第10話 自由

「随分時間がかかったな」


 王都第三区サードエリアにあるサンチェス・ヒュースの屋敷やしきの門前。

 ラムダは屋敷やしき敷地しきちから出てくるロイドを見てそう告げると、ロイドは小さく息を吐く。


「まあな。どうやら先客の相手で依頼いらい主が疲れ切ってたみたいで、それで長くなった」


 事情を説明するロイドの話を聞いたラムダは「なるほど」と答える。

 ニコラスの王都の襲撃しゅうげきから二日が経過けいかした。

 ロイドは依頼いらいを達成した謝礼金を受け取るためにサンチェスの屋敷やしきへ戻って来た。

 そして謝礼金しゃれいきんを受け取り、更にはニコラスから王都を守った功績こうせきを謝礼金を上乗せされた。


「ラムダはこれからどうするんだ?」


 用事を終えたロイドはラムダがこれから何をするかたずねた。


「もちろん。これから王都を出て旅に出る」

「そうか」


 ラムダのこれからの予定を聞いたロイドは一言だけ返事を返す。


「「そうか」とはぞんざいな返事だな。もう少しは話を広げようと思わないのか?」

「当たり前だろ。やっとお前とさよならできるんだからな」

「それはこっちの台詞だ。やっとお前から離れられる。それに借りを返し終えたのだ。これ以上ロイドと行動したくはない」


 売り言葉に買い言葉。

 ロイドの発言から始まったラムダとの喧嘩は思ったよりもすぐに終わった。


「こんなところで喧嘩してもしょうがない。依頼いらい主の迷惑になる」

「そうだな。わしもロイドとこれ以上喧嘩しても仕方ない」


 喧嘩が終わったロイドとラムダはすぐに第三区の大通りへ向かった。

 大通りを進むロイドとラムダは路地裏へ足を運ぶ。王都の路地裏へ足を踏み入れるとそこには暗がりの路地裏で目立つ体毛の小動物達が目に映る。


「戻りましたか。ラムダ」


 足元に映る蛍光色の体毛の小動物が戻って来たラムダに声をかける。


「お前達、準備はできたか?」


 ロイドが仲間の小動物達に声をかけると小動物達は国利と頷いた。するとラムダは踵を返す。

 頷いて意思疎通を取った小動物達はラムダの後を追う。

 踵を返したラムダとその後を追う小動物達をロイドはしばらくの時間見送った。

 しばらく時間が経過するとロイドは路地裏から出て行く。大通りに戻るとロイドは王都の内外をつなぐ門へ到着する。


「何でこんなところで止まってるんだよ。ラムダ?」


 そう言うとロイドは目の前にたむろしている蛍光色のかたまりに視線がいく。

 先程ラムダと共に路地裏を出て行った生体兵器としてつくられた小動物達だ。


「最後に貴方あなたへお礼を言いたくてみんなここに集まりました」


 小動物の一体がこの場にいる理由を口にすると、ロイドは少しおどろいたような表情を浮かべる。


「王都を守って下さった貴方あなたには感謝を直接伝えたかったのです」


 そう言うと小動物達は揃って「ありがとう」とロイドに感謝を伝えた。

 感謝を伝えられたロイドは少し照れくさそうな表情を浮かべた。


「そういう事だ。わしの仲間を掬ってくれた事、感謝する」


 ラムダは言いにくそうな表情を浮かべつつ、口を開いてロイドに感謝を伝える。


「……ラムダから感謝されるって鳥肌が立つな」


 そう言いながらロイドは腕を擦る。その仕草を見たラムダは一気に渋い顔を浮かべる。


「それが感謝を伝えられた人の態度か?」

「冗談だよ。こっちこそあの戦いのときは助かった。感謝してる」


 ロイドもラムダに感謝を伝えるとラムダは溜息ためいきを吐いた。


「まさかお前から感謝を伝えられるとはな」

「悪かったな」


 そんなやり取りをしていると、小動物達はラムダに話しかける。


「そろそろ喧嘩はよしましょう」


 小動物の喧嘩の仲裁にロイドとラムダは喧嘩話けんかばなしを止めた。

 そして少しするとラムダは門の方へ振り返った。


「じゃあ、行くか」


 そう言うとラムダは小動物達に声をかける。すると小動物達もラムダと同じ方向を向いた。

 小動物達の体が宙に浮かぶと門を潜り、王都の外へ出て行った。


「じゃあな。ラムダ」


 門から出てしばらくするとロイドは小声でラムダに別れを告げる。

 その声は旅に出てしばらく移動したラムダには届いていない。


「さあて、俺も元の場所へ戻るか」


ラムダ達から分かれてしばらくしてロイドも歩いて門の外へ出て行く。

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