第3話 魔獣
「これからどうする?」
唐突にネールはミリアに尋ねる。
第五区の大通りを歩く最中、王都にやって来た目的であるネールの
もう王都に滞在する理由はない。
「そうですね。たまにはちゃんとした食事処の料理を食べたいですし、ふかふかのベッドで寝たいですし、もう少しは王都に滞在したいですね」
ネールの質問に答えたミリアはネールの小さい歩幅に合わせて大通りを歩く。
そのミリアは頭の後ろに手を組んで周囲を見回した。
大通りを通る人達はミリア達を通り過ぎるたびにミリアの腰辺りまでの高さのネールに
無理もない。
球状の頭部と円筒状の胴体、管状の四肢でできた、見るからに人形と言った風貌のネールが歩いているのだ。目を引かないわけがない。
幸い奇異の視線を向けられるだけで直接何かしてくるわけではないのが救いだ。
そんなこんなしていると視線の先に食事処らしき
「あそこで食事してもいいですか?」
そう言うとミリアは店を指差してネールに食事をしてもいいか尋ねた。
「わしが食べるわけじゃない。ミリアの好きにしていい」
「じゃあ、お言葉に甘えます」
ネールの返事を聞いたミリアは指差した食事処で食事を
叫び声が聞こえた方を振り向くと、視線の先には獣らしき姿が映った。
シルエットだけなら獣と言って差し支えない。しかしその獣らしき姿はあまりに歪だった。
狼のような風貌だが狼にしては体格が一回り大きい。そして普通の狼には絶対にないもの、鋭い先端の一本角と体を覆える程大きな二枚の翼が生えている。
そして大きな体躯の胴体には水晶のような鉱石が剥き出している。
「何でここに魔獣が⁉」
ミリアは獣らしき姿——魔獣を見た途端、唖然とした。
魔獣は警戒心が強く人のいる場所へ現れる事は滅多にない。その上縄張り意識が高いので王都のような人だけでなく建造物が密集している場所に来る事などない。
その魔獣がどういうわけか
魔獣は背中に生えている翼を羽ばたかせ凶暴な顎から雄たけびを上げる。
すると魔獣を取り囲むように身の丈ほどある盾を構えた鎧を纏う人物達が現れる。
「王都の衛兵か」
ネールは大通りにいる人が魔獣の姿に恐怖を抱いて逃げ惑う名か、冷静な様子で魔獣と魔獣を囲う王都の衛兵を見る。
魔獣は盾を構えて自身を囲う衛兵に雄たけびを上げる。その直後、魔獣は盾に向かって突進する。
突進した魔獣の頭部に生えている角が縦にぶつかる。づると衛兵の構えた盾はまるで固まる前の粘土のようにひしゃげて凹み、そして貫通する。
貫通した角は衛兵の一人の腕に突き刺さる。
「ぎゃああぁぁぁぁああ——————‼」
角が突き刺さった腕に奔る痛みで絶叫する。
そんな事はお構いなしに魔獣は首を大きく振り突き刺した衛兵の一人を投げ飛ばす。
魔獣に投げ飛ばされた衛兵は角が抜けて血が溢れ出す腕を押さえて体中に奔る痛みに体を丸くする。
魔獣はそんな事などお構いなしに囲っている盾に突進して盾をひしゃげさせる。魔獣の突進によってひしゃげた盾はもはや使い物にならない状態になった。
そして翼をはためかせて衛兵を吹き飛ばすと続いて獰猛な視線を衛兵からその後ろにいる王都の住人に変える。
その瞬間、大通りにいる住人は恐怖に戦慄しながら魔獣から走りながら離れていく。
魔獣の突進に直接ぶつかり吹き飛ばされる者、魔獣をよけきれずぶつかって地面に倒れる者、他にも魔獣の動きで翻弄されて逃げた者同士がぶつかる者、様々いた。その人たちに共通するのは暴れ回る魔獣が勝離れようとしている事だ。
魔獣から離れるように人の波ができると魔獣は逃げようとする住人に向かって一本角を向ける。そしてそのまま突進しようと足を動かす。
