第7話 悪夢

「お前は筋がいい。俺を超える剣聖になれるかもな」


 ロイドにとって父親は憧れの存在だった。

 ロイドはアルカディア王国の剣聖の血族、ウェイルズの人間として生まれた。

 そんなロイドの父——ファウルはアルカディア王国の剣聖として名をせていた。


 ファウルはウェイルズの血族が代々管理している聖剣三本を自在に使う事ができた歴代きっての聖剣使いでもあった。

 そんなファウルを父に持つロイドはいつかファウルを超える事を目標としていた。

 努力をしまず、剣の腕をみがいて、剣聖の父を追いす事を目標としたロイドをファウルは自慢の息子だった。

 自身を追い越すと言って必死に努力する子供の姿は父親にとって誇らしいものだった。


 そんな親子の前にニコラスが現れた。

 ニコラスはウェイルズの血族の人間が集う場に現れると、次々とウェイルズの剣士を殺していった。


 力の差は歴然れきぜん


 ニコラスの圧倒的な力にウェルズの剣士は成す術もなく惨殺ざんさつされていく。

 そこに現れたのはファウルだった。

 ファウルはウェイルズの剣士を惨殺ざんさつしていくニコラスに立ち向かった。

 聖剣の力を使いニコラスの体を切り刻み左腕を切り落とした。


「よくも俺達ウェイルズの剣士を殺したな」

「さすがは剣聖。これまでの下等な剣士とは違って、私の腕を斬る程の腕をお持ちのようで」


 相対あいたいするファウルとニコラス。ファウルの瞳はとても冷たい、けれど瞳の奥には憎悪の輝きを纏っていた。

 ニコラスそんなファウルとは全く逆の反応をしていた。

 ニコラスは仮面で顔は見えないが、漏らしている笑い声はとても愉快ゆかいそうな声音だった。


 するとニコラスの斬られた左腕の切り口から妖しい閃光が溢れ出す。妖しい閃光は斬られてなくなった左腕の形を模して蠢く。そしてその妖しい閃光をニコラスはファウルの方へ放つ。

 放たれた妖しい閃光をファウルは構えた聖剣で斬る。

 斬られた妖しい閃光は即座に光の粒子となり霧散する。


「この程度で俺を殺せると思っているのか?」

「思っている訳ないでしょう。ですが、これならどうですか?」


 ファウルの言葉にニコラスは依然と愉快そうに答えると再び妖しい閃光を放つ。しかし、放った妖しい閃光はファウルの元へは進まなかった。

 放たれた妖しい閃光はファウルの真横を横切り背後にいるロイドの元へ飛んでいく。そして目前に飛んでいく妖しい閃光にロイドは成す術もなく咄嗟に目を閉じる。

 目を閉じて数瞬すうしゅん、ロイドは目をゆっくり開ける。

 その目に映ったのは妖しい閃光に体を貫かれたファウルの姿だった。


「やはり可愛い子供を庇いましか。それが貴方あなたの弱さです。ファウル・ウェイルズ」


ファウルの体をつらぬいたあやしい閃光が光の粒子りゅうしとなり消えていくと体を貫かれたファウルは地面に倒れた。

 目の前で地面にうつせに倒れたファウルに駆け寄るロイドをニコラスはただ傍観していた。


「父様! 父様!」


 ロイドは体をゆすり大声で叫ぶ。しかしファウルは指一本も動かなかった。


「貴方のお父様はもう死んでいます」


 必死に叫び目の前に倒れているファウルを起こそうとするロイドにニコラスは残酷ざんこくな現実を口にする。

 そんなニコラスは地面に転がったファウルの聖剣を拾う。地面に転がった三本の聖剣を回収すると、ニコラスはロイドの元へ歩み寄る。回収した三本の内一本の聖剣を右手に取ったニコラスはすぐの場まで近付いたロイドの前に置いた。


「やっと貴方あなたとゆっくり話す場が整いましたね」


 ニコラスはすぐ近くにいるロイドに話しかける。

 そしてここからニコラスの語る自己中心的で残虐な事実をロイドは耳にする。



「——はっ!」

「目を覚ましたか」


 ロイドは目を開くと見ていた景色が変わった。

 血だまりで染まっていた地面は一瞬にして草が生い茂る草原へと変わっていた。


「……夢か」


 いつの間にか景色が変わっていた事に気付くと、ロイドは自身が草原の生い茂る地面に横になっていた状況にいた事にも気付く。


「ロイドが移動中眠っていたからわしも休憩していた」


 目を覚ましたばかりのロイドにラムダは今の状況を説明する。


「少しは疲れていたようだな」

「そりゃそうだろ。あれだけ魔獣を斬ってたら疲れる」


 ロイドは上半身を起こすと肩を回しながらラムダに返事をする。


「疲れたのはそれだけじゃないだろう?」


 ラムダがそう言うとロイドは眉根を引きつらせる。


「ニコラスとは浅からぬ因縁いんねんがある。そのニコラスと出会ったから精神的に疲弊している。そうではないか?」

「何を根拠にそんな——」

「夢でうなされてた時、ニコラスと出会った時の事を思い出していたのだろう?」

「何で分かるんだ⁉」

「やっぱりな」

「カマをかけやがったな。青狸あおだぬき


 ラムダの言葉にはめられたロイドは顔がけわしくなる。そんなロイドは息を吐く。


「そうだよ。八年前の事を夢に見てた」


 白状したロイドをラムダは地面に横になった状態のまま見る。そしてラムダは口を開く。


わしにとって関係ない話ではある。しかしニコラスを倒したいのであれば協力するぞ」


 ラムダからの意外な言葉にロイドは目を大きく見開いてラムダを見る。


わしにもニコラスとは少なからず因縁いんねんがある。それともわしも協力するのがそんなに不思議か?」

「あ、あぁ。ラムダはニコラスに対して恨みはあっても殺したい程とは思ってなかったからな」


 ラムダの質問にロイドは思った事をそのまま口にした。

 ロイドには血族を惨殺ざんさつされた過去があり、明確にニコラスを殺す目的がある。しかし自身の体をいじられたとはいえラムダがニコラスを明確に殺したい強い動機が思いつかない。なにより反旗はんきひるがえさないように調整されたラムダがニコラスを殺す動機を抱く事自体不思議だ。


わし達に施された行動規制の指令コマンドはニコラスによるものだ。ニコラスを殺せばわし達に掛けられた指令は消去される」

「それをして今度は反逆でもする気か?」


 ロイドの問いにラムダは数瞬すうしゅん口を閉じる。

 ラムダの言う通りであればニコラスを殺せばラムダは指令として組まれた反逆の規制も解かれる。ラムダを見る限り、まだ力を隠しているように感じる。ラムダとラムダ達の力をもってすれば王都に反旗はんきひるがえす事も可能だろう。


「いや、王都に反逆する気はもうない」


 数瞬すうしゅん置いて答えた言葉の雰囲気は意外と平坦だった。


「確かにロイドの言うようにニコラスを殺せば王都への反逆は花王になる。だがそれをしたところでわし達には何の利潤もない。逆に損ばかりだ」


 ラムダは思ったよりも論理的ろんりてきにものを考えるようだ。

 ラムダの答えにロイドは少し驚きながら次に言葉を出す。


「意外と頭は回るんだな。その脳みそを俺の気遣いに回してほしかったぜ」

「悪かったな。わしもこれほど乗り物酔いに弱いとは思わなかったのだ」

「一言余計なんだよ」

「その言葉、そのまま返すぞ」


 互いににらみ合た後、共に地面に横になる。

 そしてその後小一時間草原の上でゆっくりと休んだ。

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