自戒(前半)

「目が覚めましたか…?」


起き上がるとライラさんと黒髪童顔の女の人が私の顔を心配そうに覗き込んでいる。頭がすごく痛い、そういえばずっと薬を飲んでいなかった発作用の頓服薬もないし定期的に飲んでいた方の薬もない、大きなため息をつくとライラが水の入った木のコップを差し出した。


「あ、ありがとうございます…。」


「いいんです、あんなに魔力を使えば魔力切れで倒れてしまうのも仕方ありません。しかもハイヒールまで。あの後すぐにあの子たちも目が覚めたんです。もしかして貴女は高位の聖職者様であられますか…?殲滅には光魔法を使っているように見えましたがあのように強力な光魔法、見たことがありませんヒールとともに忌わしいゴブリンの呪いの血まで浄化されていて…」


魔力切れ、という単語でふとあれ?と思うが視界の隅に精神不安定のため魔力暴走して倒れてしまったらしい、あんなにあるんだもんな…魔力切れとかないよなあ。と思考をやめると顔を近づけて鼻息荒げに話すライラさんに若干引き気味であったが後ろに控えていた黒髪童顔の女の人が肩に手を載せて「落ち着いてください、ライラ様」と顔に見合わないハスキーな声で囁くとライラがコホンとせき込む。


「失礼しました…、ええと、とにかくこの度はありがとうございました。」


ライラさんが若干恥ずかしそうに目を伏せて話を続ける。


「高位の聖職者様であらせられると思うんですけれど…なぜこんな辺鄙な森の中に…?」


ライラさんの中でなんだか私の像が勝手に固まっているらしかった。高位の聖職者なんて大それたものではない、あの神様に感謝してるけど仕える気もない。


「ちょ、ちょっと待ってください…わ、わた、私、聖職者…じゃない…です。」


前世含め久々に人と話す上に(神様はノーカン)もともと人と話すのは好きでも、得意でもない。というか普通に怖い、裏切られてきたので。一度深く呼吸をしてライラさんと黒髪の女の人に向き直ってたどたどしく話し始める。前世云々神様云々は黙っておくことにした。何されるかわからないし。


「き、気が付いたらこのあたりにいたんです…記憶はなくて…自分の名前も…わかりません…人がいるところを目指していたんです。そ、そしたら襲われている皆さんを見付けて、む、無我夢中でした…、亡くなった方は…すみません…、助けられなくて…。」


下を向いて麻布のシーツをぎゅっと握る、おろおろと心配している空気を感じる。泣いてるわけじゃない、ああ、こんなに申し訳なく思っているのに涙すら出ない、いつからこんな人間になったんだろう。申し訳なさのどこかで冷静な自分がいた。自嘲気味に笑ってこういう仕草は中二病っぽいなあと他人事のように思う。

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