第5話 解決策

 ミリアが訪れたのは王都第四区フォースエリア市場。

 生鮮食品から魔法材料までありとあらゆる商品が溢れ返っている取引市場だ。

 そんな場所に訪れたミリアとミリアについてきたネールはとある天幕へ到着した。


「いらっしゃい! おや綺麗な嬢ちゃんだね! ここに何か用かい?」


 天幕の下に立っている体格のいい男性はミリアの姿を見て話しかけた。

 その男性の前には様々な色の鉱石が並んでいた。


「あの、紫の魔鉱石マギスフィアは置いてありますか?」


 そんな男性にミリアは口にした商品が置いてあるか尋ねた。


「紫の魔鉱石ね! それならあるよ!」


 男性はそう言うと足元の箱をミリアの前に移動させて見せる。見せた箱の中から紫色に輝く水晶の原石のようなものが見える。


「どれも大きさや純度は申し分ない! 魔法に使うなら問題ないぜ!」


 男性はそう言うとミリアは前に出された紫の魔鉱石を手に取る。

 男性の言う通り大きさや純度はかなり良いものだった。ミリアは手に取った紫の魔鉱石を元々置いてあった箱に戻す。


「紫の魔鉱石を六個買います。いくらになりますか?」


 ミリアは男性に買う商品の値段を尋ねる。すると男性は指を三本立てた。


「今回は特別! 銀貨三枚で売ってあげるぞ!」

「そんなに安くていいんですか⁉」


 男性の口にした値段にミリアは驚く。魔鉱石は良いものであればある程値段も跳ね上がる。専門店で買うとなればこの魔鉱石なら一個当たり銀貨一枚でも安いくらいの代物だ。それを六個買って銀貨三枚は安すぎる。


「これから贔屓にしてくれると約束してくれればこの値段で売ってやってもいい!」


 男性の言葉にミリアはようやく納得する。

 これほど安く売るには何かあるとは思っていたが、常連客になるという条件に出すとは目ざとい。


「分かりました。これから魔鉱石を買うならこの店にしますね」


 ミリアは笑顔を浮かべて返答した。


「毎度あり!」


 そう言うと紫の魔鉱石を布袋に詰めてミリアに渡した。そしてミリアは銀貨三枚を男性に渡した。

 代金を払うとミリアは踵を返した。



 王都第二区へやって来たミリアは前に訪れた工具店へ入店した。


「いらっしゃい……おや、この前のお嬢さん。また何か買い物かい?」


 店員が前に訪れたミリアに声を掛けるとミリアは手元に数枚の紙を持っていた。


「すみません。この紙に書かれた部品パーツを取り寄せてもらえますか? できれば至急お願いします!」


 店員の前に何か書かれた紙を見せると矢継ぎ早にミリアは紙に書かれた部品を注文する。


「わっ、分かりました。すぐに取り寄せます。ですのであと二日は待っていてください」


 まくしたてるように言ったミリアの言葉に少々困惑した様子で店員は答えた。

 するとミリアは「ありがとうございます」と礼を言って店から出て行った。


「……まったく、いきなりどうしたかと思えば」


 宿に戻ったミリアは床に大きな紙を広げて手に持っているペンで何か書き込んでいる。

 床に置かれている紙には人形のような形を描く線が描かれていた。


「まさか自腹で魔獣払いの結界けっかいを張る魔導人形を作るとは。お人好しなんだかバカなんだか分からんな」


 ネールは呆れて床に座りながら黙々と魔導人形の設計図を書き進めるミリアに呆きれた言葉を呟く。その言葉が耳に届いていないのか、ミリアはネールの呟きに何も反応しなかった。

 そして黙々と魔導人形の設計図を描き込んでしばらく経過した。

 部屋の窓から見える空はすでに夜の帳に染まっていた。


「ふう~。設計し終わった~」


 息を吐きながら額の汗を拭いミリアは肩の力を抜いた。


「あれ? 部屋に灯りが——」

「わしが部屋を明るくした」


 いつの間にか部屋に光が灯っていた事に気付くとミリアの傍からネールの声が聞こえた。


「ありがとうございます。ネール」


 そう言うとミリアは床に広げた設計図を折りたたみ始めた。

 片付けをするミリアをよそにネールはミリアにマグカップを渡す。


「ほら。集中して頭が疲れただろ」


 ネールが渡したまぐ顔王を受け取るとミリアはマグカップの中には褐色の液体が入っていて甘い香りが漂ってくる。

 ミリアはマグカップの中に入っている液体を口にする。


「……美味しい」


 口に含んだ液体は温かく程よく甘い。鼻腔を通る甘い香りはとても心地よい気分になる。


「ディアナも好きだったお茶だ。いつも徹夜した時は良く飲んでたな」


 ネールはそう言ってミリアがお茶を飲んでいる姿を見ながら話す。

 その話を聞いたミリアはマグカップの中に入っているお茶をもう一度口に含み飲む。

 心が落ち着く香りや温度はネールが気を使って淹れたのだとすぐに分かった。

 そのお茶を飲むミリアは集中力が切れてどっと圧し掛かってきた疲れがやすらぐ。


「今日はもう遅い。今日はゆっくり休め」


 ネールはミリアの体調を気遣っての言葉にミリアは頷く。


「そうします。流石に今日一日色々あり過ぎて疲れました」


 ミリアはそう言って腕を天井に向かって伸ばして背中を伸ばす。

 そしてミリアは身に付けている三角帽やローブを外して就寝時に着る服へ着替える。

 着替え終えたミリアは白の寝巻を着てべそに倒れ込む。

 ベッドに横になったミリアはものの数秒で寝息を立てだした。


「ったく。まただ」


 ネールはそう呟くと寝ているミリアの足元の毛布を掴みミリアの体に掛ける。

 そしてネールは床に座り目を閉じる。ネールの体から聞こえる微かな起動音が聞こえなくなるとネールは全く動かなくなる。

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