第4話 ラムダの借り

「あいつが言ってた意味、ようやく理解できたぜ」


 屋敷やしきを出たロイドは王都第三区の大通りを進み王都の内外をつなぐ門へ向かっていた。

 歩きながら先程までいた屋敷やしきで話していたサンチェスの言葉を聞いてロイドはラムダの言っていた自虐じぎゃくの言葉の意味を理解する。


 ラムダ達には王都を襲撃しゅうげきする行為ができないように開発の中で調整ちょうせいされている。そして寿命も設定されている。そうなればサンチェスの言った通り誰も王都の住人は助けの手を差し出さず野垂のたれ死ぬだけだ。


「だが、あのままにするのも気が引けるしな」


 そんな言葉をつぶやくロイドはもやもやした気分だった。

 そんな気分のまま歩き続けるとロイドの目の前には王都第三区と王都の外をつなぐ門が見えてきた。その時、足元には白い地面に映える青い体毛の小動物が現れた。


「これから仕事か?」


 青い体毛の狸——ラムダがロイドの目の前に現れるとロイドはラムダに視線を向ける。


「そんなところだ。お前は何でここにいるんだ?」


 ラムダの質問に答えたロイドは続けてラムダに質問した。するとラムダはロイドの予想しなかった言葉を返した。


「仲間を助けてもらった借りを返しに来た」

「は? 借り? 何の——」


 ロイドはたずねようとしたその途中でラムダの言った言葉の意味を把握はあくする。


「まさかあの時に言った事を」

「そうだ。借りは早く返す。それがわし流儀りゅうぎだ」


 ラムダはロイドに視線を合わせて言った。その言葉を聞いたロイドは苦笑する。


「あれは冗談じょうだんのつもりで言ったんだがな」


 ロイドは苦笑を浮かべた後、小さく息を吐いた。


「分かった。だったら俺の仕事を手伝え。それで貸し借りなしだ」

「良いだろう。それでその仕事とはやはり魔獣狩りか?」


 頭をきながらロイドはラムダに仕事を手伝うよう言うとラムダはその仕事内容をたずねる。

 ラムダが魔獣狩りの仕事なのかたずねた言葉にロイドは首を縦に振って肯定した。


「ここから南西の魔獣の巣穴へ向かう。距離からするに歩いて最短でも数日はかかる道のりだ」


 ロイドはラムダに目的地である魔獣の巣穴までの距離を説明する、


「そうか、だったらわしがお前を運ぼう」

「は?」


 ラムダが言った言葉にロイドは疑問符ぎもんふが浮かぶ。

 ラムダの体格は普通の狸と同じでロイドより格段に小さい。そんなラムダがどうやってロイドを運ぶのか不思議に思う。


「忘れてないよな。わしがどう移動していたのか」

「忘れるかよ。あれのせいでどれだけ捕まえるのに手がかかって……あ」


 ロイドはラムダの言葉の意図に気付いたのか、言葉を紡いでいる途中で口が止まる。

 ラムダはロイドの財布さいふうばい逃げ回っていた時、自身の足ではなく何かの力で空中を動き回っていた。それも人混みをかき分けていたとはいえロイドから逃げ回る事ができる程の素早さだ。


「お前くらいの体の大きさなら一緒に移動できる。それこそ逃げ回っていた時くらいの速度で空中を移動できる」


 ラムダは自信満々にロイドに告げる。そんなラムダをよそにロイドは怪訝けげんな視線を向ける。


「何だ? その目は。まさか信じてないのか?」

「……いや、信じていないとかじゃなくて」


 怪訝けげんな視線を向けられたラムダはロイドに同じく怪訝けげんな視線を向けると、ロイドはラムダの言葉に歯切れの悪い返事を返した。


「なら何だ?」

「俺、乗り物酔いしやすいんだ。下手に運ばれたら魔獣の討伐とうばつどころじゃないからな」


 ロイドが口籠くちごもりながら口にした事実にラムダは数瞬すうしゅん呆然ぼうぜんとなった。その後ラムダは溜息ためいきを吐いた。


「なんだ。そんな事か」

「そんな事とはなんだ。討伐とうばつする前にこっちがやられたら意味ないだろ」


 溜息ためいきいたラムダにロイドは反論はんろんする。するとラムダはやれやれといった感じで息を吐く。


「分かった。わないように気を付けて移動する。それなら問題ないだろ?」


 そう言うとラムダは呆れた様子でロイドを見た。その様子にロイドは不満げな表情を浮かべた。


「あぁ、気遣きづかいどうも。酔わないように目的地まで俺を送ってくれ」


 ロイドはそう言うと今度はラムダが不満そうな表情を浮かべる。


「そんな態度取るなら、目的地へ運ばなくていいのか?」

「借りは返すんだろ。少なくとも目的地までは送れよ」


 ロイドとラムダはしばらく互いににらみ合う。そしてこのやり取りが不毛な事をさとるとロイドとラムダは同じタイミングで溜息ためいきを零す。


「何やってんだろ。こんなやり取りするくらいなら目的地へ向かってた方が良かったな」

「確かに。これほど不毛なやり取り初めてだ」


 互いに溜息ためいきを零した後、ロイドとラムダは王都の内外をつなぐ門を潜った。

王都の外へ出たロイドとラムダは目的地の方角である南西を見る。


「じゃあ目的地へ向かうとするぞ」

「あぁ、頼むぞ」


 そう言うとラムダの瞳が輝く。するとラムダの体が見えない何かの力で空中に浮く。その後、ロイドの体も見えない力によって体が浮く。


「少しずつ速度を上げていく。お前は下手へたに動いて舌をむなよ」

「分かってる。くれぐれも安全に送ってくれよ」

善処ぜんしょする」


 そんな会話をするとロイドとラムダの体が浮くと徐々に目的の方角へ空中を動き出す。

 徐々に速度を上げて目的の方角へ進み出すとラムダの瞳の輝きがより強くなる。その瞬間、徐々に上がっていた移動速度が一層早くなる。


「おい、急に速度を——」

しゃべるな。本当に舌を噛むぞ」


 物申そうとしたロイドに喋る事を制止したラムダは速度を早くしながら進む。その速度は既にロイドから逃げていた時の速度を超えていた。

 素早い速度での移動にロイドは顔を引きつらせる。

 そのまま数時間、目的地へ到着するまでラムダの移動にロイドは成されるがままだった。

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