第8話 決戦前
「もうすぐで王都に着くぞ」
休憩を終えてラムダの力で王都へ移動して数分。ロイド達の目の前には王都の高く白い壁が見えてきた。
「そうだな。やっとこの移動手段から解放されるぜ」
「お言葉だが、
ロイドの軽口をラムダは
「分かってるよ。ラムダがいなきゃ丸一日で魔獣を
昼から魔獣の巣穴へ移動を始めたロイド達が夕日が沈みかけている現在までの一日で
その事もロイドは
「休憩中の話だが」
「それがどうした?」
先程の休憩中語っていた話——ニコラスを殺すためにラムダが助力するという話についてだろう。
その話をロイドの方から降った後、ラムダはつい
「お前らに掛けられた
ロイドは訊いた時から気になっていた疑問をラムダに
「旅がしたい」
「旅?」
ラムダの口から出た意外な言葉にロイドは一瞬戸惑う。
「
「⁉ そんな状態になるなら何で俺の
ラムダの口にした事にロイドは唐突な事実で思わず声を荒げた。
そんなロイドにラムダは依然と平坦な言葉を口にする。
「騒ぐな。もう痛みは治まってきている。だが長時間、例えば旅をするような事でもすれば体に奔る激痛に
ラムダの言葉を聞いたロイドはようやくラムダがニコラスを殺したいのか理由を知れた。
ラムダのいたって
そんなやり取りをしていると目の前にはすでに王都の内外を
「やっと地面に足を付けられるな」
「その言葉、往路でも言ってたな。ロイドの言う通り今度は酔いもしないで戻ってこれただろう?」
「あぁ、行きはどうなるかと思ったぜ」
「王都を出てから数時間。これほど短い時間で随分仲良くなりましたね? ロイド。ラムダ」
ロイドとラムダが話している間にどこからか声が割り込む。ロイドとラムダはその声を探した。
声が聞こえた方向——頭上には空中に浮いているニコラスの姿が
「何の用だ? ニコラス」
「せっかく
ニコラスを
軽口を叩いたニコラスは徐々に地面に降りていき地面に足を付けた。
その瞬間、ロイドは腰の聖剣を抜剣してニコラスの
ニコラスの間合いに踏み込んだロイドは抜剣した聖剣をニコラスへ振るう。
「さすがは親子。ファウルと同じ動きで私の左腕を切り落としましたか」
「貴様が父様を語るな」
左腕を切り落とされたニコラスはすぐにロイドから距離を取った。切り落とされた左腕は白い灰に変わり地面に落ちる。
ニコラスの左腕を切り落とした
斬られたはずのニコラスの左腕からも血が一切垂れ落ちてこない。すると左腕が斬り落とされた傷口から妖しげな光が迸った。
「親子そろって私の左腕を切り落とした腕を評して——」
切り口から迸る妖しい光が切り落とされたはずの左腕の形に変わっていく。
「——ファウルと同じ力で戦ってあげましょう」
ニコラスは左腕から迸る妖しい光をロイドに向けた。すると左腕の形を
放たれた光の槍がロイドの元へ飛んでいく。するとロイドは聖剣を正眼に構え直す。そして光の槍が自身の間合いへ入った瞬間、聖剣を振り下ろして光の槍を断ち切った。
「さすがに同じ動きは見切られますか。流石はファウルの息子といったところでしょう」
「言ったはずだ。貴様が父様を語るな」
ニコラスは自身に落ちていく光の塊を左腕の妖しい光で盾の形をつくり防ごうとする。振り落ちる光の塊とニコラスの妖しい光の盾が衝突するとすさまじい閃光と共に爆風が吹き荒れた。
ロイドは吹き荒れる爆風に吹き飛ばされないように必死に身構える。しかし爆風の方が強かった。ロイドは耐え切れず吹き飛ばされた。
ロイドが爆風に吹き飛ばされ地面に叩きつけられる直前、何か柔らかいものに受け止められた感触が体中に広がる。
ロイドは体中を包んだ柔らかな感触に視線を向けた。するとロイドの体を大きく超える体躯の青い蛍光色の体毛の獣の体に受け止められていた。
「仕留め損なったみたいだ」
「まさか、お前ラムダか⁉」
青い体毛の獣の口から洩れる声にロイドはすぐに青い獣がラムダである事に気付く。
そんなラムダは爆風が吹き荒れた場所を
ラムダの視線の先には身に付けている
「ほう、私に危害を加えられないようかけた
頭上から光の塊を落としたラムダにニコラスは感心したような声音で話した。そんなニコラスにラムダは冷めた言葉を返す。
「いつか指令を解除できるように甘く調整したくせによく言う」
「バレていましたか」
「そんな事をして何がしたい?」
ラムダの平坦で冷たい声音の質問にニコラスは変わらず
「そこにいるロイドと共に私を殺してもらうためです」
ニコラスの答えにラムダだけでなくロイドも
「どういう意味だ⁉」
あまりに突拍子の無い返答にロイドはつい声を荒げて
ロイドとラムダが出会ったのはつい半日前。そして出会ってから共に行動したのも偶然。それなのになぜニコラスがつい先程ロイドとラムダが話していたニコラスを協力して殺す事を知っているのか分からなかった。
「おかしいと思いませんでしたか?
ニコラスがここまで口にした直後ラムダの視線に先程までになかった殺気が宿った。
「お前が
「その通りです。
ニコラスは実に愉快な口調でラムダの質問に答えた。それを聞いているラムダとロイドは
「まだ
そう言うとロイドは左腕を模した妖しい光を天に掲げた。
ニコラスが点に手を掲げた瞬間、手を掲げた天には王都の空を覆う魔法陣が展開された。空に浮かび上がる魔法陣からえぐりだされるように巨大な胴体が現れる。巨大な胴体からは九つの首と六枚の翼が生えていた。その胴体には水晶のような鉱石——核をおおうように黒い
「どうですか? この魔獣。この仔は私の意のままに動きます。このように」
姿を現した巨大な魔獣の九つの首の末端には鋭い顎があった。その顎から
巨大な魔獣が吐き出した紅蓮の炎は見えない何かに
「役者の一人が王都に張った
ニコラスの言っている事はロイドやラムダには理解出ていなかったが、何者かが上空の巨大な魔獣の攻撃から王都を守っているのは確かだった。
ニコラスが言葉を伝え終えると急にニコラスの体が白くなっていく。白くなっていくニコラスの体は灰のようにボロボロと崩れ出す。
地面へ白い灰が積もるとニコラスの姿は跡形もなく消えた。
「役者と舞台が揃いました。これで私の企ても佳境に入りました」
灰となって消えたニコラスの声が突如ロイドとラムダの頭上から聞こえる。
灰になって消えたはずのニコラスの声の方を見上げるとそこには灰となる前の姿のニコラスが空中に浮いていた。そしてニコラスはさらに上空へ移動し出した。
上空へ移動したニコラスに巨大な魔獣は
『さあ、王都の紳士淑女の皆様方! これから私と共に
飛翔する巨大な魔獣の核の中にいるニコラスは魔獣の顎を伝って声を発すると、その声は王都の住民全員に届いた。
すると目の前の王都から阿鼻叫喚の叫び声が聞こえてくる。
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