1-16 遭遇
「この仕掛けならば殺せるってことは分かった……。けれど、問題は――――」
土杭で串刺しにされ地面に倒れ伏す
それは衝撃というには本当にあまりにも軽く、尚且つ小刻みに震えていた。
「なっ……?」
ぎゅぅっと軽鎧の上から腹部に手が回される。どうも後ろから誰かが抱き着いているみたいだった。
その腕はあまりにもか細くて小さかった。
小さな握りこぶしが鎧の隙間から顔を出すシャツの裾を握りしめる。
その様子からよほど怖い思いをしただろうことは窺えた。
ただ今は火急の事態だ。このまま無防備を晒しているわけにはいかない。
「……、悪いのだけれどここは危ないから、どこか身を隠せる場所に移動しよう」
背中にくっついている子なるべく優しく声をかけると、びくりっと痙攣するようにその子の体が震えた。
戦場のど真ん中で大の大人でさえ冷静な判断力を保つのが難しい状況だ。背丈や伝わってくる体温から考えても後ろにいるのは年端もいかぬ子であることは疑いようもなく、いくら声をかけたとはいえ、そう簡単に聞き分けよく行動してくれるとは限らない。最悪この場で大泣きして崩れ落ちてしまうかもしれない。
「あ、あの……、あの……、なんでも……、なんでも、します……。わたしにできることだったら、なんでも……。人さらいに売りはらわれたって……、いいです……。だから、だから、お父さんとお母さんを……、助けてください……」
それは少女の声色だった。
か細く震える童女の泣き言。
精一杯の意思表示。
ぎゅぅっと彼女の腕の力が強くなる。強くなったとはいえ童女の力などたかが知れている。それでも何とかお願いを聞いてもらおうと必死なのだろう。絶対に逃がさないという意思表示に思えた。
けれど、だけれど――――、
「話は聞くけれど……、正直に言えば俺は出来ない約束はしたくない。それをしてしまうと俺のためにならないし、何より君のためにならない」
彼女の願いを否定して、一呼吸おいてから言葉を繋げる。
「この最中で俺が君にしてあげられることと言えば、君の命を守ってあげることくらいだよ。選べなんて酷なことは言わない。俺のために君の命を守らせて欲しい。だから今はここから離れたい。大丈夫置いて行ったりはしないから」
腰のあたりにへばり付いた頭をくしゃくしゃに撫でてみる。羽毛のようなサラサラとした手触りで心地よかった。
「……、ひとりにしない?」
「少なくとも遠くへは行かないよ」
聞き耳を立て辺りの異変に細心の注意を払いながら、努めて優しく答える。
「…………、分かった、いっしょにいく」
少女のその言葉を聞いてからもう一度頭をくしゃくしゃに撫でて、それからしゃがみ込み、
「急ぐからおんぶするよ。振り落とされないようにちゃんと掴まってて」
「う、うん」
童女を背負ってその場から離れる。
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