自戒(後半)


こんにちは、いつもよりちょっと長めです。


中編とかに分けるんでした‥‥

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「貴女のせいなんかじゃあありませんよ。」


私が力及ばなかったことを嘆いているのだと思っているのだろう肩にやさしく手を置いて、ふぅと息を吐いてから続けた。


「我々が村の守りを怠っていたせいです。しかも私たちは国を追われた身ですから、同族に殺されても仕方ないんです。いつか死ぬと覚悟はできていました。私たちは長寿の種族です、人からしたら永い時を生きてきたんです。だから…ええと、うまく言えませんね、とにかく今はゆっくりお休みください。」


ライラさんはこんな自分にも優しくてなんだかよけい惨めで仕方なかった。私は自分のクズ加減にあきれてしまっていただけなのだ、あまりも役立たずで笑えて来る。そうだ、ここの世界には別に人助けに来たわけじゃあないのだ。体は疲れすらない。心もすこしずづ落ち着きを取り戻していた。なんなら人里から離れるために歩き回っていたのに人助けなんかして。本当に馬鹿みたいだ。木の株で作られた簡易ベットから立ち上がろうとすると黒髪の従者に止められた。


「いけません、魔力の暴走で熱も出ています。まだ寝ていなくては…」


「‥‥熱はもう引いています何なら確認してもらってもいいです」


自分でも驚くくらい冷静に話せた。日本人だとしても美人な方だがマロ眉(現代日本では少数派だけど)に見慣れた真っ黒な髪の毛にに童顔という見た目はなんだか懐かしさを感じさせた。相手の赤い目が光って数秒後、驚きで瞳孔がきゅっと小さくなった。何やら、「こんな短い期間に暴走が…??」「規格外…」だなんだとぶつぶつ呟いていた。


「…わかりました、ですがここから出て行かれるのは待ってくださいますか‥?」


「集落の者たちが貴女にお礼をしたいと駆けまわっているのです。先に復旧のほうが時間がかかると思いますが。もう少し待っていただけますか…?」


目の前で深々と礼をされたが正直私はすごく戸惑っていた。村の偉い人が形式だけでもと私なんかの為の催しを開いているのか…?とか、実は間に合わなかった私を恨んでいる人もいるのではないか…?とか。


しばらく無言の時間が続く、この空気が苦手で私は口を開くことができなかった。


「お…おい!まだ休まれているんだぞ…!おい馬鹿!!」


「リオウ様」


簡易テントの様な建物の入り口がすごい勢いで開いてリオウと呼ばれた女の人と私はそこに視線を向ける。入口の幕を抑えているのは二人の男エルフ外にはズラリといろいろなエルフたちが並んで片膝を落として深々と礼をしていた。最前列の中央にはもう一人男エルフがいる。よかった、もう動けるようになったのか、と少し気が楽になった。


「この度はありがとうございましたッ!!」


最前の男エルフが声を上げて深々と礼をした。後ろの人たちもそれに続いている。びっくりした、私が何も言えずに固まっているとリオウさんが耳打ちする。

「貴女が何を気にしているかもわからないですが、みんな貴女を恨んだりしてはいませんよ。」

この人は私の思考を理解しているのか?という風なことを言ってにこりと笑った。頭を下げられることなんて片手で数えるくらいしかなかった。下げたことは数えきれないけど。


「あ…あた…頭を上げてください。」


私がそういうとエルフの面々は顔を上げた。私を見る目が怖い。何を考えているんだろう。鑑定のスキルで相手の感情やら状態異常とかもわかるのだがその時の私は頭が真っ白になって何も考えられなくなっていた。時間にして数分後。


「ご…ごめんなさい、遅れてしまって。…助けるの。」


これくらいしか言えなかった、何か投げられるだろうか。さすがに蘇生魔法はエラー表記がでて使えなかったのを確認している。私にできるのはもう頭を下げることしかない。ヤジを飛ばされるだろうか。どうしようどうしようと下を向いて唇をかみしめた。地面に冷や汗が落ちて色が濃ゆくなる。


「何をおっしゃられているんですか…。」


エルフの男が凛とした声で言った。


「貴女がいなければ男は全員殺されて女は慰み者、子供たちは奴隷として売られていました。私たちはとある事情で攻撃魔法が使えないんです。使えるのは治療魔法でも下位の『ヒール』しか使えません。だから武器を持って対抗したんですが、腕力がかなうはずもなくあっという間に追い詰められました。この数が無事でいられるのも奇跡なんです。だから私たちの感謝を受け取っては頂けないでしょうか。」


こんなことを言われたのは初めてのことだった。いつも言われてきたのは、お前のせいだ、役立たず、死んでしまえ、何て言葉ばかりで実の親に殺されかけることもあった。感謝なんてなかった。


「あ…お、怒ってはいないんですか???」


「当たり前です。」


「恨んだりは…?」


「そんなこと…!あり得ません!」


なんだ良かった、ほっと胸をなでおろすとリオウさんが、「ね?」とほほ笑んだ。向こうからパタパタと足音がしてライラさんが走ってきた。


「な、何かありましたか!?」


騒々しいなあと少しだけ笑いがこみあげてはっとした。

この日は私が久しぶりに楽しくて笑えた日だった。

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ああ、愛しの我が異世界 サカグチ @sKaguchi

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