第4話 旅の余暇

「疲れた~」


 王都第四区フォースエリアの宿屋。

 ミリアは一番安い一人部屋を取って部屋の中へ入るとすぐさまにベッドの上に倒れ込んだ。

 ベッドのクッションによって倒れ込んだ勢いが殺されるとミリアの体をクッションが包んだ。

 ベッドの上にうつせで倒れたミリアをよそにネールは部屋の壁に寄り掛かりながら床に座った。


「明日には王都を出るか?」


 ネールはベッドにうつ伏せに寝転がるミリアに尋ねた。するとミリアは言葉を発さずにベッドに倒れ込んだままだった。するとしばらくしてミリアはベッドにうずめていた顔を上げて口を開く。


「その方が面倒事を減らせるかもしれませんね」


 ミリアはネールの言葉に答えると再び顔をベッドへ埋めた。

 そして少ししてミリアはそのまま動かなくなり、小さく寝息を立て始めた。


「ったく、そのまま寝たら風邪ひくぞ」


 ネールはやれやれと息を吐いてその場から立ち上がる。

 ミリアが寝息を立てるベッドへ近付くとネールはミリアの足元の毛布を掴み管状の腕を伸ばしてミリアの体に掛ける。

 毛布をかけ終えるとネールはミリアの寝ているベッドを背もたれにして床に座る。するとネールのボディから聞こえるわずかな物音がぴたりと止む。するとネールも目を閉じて動かなくなった。

