第2話 芸能事務所に入ろうか
二十歳の頃から演劇をしていて、二十四のときに文学座の演劇研究所に入所した。座員になりたかったのだが、一年後の審査で落ちてしまい、晴れてフリーの舞台俳優となった。いちおう卒業時に、新劇系養成所卒業者を対象にしたいくつかの芸能事務所の合同オーディションみたいなのに参加してみたんだけれど、入る、ということまでには至らなかった。いや、名刺をもらったりしたんだけど、挨拶に行くとかしなかった。あんまり映像作品に興味がなかった。やはり舞台が好きだったので。
なので、文学座の養成所でお世話になった岩村久雄先生が演出する舞台にたまーに出させてもらいながら、死んだ目でバイトをしていた。舞台俳優、っていうよりフリーターである。それはそれで、二十代のよくある青春、なわけだが、マインドはともかくとして、時は過ぎ、二十代後半戦をどうサバイバルしていくか、ほぼ毎晩悪夢を見ていた。
このままだとやりたかったことをできないまま終わってしまうな。やばいよーやばいよーとしたくもないのに稲川淳二の真似が板につく始末。飲み会に行っても同期や共演者の仕事の話を聞くたび嫉妬心ばかり芽生え、しまいには飲み会行くのが面倒になってしまった(これはいまでもそうだ)。コミュニケーションやら繋がりで舞台が決まることが多いというのに、まったくなにも起きない状況になった。研究所を卒業したときは、特需なのかわからないけど舞台オーディションの書類審査は結構受かってた(実技や面接で落ちた)というのに、さっぱりである。
当時よく遊んだり電話をしていた、同期の亮ちゃんは文学座の頃から「特撮に出たい」と言っていた。その影響で僕も平成仮面ライダーを観るようになった。根がオタクなので、ハマった。亮ちゃんは故郷に戻り就職を視野に入れだしているらしい。僕もそろそろ、どうにかしないといけない。舞台以外にとくにしたいこともない。小学生の頃は「学校の先生か小説家」になりたかったのだけれど、今からだと遅いかもしれない。舞台活動にのめりこみ大学を中退してしまったし、就職は厳しいかもしれない。見回してみても気に入る仕事に就けるなんてこともなさそうだ。
せめてなにかしておきたい。そう焦ったときだ。
「特撮に出よう」
舞台は映像として残るものもあるけれど、やはり生だ。そのライブ感が良かったのだけれど、いまは自分がなにをしていたか、をどうしても残しておかなくてはならない。
僕は本屋で、当時あったオーディション雑誌を買った。立ち読みでなく、金を払ったのは初めてのことだった。
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