいないということは、逆を言えば目的のものを気兼ねなく探せるということでもある。


 品揃えは悪くなく、置き方にも気を使っているのかすぐに目的の雑誌を見つけることができていた。




「これで僕もモテモテのウハウハに…フヒヒヒヒヒヒ」




 表紙に写ったイケメンに自分を重ねた僕は理想の未来を夢想して、思わず笑いが零れてしまう。


 近くにいた年配の男性が少し引いていたようだが、僕は気にもしなかった。男の反応なんてどうでもいいからね。女子の好感度を稼げればそれでいいのだ。




 とはいえ、早々に発見できたものだからなんとなく物足りなさを感じた僕は、適当に店内を物色しようとぶらつくことにした。




「なんか面白い本でもないかなっと…」




 広いとはいえない敷地だから、すぐに終わるだろうとタカをくくっていたのだが、いざ見て回るとなるとつい目移りしてしまうから不思議なものだ。


 そうしてキョロキョロと視線を彷徨わせていると、ふと目に止まるものがあった。




「ん?これは、絵本かな?」




 それは黒い背表紙の大判の本だった。


 誰かが手に取って戻したのか、他の本より少し浮き出ているから目に付いたのだ。


 なんとなしに気になって、吸い寄せられるように僕はその本に手を伸ばす。




「……まぁ、ちょっとした暇つぶしにはなるかな」




 触れた瞬間、ピリッという電気が流れたような感覚が流れたような気がしたが、僕はそのまま棚から本を抜き取った。


 静電気でも走ったのだろう。大して気にすることでもない。




「さてさてどんな内容で…え゛」




 くるりと手首を回し、改めて表紙をこちらに向けて見た瞬間、僕は絶句することになる。






 よく分わかる黒魔術くろまじゅつ入門にゅうもん♪~これで君きみもモテモテに!?~






 胡散くせぇ。真っ先にそう思った。


 題名のチープさもそうだが、わざわざルビを振っているのもいかがわしさに拍車をかけている。というか、黒魔術でモテモテて。


 それ明らかに精神操作とかそっちのヤバい類じゃねーか。まだ僕はそこまでおちぶれちゃいない。


 あくまで両思いとなってラブラブチュッチュしたいのだ。


 魔術で女の子と仲良くなるなど、よほどイカレたやつじゃないとしないだろう。




「見なかったことにしよう」




 そう即決し、僕は入門書を元の場所に戻そうとした。


 こんなものに頼らなくても、僕はこれからイケてる男になるのだから、彼女なんてすぐに…そう考えたところで、腕の動きがピタリと止まった。




 ……ほんとにそうだろうか?