突進する方向の先にはミリアとネールがいた。
このまま魔獣が突進すればミリア達にも被害が及ぶ。それを
その直後、突進しようとする魔獣は何かに顔を殴られたかのように不自然に顔が歪んだ。
何かに殴られた魔獣はそのまま体が地面に倒れる。
すぐに立ち上がろうとする魔獣は再び見えない何かに胴体を殴られて
今度こそ立ち上がろうとする魔獣は突如角が生えている近くの頭部が割られた。割られた部分から血が大量に噴き出したその瞬間、胴体に埋め請われている水晶のような鉱石——核に亀裂が奔った。
亀裂の奔った亀裂は徐々に広がり、そして大きな亀裂が奔って核が割れた。その直後魔獣の全身から力が抜けて地面に転がった。
それと同時にミリアの手元に描かれた魔法陣が消えていた。
「どうした⁉ 誰が魔獣を⁉」
魔獣に襲われた衛兵の一人は突然討伐された魔獣を見て驚愕の言葉を漏らす。
周囲にいる人達も急に討伐されて倒れている魔獣に驚きを隠せない。
「今なら気付かれる前に立ちされます」
そんな中、ミリアは魔獣から去っていった人の波に遅れて乗った。ミリアの呟くような小さな声を聴いたネールはこの場から去っていくミリアの後を追った。
「いいのか? あのままにしておいて」
ネールは若干速足のミリアに追い付こうと足を走らせながら尋ねた。するとミリアはネールの質問が聞こえたのか、数瞬間をおいて答える。
「傷を負った人たちなら後に来る治癒師に魔獣の傷を治癒するのが適任です」
「そうじゃない。魔獣を倒した本人がその場から去る事を聞いている」
ミリアの返答に間髪入れず直接的にネールは言葉の意図を伝えた。
魔獣を倒したのはミリアだ。
魔獣が衛兵に注意を引かれている間、ミリアは魔法を発動して風を操り魔獣を殴り、弱点である胴体の核を破壊した。
周囲にいた人からすれば誰が討伐したのか分からない程あっという間に、人混みに紛れて魔法を発動していたが、ミリアのすぐ傍にいたネールには気づかれていた。
「誰が魔獣を倒したかなんて些末な問題です。それより、見ましたか。ここに来た衛兵の姿」
「あぁ、見たぞ。魔獣が暴れ回る前から包帯が巻かれていたな」
ミリアの質問に返答するネール。二人が言うように鎧を纏っていた隙間から見えた部分から巻かれている包帯がちらりと見えた。
「あの様子からするに魔獣が王都に現れたのは初めてじゃない。それもつい最近も現れたと考えるのが妥当でしょう」
人の波に乗って魔獣が倒れた場所から離れたミリアは速足だった歩幅を先程までのネールに合わせた歩幅に戻した。すると歩幅を合わせてくれたミリアについてくるネールの進む速度も元に戻る。
「魔獣が人のいる場所へ移動するなんて普通は起きないぞ」
ネールの口にする言葉にミリアも同意する。
「確かに、そうですね。こんな事そう簡単に起きる……っ⁉」
ミリアは話している途中で何か気付いたかのような反応を取る。そしてミリアはそのまま口を開く。
「もしかしたら
ミリアの出した言葉にネールは思い出したようなはっとした表情を浮かべる。
王都に足を踏み入れる前、空を飛びながら王都を見た時、以前王都に立ち寄った時と違い地面に流れる霊脈の流れが明らかに乱れていた。
霊脈は自然そのものの生み出すごく少量の魔力の集合体の流れだ。
霊脈の流れは
「そうだとして霊脈におびき寄せられて王都に魔獣が来るのも引っ掛かる」
「確かに、まるで人為的に魔獣をおびき寄せている人がいるみたいです」
二人の疑問が晴れないままミリアとネールは魔獣が倒れている法とは逆の道へ歩き続ける。
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