第5話 吸血鬼
ニコラスが去ってからアイシャは治癒院の中へ戻り第八治癒室へ入った。
中に入ると治癒室に設備されたベッドの上にはリーサが寝ていた。
相当疲れが溜まっていたようだ。アイシャが夜が明けるまで薬品の在庫確認を終えるまでの数時間の間、リーサは
アイシャはリーサを起こそうと思い声をかけようと思っとその時、リーサが寝返りを打ち背中越しに覗いた白く色香を纏ううなじを見た。その瞬間、体中の血が
アイシャが胸を押さえたと程同時にリーサはゆっくりと目を開ける。
「……うっ……」
リーサはゆっくりと体を起こすといきなり顔をはっとさせる。
アイシャが運んだベッドで熟睡していた事に気付くとリーサはすぐに周囲を見る。
第八治癒室の窓から差し込む日差しを見るとリーサは自身が朝まで寝ていた事を
「ミィナさん! すみません! 少し休むだけだったのに朝まで寝てしまって——」
リーサは視界に映るアイシャに
「ミィナさん?」
リーサの謝罪が聞こえていない様子だったアイシャを不思議に思うとリーサはアイシャに声をかける。しかしリーサの声は届いていないのか返事が返ってこない。
リーサはベッドから離れてアイシャの元へ近付く。アイシャの目の前に近付くとリーサはアイシャの調子を
「ミィナさん。大丈夫ですか?」
リーサは調子の優れなさそうなアイシャに声をかけて方に手を振れた。その直後、アイシャは心臓が跳ね上がり、かすかに働いていた理性が吹き飛んだ。
アイシャはリーサの肩を掴み、その場の床にリーサを押し倒した。
「ミィナさん⁉」
押し倒されたリーサは様子のおかしいアイシャを呼ぶが、アイシャは呼吸を乱したまま赤い瞳でリーサを見る。
アイシャの赤い瞳はまるで獲物を狙う肉食獣のように獰猛な輝きが宿っていた。
そしてアイシャはリーサを押し倒した後口元にのぞかせている鋭い犬歯でリーサの首筋を噛んだ。
噛みついた首筋から血が流れると、アイシャは流れていく血を飲み始める。
「うっ……ミィナ……さん……⁉」
血を吸われているリーサは吐息を漏らしてアイシャの呼ぶ。
リーサは首筋を噛まれている痛みを感じていなかった。そのかわり今までに感じた事のない体中に奔る甘く痺れる
リーサの血を飲み進めるアイシャはある程度血を飲み進めるとさっきまで掻き消えていた理性が戻っていく。するとアイシャは嚙みついていたリーサの首筋から口を放す。
そして視界に映っている現状に頭の中で「やってしまった」と嘆く。
アイシャの視界に映ったのは床に押し倒されているリーサが頬を紅潮させながら目を閉じている。首筋には噛まれた跡があり、噛まれた跡から血が滲んでいた。
「……」
アイシャは口を閉じたまま押したしていたリーサから離れた。
リーサから離れたアイシャは今の状況をどう説明していいか整理がつかず、困り果てていた。そんな状況にもかかわらずリーサの血の味が口の中に残った
押し倒されたリーサは上に
「……」
無言になるリーサにアイシャは余計に気まずくなる。
そしてしばらく沈黙の時間が流れると、沈黙が破られる。
「……あのミィナさん」
先に沈黙を破ったのはリーサだった。
リーサはアイシャと目を合わせると閉じていた口を開いた。
「さっきのは一体、何だったのですか?」
リーサはまだ頬が紅潮したまま噛まれた首筋を手で朝えながらアイシャに尋ねた。
尋ねられたアイシャは困り果てた表情から何か
「私は、吸血鬼なの」
アイシャは自身の正体を口にした直後、リーサは唖然とした。
吸血鬼——人の血を吸い日光を浴びると体が灰と化す夜の象徴であり人に害成す存在と言われている
そんな存在だと打ち明けたのだ。リーサが目を丸くして驚くのも無理はない。
「そんなはずはないはずです! 昨日だって昼間に外に出てたじゃないですか⁉」
昨日の王都は雲一つない晴天だった。
吸血鬼にとって最悪の天候だ。そんな天候の下で行動ができるアイシャが吸血鬼であるとそう簡単に理解できない。
「私には聖女の力がある。その力のおかげで普通の吸血鬼と違って日の光に強いの」
アイシャが吸血鬼であるにもかかわらず日光に強い理由を口にすると、リーサは耳を疑った。
「聖女の力……? その力を持っている人なんて今王国には……‼」
「……まさか、あなた……七年前行方不明になったアイシャ・アルカディア様……ですか?」
リーサは思いつく可能性を口にすると、アイシャは口を閉じたままこくりと首を縦に振った。
アイシャの肯定の意を示す行動にリーサはあまりに衝撃の事実に呆然としてしまった。
「アイシャ様は七年前に病死したと聞きました。なんで病死したはずのアイシャ様がここにいるのですか?」
リーサは
思考を整理しようとしているリーサにアイシャは言い逃れできない状況に腹を括ったような表情を浮かべた。
「分かった。一つずつ説明する。これから話す事は全部本当の事よ」
そう言うとアイシャは落ち着いた声音で話し始める。
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