 そんな疑問が思い浮かんでしまったからだ。


 僕は脇に抱えたメンズファッションの雑誌をチラリと見る。


 そこには流行のファッションを着こなしたイケメンが、爽やかな笑顔を浮かべていた。




 …僕にこんな顔ができるか?できたとして、女の子が好意を持ってくれるのだろうか。


 自虐めいた自己分析は、小さなトゲが刺さったような引っ掛かりを己の中に生み出した。






 高校生になってから早四ヶ月。


 これまで幾度も告白したのに、誰も僕にYESの返事をくれなかった。


 肉食系男子がモテるなどというのは嘘であると、僕は身を持って知っている。


 多少身だしなみを整えたところで、すぐに彼女ができる保証なんてどこにもない。ましてや夏は、もうすぐそこまで迫っていた。




「…………」




 時間がないのだ。夏休みを迎えた瞬間、妬みから僕は間違いなく舌を噛みちぎるであろうことは分かっている。あまりにも情けない死因だ。


 このままでは僕は嫉妬に狂って死んだ男として、ネットの晒し者になることだろう。




 それだけは避けたい。クソ童貞野郎どものおもちゃになるのだけはゴメンだ。


 イケメンも死ぬほど嫌いだが、同じ境遇にいるやつらに舐められることだけは、僕は我慢ならなかった。




「……ちょ、ちょっとだけ…先っちょだけならいいよね、うん」




 僕は伸ばした腕を引っ込め、するすると体へと引き寄せていく。


 そうして戻った腕をしばしの間見つめた後、僕は持っていた本をファッション誌とともに小脇に抱えてレジに向かう。




 黒魔術なんて実際存在するはずがないことは百も承知だ。


 だけど物は試しとも言うし、若いのにチャレンジしないうちに否定するのはよくないだろう。


 何事も経験しないと真実はわからないのだ。だから成功してモテモテになったとしても、それは結果的にそうなっただけの話で、決して僕自身がそう願ったわけではない。言うならば天の采配がそうしたのだ。僕が悪いわけでは断じてない。






 誰も聞いていない言い訳を心の中で並べつつ、僕はチャリのカゴに購入したばかりの二冊の本が入った紙袋を放り投げる。


 やっちまった。ヤケクソ気味だったとはいえ、こんなものに手を出すなんて、僕はどれだけ女の子に飢えているんだろう。


 なんとなくバツが悪くなった僕は、そのまま帰ろうと思っていた予定を変更し、コンビニへと車輪を向けた。


 花火でも買ってパッと遊ぼう。そんなことを、ただ考えることにした。


















「しくったなぁ。まさか花火禁止になってたとは…」




 あれから少し夜の訪れが深まった頃。僕はとある神社の前にいた。


 右手には例の紙袋を持ち、左手にコンビニの袋をぶら下げている。なかには飲料水と花火、火付けの道具が入っており、もう少ししたらこれでひとり花火に興じようと考えていた。




 僕の家はマンションなのだが、間抜けにも昨年のうちに敷地内での花火が禁止になっていたことを忘れており、ついさっきまでさてどうしようかと思案していたときに、昔よく遊んでいたこの神社の存在を思い出し、改めてここまで足を伸ばしたのだ。


