右も左も
白川津 中々
■
「あの党は批判ばかりだ。信用できんよ。どうせ奴らは特定国の犬だ」
また始まった。こいつはどうにもwebの潮流に流され過ぎなんだよな。
「正しい政治によってこの国の再建を図らねばならない。君もそう思うだろう?」
「いや、別に……」
「なんだって!? 君はこの国が他国に配されてもいいって言うのかい!?」
「いいってわけじゃないけど、このご時世にそんな事あるかね。いざとなれば同盟国もいるし」
言うや否や溜息。不愉快だなぁもう。
「君ね。今は混迷を極める時代だよ? そんな平和ボケしてちゃいけないよ」
「と、すると。君は徴兵制度が復活したら素直に従うのかい?」
「当たり前だろう? 国民の義務だよそれが」
「ふぅん」
いまひとつ説得力がないのは彼の体躯が見苦しいのと、どうにも感情が先行しているからのように思う。嫌だねどうも。政治を語る人間ってのはどうして冷静になれないんだろう。
「ともかく今の左派は駄目だよ。まるで責任能力がない。もとろも解党してほしいくらいさ」
「そういう主張はさぁ。Twitterからアイドルのフォローを外してから言った方がいいと思うよ?」
「な、なん……か、関係ないだろうそれは!?」
「ない事ないよ。だって、カッコいい事言っておきながら結局欲望には忠実なのかぁこの人ってなったら全然信用できないじゃん。君が馬鹿にしてた、セクハラして辞任した議員と同類だと思うけどなぁ」
「失敬な! 僕は法を犯したわけでもないしハラスメントしたわけでもないぞ!」
「でも、我が国万歳! 愛国! って叫んだ直後にアイドルのツイートをRTしてるのって、やっぱり同じくらい滑稽だし嫌悪しちゃうよ? もっと客観的に自分を見た方がいいんじゃないかなぁ……」
「純粋に応援しているからRTしてるの! 彼女を馬鹿にしないでいただきたい!」
別に馬鹿にしているわけじゃないし、それならそれでアカウントを分けるべきだと思うんだけれど、言っても馬耳東風だろうしいいや。
「まったく君はなってないよ! なんで左派の肩を持つような発言ばかりをすんだ!」
「別にそんなつもりはないんだけどね。あんまり政治興味ないし」
「なんと嘆かわしい……先人たちが必死に手に入れた自由への冒涜だよその発言は」
「先人たちが頑張らなきゃ多分僕は生まれてなかっただろうから別にいいんじゃないかな……だいたい選挙には行ってるから、最低限の義務は果たしてると思うよ?」
「へぇ! エライ! どうしてTwitterで呟かなかったんだい?」
「呟くわけないだろう……なんて投稿しても面倒くさいんだから」
「面倒くさい? なにが?」
「君と、君みたいな事を言う人間のご意見が送られてくる事がだよ」
「これは心外だね。僕は純粋にこの国の未来について語っているだけだよ? 面倒くさいって事はないだろう」
「声が大きいんだよ政治を語る人は……君ばかりじゃないよ? 右も左も、強い言葉でまぁ喚く喚く。うんざりだよ僕はもう。なんだって冷静に語れないんだろうね。こういう人達がもう少しだけ理知的だったら、多分今よりは政治に関心がでるんじゃないかな」
「納得いかない事に対して声をあげるのは当然だと思うけどね」
「それが不毛だってんだよ。少なくとも、僕はあまり建設的だとは思えないなぁ」
「惰弱だよ、そんなものは」
「惰弱で結構。庶民なんてのは惰弱であって然るべきだね」
「納得しかねるね」
「まぁ、そうだろうね」
不毛なやり取りは続いたが、結局着地点を見出せず「さよなら」と言って別れた。
ぼんやりと歩きながら考えるも、やはり政治には興味が出ない。せめて批判的な事を控えてくれればいいのに、どうしてあぁ攻撃的なんだろうか。右を向けば、売国奴やら敵国支配やら国賊やら。左を向けばファシズムやら独裁やら貧困やら。よく飽きもせず同じ言葉を唱え続けて争えるもんだ。みんな葉っぱ吸いながらビートルズでも聞けばいいのに。
……いや、ジョン派かポール派かで揉めるこれは。
ともかく、Twitterで繰り広げられる政治的内容は好きじゃない。
右も左も 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます