第3話 依頼

 第三区サードエリア中央区セントラルエリア第一区ファーストエリアから第五区フィフスエリアの中でも人の出入りが多い。

 中央区ヘつながる大通りはいつも人の通りが多い。その大通りを進んでいたロイドは大通りから少し外れた道を進む。

 するとロイドの目の前には大きな屋敷やしきが見えてくる。


「ここだな」


 ロイドはそうつぶやくと屋敷やしき門前もんぜんへ向かう。その門前にはきっちりとした清潔な服を着た老年の男性が立っていた。


「お待ちしておりました。ロイド・ウェイルズ様」


 老年ろうねんの男性はロイドに会釈する。すると老年の男性は門の中の屋敷やしきへロイドを案内する。

 老年の男性が屋敷の中へ案内するとロイドは応接室の扉の前に到着する。


「当主様がお待ちしております。中へどうぞ」


 そう言うと老年の男性は応接室の扉を開けた。

 ロイドは老年の男性が開けた扉の奥へ入ると応接室の中には一人の小太りの男性が立っていた。


 着ている服や身に付けている装飾品はシックながら豪華だった。

 そんな恰好かっこうには不似合ふにあいな包帯やガーゼがところどころに服の下から覗かせていた。


「お待ちしておりました。ロイド様。ご予定通りに来られて助かります」


 ロイドの目の前に立っている小太りの男性はロイドが応接室に現れるやいなやロイドの近くへ近付いてくる。

 近付いてきた小太りの男性はロイドに近付くとすぐにロイドの手を力強く掴む。


貴方あなたが第三区の区長のサンチェス・ヒュース様ですね?」


 いきなり手を力強く掴む小太りの男性——サンチェスに苦笑気味の笑みを浮かべた。


「はい。あっ、すみません。出会ったばかりなのに少々距離感が近すぎましたね」


 サンチェスはすぐにロイドから距離を離して謝る。


あらためまして、こちらへ座って下さい。依頼いらいの説明をいたします」


 そう言うとサンチェスはテーブルの傍に置かれているソファーにロイドを誘導ゆうどうする。

 サンチェスの誘導のままにロイドはソファーに座るとサンチェスも向かいのソファーに座る。

 サンチェスもソファーに座るとロイドを応接室に案内した老年の男性がサンチェスの傍まで近付いた。


「こちらを」

「助かる。キース」


 老年の男性——キースが持っていた紙の束をサンチェスは受け取ると簡潔かんけつねぎらいを言葉をキースに送る。

 サンチェスはキースから受け取った紙の束をテーブルに置いた。


「これが詳細しょうさい依頼書いらいしょになります」


 サンチェスが紙の束——依頼書をテーブルの上を置くと、その依頼書をロイドは手に取った。

 ロイドは手に取った依頼書に目を通すと、依頼書に書かれている情報はここへ来る前に依頼された情報通りだった。


依頼いらい通り、王都の外にある巣穴にいる魔獣を討伐とうばつします」

「それなのですが……」


 依頼書に一通り目を通したロイドにサンチェスは歯切れの悪い言葉を口にする。


「……言いにくい事なのですが、実は今回の依頼の内容の変更したい点があるのです」

「変更したい点……ですか?」


 申し訳なさそうに言葉を紡ぐサンチェスの気になる単語をロイドは復唱する。


「……はい。実はロイド様が訪れる二日前に魔獣を討伐とうばつできる凄腕すごうでの方が王都へ戻っていた最中、魔獣におそわれていた私を助けて下さいました。その方に今回発見された二つの魔獣の巣穴の内一つを潰してもらうように頼みました」

「話が違います!」


 サンチェスが変更したい点とその理由を口にするとロイドは勝手に話が変わっている事に抗議した。


「私もロイド様を信用していないわけではないのです。ですが中央区からも迅速な解決を私に一括されておりまして、一日でも早く魔獣を討伐とうばつするように強く念押しされております」


 依然と腰を低くしてロイドに謝罪しゃざいの意を込めながら説明していくサンチェスは頭を下げた。


「申し訳ございません。予定とはかなり変わっております。ですが、依頼いらい料は事前に伝えた額と一切変わりません。それでどうか許していただけませんか?」

「……まぁ、それならいいですが」


 サンチェスの話を聞いてロイドは急に依頼いらい内容が変わった事に困惑こんわくするロイド。しかし逆に考えれば依頼いらい内容が二つの魔獣の巣穴をつぶす事から魔獣の巣穴を一つだけつぶす事に変わった。仕事量が減って依頼いらい料が変動しない。それは幸運ラッキーと考える方がいい。


「それで先に魔獣の巣穴を潰しに行った方はどっちの巣穴を潰しに行ったのですか?」

「北西の巣穴へ向かいました。そちらの方が距離もございますし、何より私が頼んだ方は足がとても速いので、より迅速に魔獣の巣穴をつぶすには丁度良いと判断しました」


 ロイドの質問に答えるサンチェスはロイド以外に魔獣の討伐とうばつ依頼いらいをした人物の事も口にする。

 すると先程までサンチェスの後ろにいたキースは手に何か入った布袋を持ってサンチェスとロイドの間のテーブルに布袋を置いた。


「渡すのが遅れてしまいました。これが依頼料いらいりょうです。ご確認ください」


 キースが布袋をテーブルに置くとサンチェスは布袋に入っているものが依頼いらい料である事を告げた。

 ロイドはテーブルに置かれた布袋を手に取り依頼いらい料を確認する。

 確かにサンチェスの言ったように依頼いらい料と同額の硬貨が入っていた。


「確かに依頼いらい料と同額入っていました。これで依頼成立ですね」


 ロイドはそう告げると手に取った依頼料を懐にしまい応接室の出入り口へ向かうために立ち上がった。

 立ち上がったロイドはそそくさと応接室の出入り口の扉へ向かう。


「これは依頼いらいとは関係ない世間話なのですが」


 扉のすぐそばまで近付いたロイドは足を止めてサンチェスに声をかけた。


「何でしょうか? ロイド様」


 ロイドの唐突な言葉にサンチェスは返事を返した。


「この第三区サードエリアの路地裏に偶然迷い込んだ時、目立つ体毛をした動物達を見ました。あの動物達って」

「あぁ、あの廃棄はいき物達の事ですか。気にしないもかまいません。どうせあと数年で息絶いきたえてしまいますから」


 サンチェスはロイドがたずねた言葉に淡々と答えた。


「どういう事ですか?」


 ロイドはサンチェスの言った言葉の意味をたずねた。するとサンチェスは淡々とそれでいて軽快な口調でロイドの質問に答える。


「かつて生体兵器として開発された動物達は本来すべて廃棄はいきされたと報告されました。しかし生き残ってしまった物達にも寿命があります。あのまま何もなければ勝手に野垂れ死んでくれます。幸い王都への被害を出さないように調整されているので街への被害を出しません。このまま野垂れ死ぬのみです。だから気にしなくてもいい存在なのですよ」

「……そうですか」


 サンチェスの軽快な言葉を聞いたロイドは簡潔な返事を返すと応接室から出る。

 そしてそのままサンチェスの屋敷やしきから出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る