 階段の下に自転車を止め、僕は登りきった境内の石畳にビニール袋を静かに落とす。七月になると暑さはまだ本格的ではないとはいえ、夕方でも肌に汗が張り付いていた。




「よっこいしょっと」




 幸い人気のない神社なので、誰かの目を気にすることなく僕は地面に座り込む。


 未だ制服のままだったので汚れるかもとはふと思ったが、そんなことを気にしても仕方ない。後で適当にズボンを払えばいい話だ。


 そこまで考えたところで、ふと手に持った紙袋が目に入った。




 ちょうどいい。これを下に敷けばいくらかマシか。


 そう思った僕は中から本を抜き出して、紙袋を尻の下に敷くことにした。


 ガサリと擦れる音が僅かに響く。虫の声も聞こえない寂れた境内では、それだけでもなんとなく場の雰囲気を壊してしまったかのような奇妙な罪悪感が湧き上がった。




「まだ暗くなるまで時間はあるし、暇つぶしがてらこれでも読みますか」




 誤魔化すようにそうひとりごちると、僕は黒魔術の本を手にとった。


 なんだかんだ気になっていたのだ。これで本当にモテモテになれるなら、それこそ僕は悪魔に魂を売ることになるかもしれない。


 早鐘を打つ心臓を押さえ込みつつ、僕はゆっくりと最初のページを開いていた。










 はじめに




 ご購入ありがとうございます♪この本に載っている魔術は全て本物です


 ただし、魔術とは禁忌なるもの。手を出したら後戻りができませんのでご注意を


 具体的には、これから実行する魔術は全てその場で行ってください。時間を置いてしまえば、全ては水の泡。


 効力は反転し、貴方は一生モテないクソ童貞陰キャ男子のままでしょう












 ……ほう、こういう出だしか。まぁ、悪くない。


 黒魔術とかいうものだから、もっと堅苦しい文章でくるかと思っていたけど、かなりフランクな感じだ。


 抱いていた警戒心が薄れていくのを僕は感じた。






 ただ、クソ童貞陰キャ男子は余計だ。もはやただの暴言じゃねぇか。


 そりゃあこんな本買ったんだから、購入者は皆綺麗な身体のチェリーボーイであることだろう。


 それだけに言葉を選ぶべきだと僕は思う。思春期の男子はガラスハートの持ち主ばかりなんだぞ全く…




 ぶつくさと文句を言いながら、僕は次のページをめくることにした。


 目に入ってきたのは目次だ。意外と細かく分けられており、どんなモテ方がいいのか、モテる対象はどんな子がいいのかまでページ分けされているようだった。




「ふーん…僕はまぁ、無難なのでいいや。滅茶苦茶可愛い女の子にモテる方法はっと…」




 僕は自分を知っており、決して高望みするような性格ではない。


 そのため、まずはスタンダードにとにかく可愛い女の子にモテる方法から試すことに決めた。


 ハーレムの方法はその次にしよう。まったく、僕はどこまで謙虚なんだ…


 思わず自画自賛しながら、僕は目的のページを開いていた。








 魔術その25~可愛い美少女にモテる方法~




 このページを開いた貴方。さすがですね、童貞の鑑です


 大抵の陰キャ男子は、まずこのページから開くのですよ


 身の程もわきまえず、真っ先に美少女と付き合いたいなどとまったく、これだから己を客観視できないクソ雑魚童貞は…


 まずは鏡で自分の顔を見たらどうですか?貴方、美少女と付き合える顔をしていると、ほんとに思っているんですか?


 まぁしょうがないから教えますけど、本来ならこのページを開く前に、もっと自分を磨く努力をですね…




















「ぶっ殺すぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」






 僕は思わず本を地面に叩きつけていた。


 本気の怒りを感じる。なんで胡散臭さ全開の本に説教されなきゃならんのだ。


 顔が赤く染まり、フーフーと息も上がってしまったが、無理からぬことだろう。


 僕はコケにされるのが死ぬほど嫌いな男だった。




「クソが…これで効果がないなら、引き裂いてやるからな…」




 未だ息が荒いまま、僕は叩きつけた本を拾い上げる。


 ムカつきは収まらないが、それでもまだモテる方法を見てすらいない。


 一応目を通しておかねばと、荒れ狂う心を押さえ込んで、僕は次のページをめくっていた。








 では早速美少女にモテる方法を教えましょう










 まず、その場で服を脱ぎます


















「なんでだよ!!!!!!!!!!!!!!」




 僕は再び本を地面に濃厚接触させていた。ディープで激しい音が境内中に響き渡る。




 続きも一応書かれており、焚き火でキャンプファイヤーしろだの、それを囲んで30分踊り狂いなさい。時々ドラミングするとなお良しだのと書かれているが、こんなの実行できるわけねぇだろおぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!


 一発で警察に捕まって人生終了しちまうわ!ざけんなよ!






 怒髪天に達した僕は、中世の魔女狩りに則って火炙りの刑に処すべく、ビニール袋に手を伸ばしてライターを取り出そうとする。


 これは天罰だ。意味✩不明のストリーキングを決行させようとする犯罪指南書など、この場で粛清しなければならない。






 ファサ……






 そんな強い決意を固めたところで、不意に大きく風が吹いた。


 それにより、パラリと本が大きくめくれ、次のページの文字が僕の目に飛び込んでくることになる。








 まぁ落ち着いてください


 これは儀式です。代償もなくモテたいだのと、あまりにも都合が良すぎるお話。


 何事にも対価というものは必要なものなのです








「…そりゃそうかもしれないけどさぁ」




 理不尽な要求を突きつけてきた直後に論理的な説得の文面を見て、僕はライターに火をつけながらも、少しだけ冷静さを取り戻していた。


 まぁ確かに黒魔術だし、何もせずに見返りがあるとは思っちゃいない。


 トカゲとか魔法陣とか、なにかしら準備するものは必要だろうと思っていたが、裸になるのはさすがに抵抗が…




 常識と羞恥心の狭間で葛藤していると、また本のページがペラリとめくれる。


 今度は風は吹かなかった。ひとりでにめくれたのだ。だけどそのことに疑問を覚える前に、僕は本に書かれた文字に釘付けになる。










 貴方、モテたいんですよね?


