ボクたちはみんな特撮ヒーローになりたかった

キタハラ

第1話 どうしてボクはここに立っているんだろう?

 今ボクは、なぜか百人以上のお客に見守られているなか、舞台に立っている。いや、これまでもボクは演劇活動をしてきたので、わりとでかい箱でやってたので、だからどうこうということでもない。


 しかしだ。


「ショートコント」


 はて。ショート? コント? 自分でもなんでそんなワードを大声で叫んでいるのだろうか。

 ちょっと待ってちょっと待って、なんかズレてない? 人生の歩むべき道をズレて横の草むらかきわけてない? もう道ですらなくないいま歩いてるの?

 だってボクは、


 これまで『女の一生』とか『わが町』とか新劇の舞台に立ってたし(発表会だけど)、去年は東京芸術劇場にも立ってたじゃん。なんなのこれ? コントやってるし。しかも相方めちゃ使えねえ中学生だし。ていうかそのKSGKを適当に動かして、なんでか俺がそれをいちいちツッコミまくるって、そもそもそんなこと誰にも教わってないし。いくらバラエティ番組好きだからって、そんなにうまくいくわけ……。


 客席ではどっかんどっかん笑いが起きている。

 いや、わかってた。「面白い」のはわかってたよ。俺が書いたし、俺が面白いと思ったものを舞台にあげてるわけだからさ。


 でも、なーんか! 納得いかない。

 なんでこんなことになったのか?


 そもそもボクは、新劇俳優になりたかった。あと野田秀樹や蜷川幸雄の演出舞台に立ちたかった。松尾スズキやケラリーノ・サンドロヴィッチにも憧れてた。しかし俳優の道は厳しく、諦めて、でも……せっかくだから若いうちに最後のチャレンジをしようとしたのだ。演劇の道を諦めながら、ひとつだけ、せめてしたかったこと、それは。


 特撮ヒーローものにモブでいいから出たい


 なのに、ボクは、なぜか、いま、お笑いをしている。


 なんでだ!?


 お客がどっかんどっかん笑っているが、なんだか自分はとても冷静である。


 そして多分、今日のコントライブは……勝った!

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