 そしてこの後数時間ミリアとネールは眠った。



「……っう……」


 枯れた声が部屋に小さく響く。

 意識がはっきりしていくミリアは体にかかっている毛布に気付くと寝ぼけ眼で周囲を見渡す。

 ベッドのすぐ傍に座っているネールの姿が映った。


「……起きたか。ミリア」


 ネールは顔だけ振り向いて寝起きのミリアを見る。


「……これ、ネールがかけてくれたのですか?」

「他に誰がかけてやれる奴がいると思ってるんだ?」


 寝起きの枯れた声でミリアは不意に寝てしまった後に毛布を掛けてくれたのか尋ねると、ネールは肯定の意の言葉を返す。


「ありがとうございます」


 ネールの返事を聞いてミリアは感謝の言葉を伝えた。えうるとミリアはあくびを漏らす。その後ミリアの腹部から気持ち良いほどの腹鳴が部屋中に響き渡る。

 あくびを漏らしまだ意識がはっきりしてなかったミリアは自身の腹からなった腹鳴に恥ずかしさでいっぱいになる。


「ミリアが寝る前に食事できなかったからな。腹が鳴るのも当然だ。これから飯を食べに行けばいいんじゃないか?」


 ネールは先程の魔獣の襲撃で食事できなかったミリアに今から食事をる提案を投げかけた。するとミリアはまだ腹が鳴った恥ずかしさがぬぐえず顔が赤かった。


「わしはここで待ってる。その方がいいだろう」


 ネールは床に座りながらミリアに食事に行く事を提案するとミリアはベッドから降りた。ベッドから降りるとミリアはネールの方をのぞき見る。


「だったらネールも一緒に行きましょう」



 ミリアがそう言うとネールは一瞬呆然とした表情になる。


「わしは普通の人のように飯を食う必要がない。わしが同行する意味はないぞ」


 そう言うとネールはミリアが食事に誘ってくる意味が分からず不意に言葉を返す。


「私は一緒に食事する時の話し相手が欲しいって何度も言ってますよね。一人で食べてると少し寂しいんです。師匠といた時も一緒に食べてたじゃないですか? ネール」


 そう言うとミリアはネールに視線を合わせた後身支度をした。

 ミリアの言葉を聞いたネールは小さく息を吐いた。すると身支度のできたミリアが部屋から出ようとする後を追った。



 ミリアとネールは王都第四区の大通りを進み目に入った食事処へ入った。


「時間帯もあっていてますね」


 今は昼下がりの時間帯。昼食の時間にしては遅い時間だ。

テーブルに座るミリアと相対あいたいしているネールは器用に椅子に座りミリアの顔を見る。


「そうだな。人も少ないしこれならあまり気を遣わずに飯が食べられるな」


 ネールはミリアを見てそう言った。

 やはりネールの姿は人の目を引く。今も食事処の中の少ない客の視線はネールに集中する。

 ミリアはそんな事を気にせずテーブルの上のメニュー表を見る。そしてミリアは店員を呼んだ。

 店員を呼んだミリアは店員に料理を注文した。注文を聞いている店員も一瞬ネールの姿に奇異の視線を向けていた。

 そんな事など気にも留めずネールはテーブルに管状の腕を載せて体を楽にした。


「それにしても昼間の魔獣、どうして王都を襲ったんでしょうか?」


 ミリアは話題を先程の魔獣の話題を振った。


「あの魔獣は翼があった。王都の壁を空から超えて降りてきたのだろうが、確かに不自然だな」

「はい。空から王都に入るなら人がにぎわっている姿は見えているはずです。警戒心が強い魔獣なら人の多い王都に降りるなんて考えにくいです。まるで誰かに誘導されたみたいです」


 ネールと今回起きた不自然な出来事に話を膨らませているとミリアたちが座るテーブルに店員が料理を運んできた。

 ミリアはテーブルに置かれた料理を見ると歓喜かんきの表情を浮かべる。その直後腹部から子気味いい腹鳴が鳴った。

 その途端、歓喜かんきの表情が周知の表情に一変する。


「腹空いてるなら早く食べた方がいい。冷める前の方が料理は美味しいんだろ?」


 そう言ってネールは笑みを浮かべてミリアに料理をすぐに食べるよう伝えた。

 ネールの言葉を聞いたミリアはすぐに料理に手を付ける。

 テーブルに置かれた料理はライスにスクランブルエッグ、サラダ、焼かれた厚切りベーコンにコンソメスープと極めてシンプルだった。

 そんな料理をミリアはフォークとナイフを上手く使い綺麗に食べていく。


「それにしてもこのままじゃ王都に侵入した魔獣を倒すだけじゃ根本的な解決にならないですね」

「そうだろうが、魔獣の被害が起きている以上、中央区セントラルエリアの人間も対策を立てるはずだ。わし達はそのまま王都を去った方がいいだろう」


 ネールはミリアが食べながら会話をしていると、ミリアはバツが悪い表情を浮かべる。


「でも王都の住人が困ってるのに私達は知った風な顔をして旅を続けるのって何かこう……気持ち悪いです」


 ミリアの言葉にネールは溜息を吐く。


「だったらミリアはこの事態に何かできるか? 中途半端にかかわる事、それこそ王都の住人に迷惑だ。ミリアが魔法で王都を守り続ける事になったら旅はこの時点で終わりだ。ミリアはどっちを取るんだ?」


 ネールはミリアの当初の目的である世界中の旅と今回の事態を解決するために王都に残るかの選択をいる。

 その選択にミリアは口をすぼめて閉じる。

 数瞬おいてミリアは口を開く。


「そう言えばネールの動力源は魔鉱石ですよね?」


「そうだな。わしをつくったミリアが一番理解しているはずだが」


 ミリアの唐突な質問にネールは一瞬戸惑いながらミリアの質問に答えた。するとミリアは続けて質問をする。


「王都第四区って商品取引が盛んでしたよね?」

「そうだな。王都第四区にいれば手に入らない物は無い言われるくらいだからな」

「だったら魔鉱石も取引されていますよね?」

「詳しく知らないが、魔鉱石くらいなら取引してるんじゃないか」


 ミリアの意図が分からない言葉にネールは謎が引っ掛かるまま答えていく。するとミリアは途端に顔をはつらつとさせる。


「だったら根本的な解決ができるかもしれません!」


 そう言ってミリアはその場から立ち上がる。

 急に立ち上がったミリアに周囲の客はネールからミリアへ視線を変えた。

 そんな事を気にも留めず、ミリアは残った料理を急いで食べる。食べ終えたミリアは店員に食事代を払って店を後にする。そのミリアを追いかけるようにネールは速足でミリアを追いかけた。

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