幼馴染同士は自分たちが幼馴染だとは思わない

久野真一

幼馴染同士は自分たちが幼馴染だとは思わない理由

 フィクションで


「私たち幼馴染でしょ?そんな程度の仲だったの?」

「俺たちは幼馴染だろ。なんで話してくれねえんだ」


 などなどの表現を読むたびに、私は思っていたのです。


「その表現なんか違う気がする」


 と。筆者の感覚として、普通に「いわゆる」幼馴染同士のやり取りに直すと、


「私たち昔からの付き合いでしょ?そんな程度の仲だったの?」

「俺たちも付き合い長いだろ。なんで話してくれねえんだ」


 辺りになるでしょうか。その変形として「小学校の頃からの付き合いだろ」とか「昔からの友達だろ」などなど、シチュエーションに応じて色々ありますが、ともかく、私に知る限りのリアルやりとりでは、ほぼ見ない。


 これは、ご近所さんのかなりが「いわゆる」幼馴染であった特殊環境故かと以前は思っていたのですが(出身小学校は2クラスで人数もあまり多くなく、通っている子は全員ご近所)、パートナー(※非幼馴染)に「幼馴染同士で幼馴染って言葉使う?」と聞いてみたところ、「うーん。私も、他の人に説明する都合上、幼馴染って使うけど、本当の幼馴染にはそう言わないなあ」とのこと。


 もちろん、調査対象が少なすぎて、これだけでは断言できないにせよ、通常は違和感のある語彙であるというのはそう間違っていなさそうに思えます。


 しかし、もし正しかったとして、何故なのだろう?というのが次に私が考えたことでした。私や周辺が「幼馴染」という語彙を当事者同士で使わない理由はなぜなのでしょうか。


 これは、おそらく、「友達」というリアルでも当事者同士で使われる(ただし、気恥ずかしさもあり、大人になれば「俺たち友達だろ」とは言いにくくはなる)言葉と対比するとよくわかるような気がします。


 たとえば、


「私たち友達でしょ?そんな程度の仲だったの?」

「俺たちは友達だろ。なんで話してくれねえんだ」


 というやり取りは(なんかクサイというのを除けば)、まあリアルでも時に聞く話ではあります。この理由は考えてみれば簡単で、親から聞かされる、あるいは公教育で「友達」という言葉が自然と使われるからなんですね。


「お友達とは仲良くしましょう」

「この子は友達が少ない」


 などなど。つまり、成長する段階で、ある程度仲のいい相手がいれば、その関係を「友達」と自然と認識するわけです。そして、「友達」という言葉は、ほぼ誰もが自然に獲得する語彙であるが故に、「俺たち友達だろ」とか「俺たち友達だと思っていたのに」という表現自体はまあ不自然ではない。


 一方、「幼馴染」はどうでしょうか子どもに「幼馴染同士、仲がいいわね」なんて言う親が居たら、かなりの代わり者でしょう。小学校の教師が「幼馴染同士、仲良くしましょう」とか言ってたら、絶対にツッコミを食らうでしょう。


 こう言わない理由自体は簡単なことです。幼馴染は、幼い頃から続く(空白期間はOK)友達関係の事であって、つまり幼馴染は友達の上位概念なんですね。小学校の頃なら、中学や高校くらいになって、(おそらく)フィクション経由で「あれ?自分たちの関係って幼馴染ってやつ?」と認識するのが普通なのではないかと。


 というか、筆者自身がそうでした。私が初めていわゆる「幼馴染がメインキャラクターにいる物語」を読んだのは中学高校生の頃だった気がしますが、その「幼馴染」というのはどうにも自分が考える関係性の外にある何かというのが率直な認識でした。


 色々あって、二十代後半くらいに「自分たちの関係はいわゆる世間でいう幼馴染に相当するらしい」というのは気づいたわけですが、それでも、当の幼馴染が「幼馴染」と思ってるかわからないので「昔からの付き合いだよな」みたいな表現になるわけです。


 なお、この件については、前に、異性の親友(付き合い30年)に


「幼馴染って言葉さあ。あんまり使わん気がするけど、どう思うよ?」


 と聞いてみたことがあります。かえってきた言葉は、


「幼馴染なあ。定義がよーわからんのよ。親友とかならわかるんやけど」


 とどうにも腑に落ちない様子でした。あるいは、同性の親友(やはり付き合い30年)に、酔った勢いで


「なあ、お前は俺の事を単なる便利な友達やと思っとるんか?それとも親友と思ってくれてるんか?」


 と聞かれたことはあります。親しい仲になればこういうこともあります。


 もちろん、それでも、知人や友人に関係性を紹介する時に「まあ、幼馴染ってやつですね」とわかりやすさを優先させて表現する事は実際にあります。しかし、当事者同士ではやらんよなとやはり思うのです。


 また、別の理由として、友達付き合いが昔から続いている場合というのは、「だいぶあいつとの付き合いも長くなってきたよなあ」としみじみと実感するのが普通であろうというのが素朴な実感としてあります。


 中高が別の場合、もう少し複雑な感情にもなるでしょうけど、ともあれ「この、付き合いも長くなってきたよなあ」という素朴な感情をお互いに抱くようになった関係が、外から見た時の「幼馴染」になる、というのが一番納得が行く説明のように感じます。


 結論:


・幼馴染同士は当人同士で幼馴染という言葉を使わない

・第三者に紹介する時に、便宜上そういう表現を使う事はある

・使わない理由は:

 ・公教育などで自然に獲得する語彙ではないため

 ・関係が単に「俺たち幼馴染だよなあ」とはふつう思わない


 辺りでしょうか。もちろん、あくまで筆者の周囲での経験なので、「いやいや、自分たちの周囲では普通に「俺たち幼馴染だよな」っていうぞ」などの異論はあるかもしれません。その場合、コメントでお知らせいただけると嬉しいです。


 また、周囲の幼馴染に関する経験談なども教えていただけると、今後の創作の糧になるので、よろしくお願いしますm(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染同士は自分たちが幼馴染だとは思わない 久野真一 @kuno1234

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