 モテモテになりたいんですよね?美少女とチュッチュラブラブディスティニーになりたいんですよね?




 なら、脱ぎなさい


 その先に、貴方が求めた楽園があるのだから










「…………」




 それを見て、僕は―――己の服に、手をかけた。






 そうだ、僕はモテたい。どうしてもモテたい。そのためにこの死ぬほど胡散臭さMAXの本にまで手を出した。


 僕はとっくに堕ちていたのだ。なら、迷う必要など、最初からなかったんだ。




 シャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、靴を脱ぎ。


 全て投げ捨てた後、僕は最後の砦に手をかけた。


 そこでしばし、逡巡する。




「…………」




 これを脱いでしまえば、もう言い訳などできないだろう。


 誰かに見つかれば、僕はまごうことなき露出狂の烙印を押されることになる。


 屋外で裸体を晒す犯罪者だ。




「それでも…!」




 僕は…本物が欲しい。




 本物の彼女が欲しい。もう二次元なんて嫌じゃあ!イチャイチャしたのぉっ!




 覚悟を決めた僕は、そのまま一気に脱ぎ下ろした。


 そして僕は今ここに、生まれたままの姿を晒したのだ―――!


















「Foooooooooooooo!!!!イヤフゥゥゥゥゥ!!!!」




 そして話は冒頭に戻る。全裸になった僕は集めた薪で焚き火でしながら、周囲で踊り狂っているというわけだ。




「ウッヒョー!ウヒョヒョーイ!」




 これでわかってもらえたと思うけど、僕は決して頭まで狂ったわけじゃない。


 踊り始めて5分もしないうちは羞恥心で死にたくなったし、いっそこのまま階段を駆け下りて見せつけてやろうかとも思ったさ。


 だけど、10分が過ぎる頃には慣れ始め、20分も経てばすっかり全裸踊りの虜になっていた。


 もうすぐ30分経つが、気分はもう絶好調でこうして叫び声を上げれる余裕すらできている。




「見ろぉっ!もっとみんな僕を見ろぉっ!」




「…………」




 なんという開放感だろう。これが夏の魔力というやつなのだろうか。


 肌を伝う汗の感触も心地いい。水着とは違う、身一つで全てをさらけ出す独特の高揚感がそこにあった。




「ウホホホーイ!ウホッ!ウホーッッッ!!!」




 そのままの勢いで、僕は大きく胸を叩いた。ドラミングだ。


 雌に対する求愛の証。僕の場合はこの儀式の先に待っているだろう、まだ見ぬ美少女に対する愛の証明だった。




「あの…」




 どうか伝わっていてくれと、そう願いを込めて僕は強く強く胸を叩く。


 周りの声なんて、聞こえないほどに。




「これで僕もリア充だぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!」




「あのー…?」




 感極まった僕は勝利の雄叫びをあげた。


 もうすぐ約束された勝利の30分だ。これで僕は、僕はついにモテモテに…!


 そう思うと涙が出そうだ。苦節15年。苦難の日々がついに報われようとしているのだから。




「うっ、ううう…」




 というか実際出てしまった。まぁ仕方ないよね、男の子だもん。


 でも困ったな、今の僕は裸一貫。なにひとつ身につけていない原初の身体だ。


 ハンカチは制服のポケットの中だから、ドラミングを中断して取ってくるしか…




「あ、これをどうぞ」




「あ、どうもどうも」




 悩んでいる僕の目前に、差し伸べられる手があった。


 仰向けに差し出された手のひらのうえに乗っていたのはハンカチで、僕が所望していたものだ。ありがたく受け取って、僕は目の端に零れた涙を拭いていく。


 うーん、スイーティー。いい匂いだ。これは間違いなく女の子のも、の…




「…………」




 女の子…?僕はひとりで踊ってて、ここには誰もいるはずもない。


 じゃあ、このハンカチを手渡してきたのは…




 ギギギと音が鳴るほど、僕は震えながら顔を上へと上げていく。


 どうかハイになった僕の脳内が生み出した幻影であってくれと祈りながら。


 だけど、現実というのは常に無情だ。




「…………?」




 そこには逆光で顔は見えないけども。


 確かに誰かがそこにいた。




 そこにいて、僕の裸をガン見していたのだ。


 それに思い至ったとき、僕は自然とヒュウと空気を大きく吸い込んでしまう。


 そして、




「い……」




「い?」




「いやあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」




 叫んでいた。


 もちろん叫び声を上げたのは女の子じゃない。僕だ。


 僕の絹を切り裂くような悲鳴を聞いて、女の子はポカンとしていたようだったが、これはチャンスだ!




「え、ちょ」




「覗き魔さんのエッチィィィィィィ!!!」




 畳み掛けるように甲高いアルトボイスで絶叫した後、僕は即座に足元の衣類を回収する。




「ひどいわ、もうお嫁にいけない!!!」




「え、えええ!普通逆じゃない!?」




 そのまま捨て台詞を残し、僕はその場を逃走した。


 とはいえ階段を下りるには彼女の側を横切る必要があるし、服も着る必要があるため逃げる方向は真逆。本殿のほうである。




「どやんす、どやんすぅぅぅぅぅ!」




 裏手に回った僕は素早く服を着込んでいく。


 僅か5秒。早着替え選手権というものがあるならば、入賞を狙えるのではという好記録だ。


 これで僕は人間に戻れたわけだが、安心するにはまだ早い。女の子がいつこちらに来るかも分からないのだ。はっきり言って、僕は追い詰められていた。




 なら、こういうときは先手必勝!やられっぱなしじゃ終われない!ここからは僕のターンだ!




 僕は決意を秘めたまま、勢いよく足を前へと踏み出した。ここからがどこにでもいるモブキャラの腕の見せ所だ!




「へ、変態だぁぁぁぁ!!変態がいたぁぁぁぁ!!!」




 転がるように裏手から転がるように本殿へと姿を現した僕は、息も絶えだえに大声で叫んでいた。


 自らの無実を証明するため、一世一代の大博打を打つためだ。




「え!?え!?」




「あ!?き、君!こんなところにいちゃ危ないよ!向こうに全裸で走ってくる変態がいたんだ!」




 呆然とその場に立ち尽くしていた女の子を見つけると、僕は急いで近くに駆け寄る。


 すぐにこの場から離れるためそのまま強引に手を取った。


 め、めっちゃ柔けぇ…え、これ同じ人類の手なのか?種族間違ってない?




 女の子と接触したことにより、少しばかり欲望が漏れてしまったが、すぐに雑念を振り払う。これではダメだ。一刻も早く現場から離れなければ…!




 もちろんここまでのことは全て演技である。


 女の子は呆気に取られていたが、これでいい。


 このまま全てをうやむやにして、なかったことにしてやるぜ!


 さぁ希望の未来へレディゴー!




「さぁ、早くここから…」




「あの、下峯くんだよね。私と同じ学校の一年生の。私、及川翔子っていうんだけど…」




 名前を呼ばれたことにより、僕は身体の動きを停止しフリーズした。


 同時に彼女が名乗ったことも、僕の思考を停止させ、さらなる混乱を引き起こしていた。




 な、なぜだ!?及川翔子!?学校一の美少女じゃないか!


