人形師の魔女編

第1話 魔女ミリア

「そろそろ休憩しませんか?」


 杖の上に腰かけている漆黒の三角帽とローブを羽織った少女は目の前のものに声をかける。


「そうだな。もう移動して二時間は経つからな」


 漆黒の三角帽とローブを羽織った少女——ミリアと同じ杖の上に乗っている球状の頭部に円筒状の胴体、四肢は金属光沢の管でできている人形——ネールは人間味のある声と言葉でミリアの意見に賛同する。


 杖の上に乗って上空を移動するミリアとネールはゆっくりと下降する。

ミリアとネールは乗っている杖の高度が下がっていくとしばらくして地に足が付いた。

地に足が付くとミリアは先程目で乗っていた杖を持つ。


 さすがにミリアとネールが同時に乗って飛行できるだけの杖だ。ミリアの背丈ほどある長さに先端には魔力が宿った宝石のように輝く魔鉱石マギスフィアが埋め込まれていた。

 ミリアと同じく地に短い脚を付けたネールはすぐにその場に腰を落とした。

地面に腰を落としたネールの後ろへ回ったミリアは自身とネールの傍にいくつもの工具箱を置いた。


「点検しますね。ネール」

「くれぐれも丁寧にやってくれよ?」

「分かってます」


 ネールにそう答えると、ミリアは目の前の工具箱から細長い金具を取り出す。取り出した金具をミリアはネールの胴体部分の背面にある隙間に通していく。

 細長い金具をネールの胴体部分の背面に通し終えるとミリアは通して金具を右へ捻った。するとネールの胴体部を覆う橙色の部品が開いて中の部品が丸見えになる。

ネールのボディの中は金属光沢の輝きを纏う管や球、歯車がいたるところに密集していて無駄な隙間がなかった。


「じゃあ、点検始めますね。ネール」

「くれぐれも丁寧に頼むぞ。ミリア」

「そんな念押ししなくても分かってますから」


 ミリアはそう告げると新たな細長い道具を手に取って、背中が開いたネールのボディへ慎重に入れていく。

 ミリアは真剣な眼差しを向けたままネールのボディの中を点検していくとネールは目を閉じていた。そして数十分の点検を終えると、ミリアはネールに声をかける。


「ネール。ちょっといいですか?」

「どうしたミリア?」

「そろそろ関節の部品パーツを交換しないといけません。関節の歯車がかなり劣化してました」

「やっぱり、道理で関節を曲げる時。軋む感覚があるわけだ」


 そう言ってネールは自身の体の関節に当たる部分を曲げては伸ばす。

 ミリアの言うように関節を曲げる時に感じる軋むような違和感は部品の劣化が原因だったらしい。


「次に到着する街で部品を買い足す必要がありますね」

「そう都合よく部品を売ってる街があればいいが」


 そんな会話をしながらミリアはネールのボディ内を見るために開いた橙色の蓋をして広げた点検用の工具をしまっていた。


「まあ、今いるところから王都は近いはずですし、第二区セカンドエリアなら目的の部品も置いているはずです」

「王都ねぇ。立ち寄るのも久々だな」

「そうですね。何年ぶりでしょう?」

「あの時もわしの部品を交換するために立ち寄った時だから……三年ぶりくらいか」

「もうそんな経ちますか」


 他愛ない話をしてミリアは全ての点検用工具をしまい終えると再び杖を握り直した。


「点検も終わりましたし、早速王都へ向かいますか」

「そうしよう。休憩もできたしな」


 そう言うとミリアは杖に腰を掛けた。ネールもミリアが腰かけた杖にまたがった。

 すると杖に埋め込まれている魔鉱石が輝き出す。輝き出した魔鉱石から風が吹き出すと杖に乗っている二人が杖ごと宙に浮き出した。

 空中に浮遊するとどんどんと高度を上げていくミリアは空中で飛行する鳥たちのすぐ下まで高度を上げた。


「じゃあ、移動しますか」


 そう言うとミリアは杖の魔鉱石に命令を与える。すると杖に吹く風の進行方向が変わる。先程まで上昇していた杖が今度は杖の先端が差す方へ進み出した。

空中を移動し始めるとミリアとネールの視界に広がるのは青々しく茂っている大地だった。

 青々しい大地に川が流れていている。それとは別に青々しい大地から少し離れると土色が露わになっている荒野も見えてくる。

 そんな光景を見下ろしていると、ミリアは目をしかめた。


「ネール。気付きましたか?」

「あぁ、前来た時と明らかに違うな」


 そう言う二人は地面を見下ろして何かに気付く。


「大地に流れる霊脈れいみゃくが明らかに変わってます」


 そう言うミリアの眼には地面の奥に流れている大量の魔力の流れ——霊脈を目に映した。

 その流れが三ね前に来た時とは明らかに流れる向きや量が変わっていた。

 霊脈は数年単位で流れる方向や量が変わるような事は経験上見た事がない。


「しかもこの流れの先にあるのって」


 ミリアは目に見える霊脈の流れる先を追っていく。すると視線の先には巨大な建造物が並ぶアルカディア王国が誇る王都が視界に映った。


「まあ、長居するわけじゃない。さっさと部品を買い足してとっとと去ればいい」


 ネールは杖にまたがり王都を眺めながらミリアに告げた。


「そうですよね。何もなければいいんですが」


 不穏そうな言葉を漏らすミリアは少しの不安を抱えながら次の目的地である王都へ進む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る