第6話 魔導人形の制作

「こちらがご注文のお品です」


 箱詰めされている金属製の部品パーツを机の上に置いた男性はミリアに注文品を見せる。

 ミリアが部品を注文してから二日が経過した。

 工具店につい先程ミリアが注文した部品が届いた。そして部品が届いた後のタイミングでミリアが工具店に訪れた。

 届いた部品に目を通していくミリアの傍にはネールがいた。


「たった二日で注文した部品揃えるなんて、私が言えた事ではないですけど大変じゃなかったですか?」


 ミリアは恐る恐る店員の男性に尋ねると男性は表情を変えないまま答える。


「確かに普通の店舗なら二日という短期間では入荷は不可能ですね。ですがこの店と提携している運び屋のおかげでそれが可能になっているんです」


 店員の男性が説明を聞くとミリアは「へぇ」と声を漏らした。


「けどこれだけの部品、大の男でも運ぶのは一苦労だぞ」


 そう言うと店員は机に置いた箱に入った部品に視線を向ける。


「台車ってありますか?」


 ミリアが店員の男性に尋ねると、店員の男性は「ありますよ」と答えて店の奥へ入っていく。少しして店員の男性は台車を引きずりながらミリアの前に現れる。


「台車で運ぶにしても女の子一人で運ぶのは一苦労だぞ」


 店員がそう言うとミリアは握っている杖で部品が詰められている箱を小突く。

 すると金属製の部品が詰められている重量のある箱は途端、宙に浮く。宙に浮いた箱はそのまま台車へ移動して積まれる。


「私は魔法が使えます。これくらいの重さの荷物なら台車があれば私くらいの力でも運べます」


 そう言うと台車に乗った荷物をミリアは台車の取っ手を掴み押していく。

 ミリアが押す方向に箱が積まれた台車は動いていく。その動きは大の大人が担ぐのがやっとの重さの荷をいとも簡単に動かしている。


「運び終わったら台車を返しに来ます」


 ミリアは店員にそう言うと店の外に出る。



「ふう。運び終わりました」


 ミリアが採った宿の部屋に部品が詰まった箱が置かれるとミリアは大きく息を吐いた。


「すみませんネール。台車をお店に返してくれませんか?」


 大きく息を吐いた後、ミリアはネールに台車を返す作業を頼む。その言葉を聞いたネールは溜息ためいきを吐いた。


「一度に全部運ぶから疲れるんだ。魔法を使って運ぶ力を強くしてもものには限度がある。これからは気を付けろよ」


 ネールはミリアに注意を口にする。そしてミリアが運んできた箱を載せていた台車の取っ手に手をかけて台車を運んでいく。

 口では文句を言いつつもネールは台車を元の店に返す気はあるようだった。

 ミリアはネールが台車を返しに行くと、少し休憩を挟んだ。そして少しの間休憩をすると、箱詰めされている部品を床に並べ始めた。


 部品を床に並べた後、ミリアは床に折りたたまれた紙を広げる。

 床に広げた紙——設計図を見ながらミリアは工具箱を開けた。

 工具箱から組み立てるのに必要な工具を取り出す。そして部品を一つずつ手に取って設計図通り組み立て始める。


「台車を返したぞ」


 部屋の扉を開けて中へ入るネールはミリアの頼んだ通り第五区の工具店まで台車を返しに行った。その事を伝えると、ネールの目の前に広がったのはネールの声が届かない程魔導人形の組み立てに集中しているミリアの姿だった。

 ミリアは細かい部品を組み合わせて精密な部分を組み立てているのか、手で直接部品を触っておらず、工具越しに掴みながら部品を組み立てている。


 ミリアが人形の組み立てに集中している中、ネールは広がっている設計図や部品で足のやり場に困る床を潜り抜けて壁際に移動する。

黙々と部品を組み立てていくと、ミリアは突然「ふぅ」と息を漏らした。その後肩を回して脱力する。


「あっ、戻って来たんですか。ネール。台車の返却ありがとうございます」

「あぁ、一時間近く前に伝えたんだけどな」


 ミリアの言葉にネールは呆れた口調で返した。

するとミリアは一区切りついたのか組み立てた部品達を設計図の上に置いた。


「どれくらいかかりそうなんだ?」


 床に座るネールは魔導人形を組み立てているミリアに完成するのに有する時間を尋ねた。


「そうですね。早く見積もっても三日。長く見積もっても一週間と言ったところでしょう。なにしろ霊脈の魔力を動力源にする機構はどうしても複雑ですから時間がかかってしまいますね」


 ネールの質問にミリアは丁寧にその理由まで答えた。


「それだったら生体部品バイオパーツを使えば手っ取り早いと思うが——」

「その案だけは無しです」


 ネールの提案する言葉に食い気味に否定するミリアはネールを見た。


「確かに生体部品を使えば動力源の魔力の補給は自動的にできます。けどそのために何かの肉体を使うのは私のポリシーに反します。それはネールが一番分かっているはずです」


 ミリアがつくったネールは何を隠そう、今まで魔導人形の制作で主流だった生体部品のような有機的技術をを一つも使わない無機的技術のみで稼働している魔導人形だ。

 ミリアにはネールを完成させたプライドもあるのだろう。生体部品とネールが口にした直後、すぐにその言葉を否定した。


「……分かった。ミリアの好きにすればいい。ただ、ここに泊まる日数が増えれば増える程宿代がかさむ事だけは念頭に入れろよ?」


 ネールは溜息をもらしてミリアのポリシーをくみ取った。その後金銭的な現実も合わせて注意を受けるとミリアは表情を渋くする。

 今回の魔導人形を組み立てるのに必要な費用は全てミリア持ちだ。かなり値引きしてもらってはいるが、その出費はかなり大きい。その上組み立てに時間を使い過ぎる事があれば宿代も馬鹿にならない。懐が冷え切るだけだ。


「……分かってます。できる限り早く組み立てます。それでいいでしょ」


 そう言ってミリアはその場で伸びをする。その後再び部品を手に取って魔導人形を組み立て始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る