 なぜ僕の名前を知っている!?同級生!?僕と彼女はお知り合いってこと!?いつの間にフラグ立ってたの!!??




 気が動転した僕は、とにかく誤魔化さねばと気が定まらないまま口を開いた。




「ナ、ナニイッテルデスカー?ソンナイケメンボクシリマセーン」




「いや、下に置いてる自転車に名前書いてあったんだけど…」




 Shit!なんて失態だ。まさかそんなところから足がつくとは!


 だ、だけど落ち着け下峯宇海。まだ大丈夫。名前がバレてるからなんだって言うんだ。まだいくらでも誤魔化しは効くはず…




「そ、そう言われると僕はそんな名前だったかな?でも、僕はたまたま神社に寄っただけで、決して裸踊りをしていた変態と同一人物ってわけでは…」




「動画」




「へ?」




 どうが?どうがってムービー?




「スマホで動画撮ってるんだよね。凄いおかしな光景だったから、保存しなきゃって。ヤバイ儀式をしている人だったけど、それを見たら多分下峯くんと間違いなく一致…」




「許してください、なんでもしますから」




 僕は彼女が言い終わる前に、その場で土下座を決行していた。


 同時に僕は呪う。現代社会の文明の発達ぶりを。


 科学の粋を結集したスマホひとつでなんでもできてしまうのは便利な反面、現代の闇を映し出す影でもあるのだろう。


 ボタンひとつであっさりと証拠を握られるのだから、真っ当に生きてる凡人にとってあまりにも生きづらい世の中だ。ちょっとしたボタンの掛け違いで、こうも簡単に道を踏み外すことになるのだから。




「なにも土下座しなくても…とりあえず、事情を話してよ」




 あまりの理不尽に涙を流していると、頭上から声が降ってくる。


 及川の声はどこか優しかった。どうやらこちらを気遣っているらしい。


 話す機会はなかったが、彼女は存外穏やかな性格の持ち主なのかもしれなかった。




「悪魔…」




「へ?」




 ならば、まだワンチャンあるかもしれない。僕は彼女の優しさにつけ込もうと腹を決めた。




「悪魔の仕業なんだ!さっきまでの僕は僕じゃない!全部悪魔がやったことだったんだ!僕は騙されて黒魔術の儀式をやってしまっただけで、純粋な被害者なんだよ!」




 僕は絶叫した。全てを悪魔に擦り付け、自らは罪に問われんがために。彼女の同情を買うためにだ。


 なにやら近くでバララララと凄い速さでページがめくれる音が聞こえる気がするが、それはおそらく気のせいだろう。


 てめぇざけんな!全部自分で選んでやったことだろうがと講義しているように思えるが、そんなの僕の知ったことではない。口が聞けないのが悪いのだ。物言えぬ本である己の身を、せいぜい後悔するといい。






