第7話 人を笑わせてみろ、感動させてみろ!

 さて、そんなヌルくて洗脳というかおべっかにまみれた世界に顔をだしていてしばらく経過した頃である。やっぱ意味なかったな〜と僕はもうやめる気満々だった。たまに観にくる社長だのマネージャーだのの前で頑張ってみたものの、とくに声をかけられるわけでもない。いけてる連中は地味にモデルの仕事があったりオーディションがあったらしいけど、さっぱりだ。


 そんなときである。講師が突然キレ出した。まあたまにハッパをかけるのも仕事だろ、と僕は内心舐めていた。


「お前たちは自分から仕事を手に入れるくらいの努力をしろ!」


 そうだその通りだもっとやれ〜!(心の声)


「……芸人たちを見てみろ、ライブに出演して、ファンを増やして、『エ◯タの殿堂』やバラエティ番組で一瞬映った時に、爪痕を残そうとしてるだろ!」


 そう言われるとこちらも胸が痛い。自分からなにもせず、芝居しませんかと声をかけられるまでなーんもしてなかったのである。たしかに。やっぱもう少し能動的に動こう、この事務所レッスンもやめよ、とそのときである。


「お前たちはなにができるか見せてみろ!」


 突然自分の持ちネタ特技発表会になってしまったのだ。全員ざわついた。そりゃそうだ、ほとんどのやつがそんな面倒なことせず小室哲哉が華原朋美を見出したみたいに誰かが手を差し伸べてくれるのを待っているのだ(まあともちゃんの場合は……今にして思えば悲しいが)。

「やります!」と言って歌をアカペラで歌うもの、覚えてたドラマのシーンを演じてみる頑張り屋もいたが、講師はだめだだめだと切り捨てる。空手だかの型を披露するHくん(なんでもできやがる)も健闘するものの地獄である。


「他にいないのか!」


 僕は、手をあげた。

 そして、即興の一人芝居を披露した。


 それは、会社を首になりなぜかヌードダンサーになったおっさんが楽屋で、会場に行き別れになった息子がいるという話を聞いて動揺する、という内容であった。

 井上ひさしさんの『化粧』を現代風にアレンジしたものだ。

 最後はなんでかちあきなおみの「喝采」を流し(歌い)ながら脱いでいく、という。我ながら即興であほなこと考えすぎである。


 芝居は終わった。

 一瞬の沈黙。全員が化け物を見るような目で僕のことを見ている


 そして、部屋中を満たす、大きな拍手。

 もうやめよう、これでいいや、と思った。


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