続 わたらない送電線網

@Fushikian

ラウルの顔

 三つの町はヴィンセント郡に属している。そして郡を擁するのはパルティア共和国である。ラウルはかつて共和国首都のランスロットで大学生活をおくった。国立ランスロット大学で経済学を専攻していた。たくさんの学友と親交を結び、都会の華やかな生活を謳歌した。いま、故郷に帰り町を変えようとするのも、首都で味わった豊かさに少しでも近づきたいという願望があるからである。


 「われらはもっと豊かになっていい」

 そう民衆に呼びかけるのが常になっている。金髪碧眼のラウルは民衆を魅了しつつある。ラウルが進めている政策にガス灯の導入がある。電力を自前で供給するまでの間、あかりのインフラとしてかつての技術を再導入したのである。


 この事業導入は副次効果を生んだ。電力供給がストップするたびに松明を焚いていたのに、町が用意したあかりの基盤が役目を果たすようになったからである。古い技術だが自前で町としての機能が可動するさまは、民衆に自信を与えた。政治が負託に応えたという実感を持つに至った。つまりラウルへの支持が増した。


 ラウルは毎週、町へ繰り出す。学校や農地、あらゆる場所に出向いて民衆と言葉を交わす。その時はあまり政治向きなことは話さない。話題は子供たちが興味をもっていることや、作物のことなど暮らしに根差したことしか話題にしない。


 週末にはラジオ演説を行う。街頭演説以外で政治的な話題を述べるのはこの機会である。毎週土曜日の20時に放送される。今日がその日である。

 

 「町民のみなさんこんばんは。ウエストタウンの長ラウル・タウンゼントです。

 わが町のガス灯網もようやく完成しました。電気の明かりほどの光量はありませんが、停電の時も影響をうけることのないあかりを町は手に入れたのです。先人たちの技術に再び注目することによって……」


 ラウルの言葉はしだいに熱を帯びていく。

 「われらは二つの町に従属する自治体ではない。われらの手でまちをデザインしていくのだ。諸君らの力を私に貸してほしい。われらは決し負けはしない。栄光が必ず待っている!」

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