「え、でも明らかにノリノリで…」




「悪魔の仕業なんだ!!!!!!!!!!!」






 及川の疑問の声を、僕は大声で誤魔化した。


 全てこれで対処する腹積もりだ。勢いでなんとかする以外、僕が生き残る道はない。




「ええ…じゃ、じゃあその悪魔になにを願ったの?」




「う、それは…」




 らちがあかないと思ったのか、及川は質問を変えてきた。


 確かに行き着く疑問はそこだろう。これもできれば誤魔化したいが、これ以上の言い訳は正直苦しい。




「どうしたの?よっぽどのことをお願いしちゃったから、身体を乗っ取られたのかもしれないし、内容をしれたらもしかしたら対処できるかも…」




 及川の声が耳に痛い。内容が内容だけに、真実を告げるのが滅茶苦茶気まずいとしか言いようがないのだ。




「そ、その…」




「うん、なに?」




 さらに言えば彼女の目も僕の罪悪感に拍車をかける。


 純粋にこちらを心配している眼だ。僕のありのままの姿を見たというのに嫌悪するわけでもなく、こうして気にかけてくれるのだ。


 普段カースト下位に甘んじている僕のような陰キャ男子は、こういうカーストトップの子が時折見せる優しさには死ぬほどチョロい。




「モテ、たくて…」




「へ?」




 こんな目を寄せられては良心も限界だ。あまりの呵責に、僕がつい真実を口走ってしまったのも、無理からぬことではないだろうか。




「女の子にモテたくて、黒魔術の儀式に手を出しました…裸で踊れば、モテモテになれるっていうから、つい…」




 あまりの恥ずかしさに舌を噛みちぎってしまいたい衝動に駆られながら、僕は全てを話していた。


 言っててなんだが、これはひどい。僕の告白を受けて、及川も理解が及ばないのか、キョトンとした表情を浮かべていた。




「…………マジで?」




「マジっす…」




 数秒経ち、彼女の口からやっと出てきた言葉はそれだけだった。


 彼女のような陽キャ中の陽キャには、儀式を行ってまでモテたいというのは想像もしていないことだったに違いない。


 格の違いを思い知らされるようで、僕は穴があったら入りたかった。




「…………ぷ」




 ショボくれながら地面にのの字を書いてると、ふと空気が漏れる音がした。


 なんだと思い顔を上げると、そこにあったのは及川翔子の顔である。


 学校一の美少女と称される彼女の顔は、今明らかに笑いをこらえるために頬が膨らみ、思い切り引きつったものへと変わっていた。




「あの、及川さん?」




「ぷ、ぷぷぷ……あ、あははははははははははははははははは!!!!!!」




 僕が声をかけた次の瞬間、彼女は決壊したダムのように、大きな笑い声をあげていた。




「な、なに?モテるためって!モ、モテるためにあんな裸踊りして、奇声あげてたの!?ぷ、あはははははは!ヤバイよマジで!面白すぎでしょ下峯くん!マジヤバイって!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」




 後半は明らかに美少女がしていいわけがない声で笑いながら、及川はその場で転げまわっていた。


 爆笑とはまさにこのことだろう。恥も外聞も可愛さすらもかなぐり捨て、彼女は全力で笑い続けている。




「(°∀°)アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒゴッ!!!ゴホッ!ゴホッオエェェェー!!!」




「oh…」




 こうなるとかえって冷静になるのは僕のほうだ。


 仕舞いには咳き込むまでに至った彼女を見てドン引きしたが、そこまで笑われるともはやこちらとしても乾いた笑いしかでてこない。


 僕は彼女の笑い声が収まるまで、その場で見守るしか選択肢がなかったのである。




 ぱら、ぱら、ぱらと、時折響くページの音が、ドンマイと優しく慰めてくれてるように僕は感じた。












「ご、ごめんね下峯くん。背中さすってもらっちゃって…こんなつもりはなかったんだけど、あまりにも面白すぎたから…」




「いや、別にいいよ。確かに傍から見ると面白いもんね、しょうがないよね…」




 数分後、僕は及川の背中をさすっていた。


 あまりにも笑いすぎて、彼女が過呼吸を起こしたためだ。


 最後まで爆笑し続け、終いにはコヒューコヒューと浅い息をしだした彼女の口に慌ててビニール袋を押し当て、介抱しながら及川が落ち着くまで背中を懸命に撫でていたのだが、回復したようでなによりである。




「ほ、ほんとにね…ぷ、くくく…ご、ごめんね。思い出したら、また…」




 あれだけ笑ったというのに、まだ収まらないようだ。


 どうやら僕はよほど彼女の笑いのツボを刺激したと見える。ぶっちゃけ、これっぽっちも嬉しくない。




「とりあえず今度は笑いすぎないよう気をつけてね…僕もう帰るから、できれば動画は消しといてもらえると助かるかな…」




 そう言って僕は立ち上がった。辺りはもうすっかり暗くなってしまっている。


 まだ消えぬ焚き火の明かりがプスプスと燃えているため、互いの顔色くらいは伺えるけど、僕はもう疲れていた。




(結局あの儀式インチキじゃねーか…裸踊り見られて笑われるし、もう散々だよ…)




