第6話 イケメンになりたい

 やべ〜レッスンが面白く、通ってはいるのだが、レッスン生のみなさんとは特に打ち解けることもなかった。更衣室(なんとS区の公共施設にはあるのである)で多少会話をするくらいだった。

 観察に徹してあたりを見る。みんな無駄にプライドだけは高そうだ。モデル部門なんてのがあるくらいだから、すらっとしている人々もいる。だいたいが自分が認めた、自分に見合う人、とクソほどどうでもいい話をしている。すかしてやがる。

 演技ったって、上っ面であるが、その催眠みたいなやつにかかったら「印象が変わった〜」などとみんなが言い合っているもんだから、僕の方も一応拍手したりしてお茶を濁した。多分普通の人は、演技をするテンションや落ち着いた状態に持っていくことがまず難しい。自分だってすぐにはできない。それを、この講師のメソッドとやらで体得、アンドいつでもそういう状態に持っていけるように意識すればいい、というわけだ。自分の気分を変えるという意味では正しい。この講師の言葉を100パー信じているのは謎だが。仲良くなって聞いてみたい、そこんとこどうなの? と。


 一人社長にも講師にもお気に入りの若者、Hくん。生まれは海外でケーオー大学で、とかなんとか。顔も身体もよい。確かに特撮に出てもおかしくないかもしれん。他の奴らのなんちゃってと違い、演技が大きくて、このなかではわりと好感を持った。モデルだかドラマのエキストラに毛が生えたみたいな仕事もしたという。

 更衣室で二人っきりになり、雑談をした。知り合いのバンドがメジャーデビューしたとか、レッスンなかなか行けなくて、などなど、すべてがさわやかな受け答えと内容である。友達多いんだろうな〜と卑屈になってしまった。すぱっと脱いだ時の筋肉のつき方に、ほう、と思った。やっぱりスポーツマンてのは違うな。俗にいうスジ筋。ほかの連中のやだ痩せてるとかどこかゆるい感じとは違う。キックボクシングもしているという。こういう人が特撮とか出ちゃうんだろうな〜と自分の腹の肉をつまみ、暗くなった。

 別に俺はヒーローにはならなくていいのだ。ちょっとだけでられりゃそれでいいのだ。

「特撮とか観ないですけど、現場に行くのは楽しいですね」

 百点満点の解答である。


 いや、


 もしかして、


 自分もこんなふうに見栄え良くなって、ヒーローになりたいのか?


「キタハラさん演技うまいですね」

 とHくんは言った。

 自分の見た目や内気な性格を鎧にして、自分は本当の気持ちを隠して逃げているのかもしれない。

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