 美少女と接点ができたとはいえ、儀式の効果などまるでなく、それどころか弱みを握られたも同然なのだ。これでテンションが上がるわけもない。


 及川に見られないよう、僕はこっそりその場で嘆息した。




「ひひひひ…あれ、もう帰るの?花火やらない?」




「ああ、それね。及川がやればいいよ。なんかもう、そんなテンションでもないし」




 及川を助けるために中身を全部地面に落としたため、今この場には僕が買った花火のいくつかが散らばっていた。


 それらを彼女は指差していたが、こちらとしてはもう遊ぶ気力もない。


 どうぞご自由にと声をかけ、その場から立ち去ろうとしたのだが…僕はその場から動けなかった。




「……なに?」




「一緒にやろうよ、そのほうが楽しいし」




 気付けば及川が僕の手を掴んでいたからだ。


 疑問の声を投げた僕を無視するように、彼女はさきほどまでの爆笑フェイスとは違う、嬉しそうな無邪気な笑顔を浮かべていた。




「いや、だからそんな気分じゃ…」




「えー、じゃあこの場に彼女を置いてくの?薄情者だー」




 責めるようにぶーたれるが、そんな義理は僕には…




「…………え?」




「ん?どうしたの?」




 歩き出そうとしたところで、僕は思わず立ち止まる。


 なんだか今、とっても聞き捨てならない言葉が聞こえたような…




「彼女って言葉が、今聞こえたような気がするんだけど…」




「うん、言ったよ。これから私達付き合うんだから、当然でしょ」






 …………パードゥン?






「…………why?なぜ?」




「ん?彼女欲しいんじゃないの?」




 いや、欲しいです。滅茶苦茶欲しい。死ぬほど欲しいのは事実だけど、どうして及川が僕の彼女に立候補するのか、その繋がりがまるで分からない。




「いや、クッッッッッソ欲しいけど…なんで?」




「そりゃ面白かったからだよ。あんなに笑ったの、人生で初めてだからさ。君といたらこれからも面白そうなことたくさん起こりそうな、そんな予感がするんだよね。だから、下峯くんとならいいかなって」




 ニシシと楽しそうな笑顔を浮かべる及川の顔は、学校で見せるミステリアスな表情とは掛け離れたものだった。


 それを見て、僕の心臓はドクンと跳ねる。


 可愛いと、ただ純粋にそう思った。




「……もしかして、私じゃ嫌だった?」




 思わず固まる僕を見て、及川は不安そうな顔をしていた。


 振られるかもと、そんなことを思っているのかもしれない。


 それに対し、僕は…










「…………んなわけあるかあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!こちらこそ、よろしくお願いしますぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!」






 今日だけでもう何度目になるかも分からない叫び声を張り上げた。


 だけどそれはきっと、これまでの人生で一番となる歓声であったことだろう。






「ヒャッホゥゥゥゥウゥゥゥゥゥゥ!!!!やったぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」






 勢いのまま花火の袋を破り捨て、両手に花火を掲げた僕は火をつけたそれを思い切り振り回した。


 先ほどのように踊り狂う僕を見て、及川もクスクスと笑っている。












 ―――ほらね、黒魔術の効果、バッチリだったでしょう?












 喜びの声を挙げる僕の耳にそんな囁きが届いたような気がしたけど、それを気にする余裕などない。


 夏の近づいた神社で、大きな花が遅くまで舞い続けていた。

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女の子にモテたくて仕方なかった僕はヤケクソで黒魔術に手を出してしまい、神社で踊り狂っていたら何故か学校一の美少女が彼女になっていた件について くろねこどらごん @dragon1250

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