童話「赤いきつねと緑のたぬき」

埴輪

赤いきつねと緑のたぬき

 昔々むかしむかし日本にほんのどこか、こんもりとした小山おやまに、きつねとたぬきがんでいました。


 二匹にひきはとっても仲良なかよしで、毎日まいにちのようにかしいの勝負しょうぶをしては、たのしんでおりました。


 小山おやまには人間にんげんのおばあさんもんでいて、そのいえ庭先にわさきが、二匹にひき勝負しょうぶ場所ばしょでした。


 きつねもたぬきも、おばあさんのことが大好だいすき。


 なぜなら、おばあさんはきつねには油揚あぶらあげ、たぬきにはてんぷらをご馳走ちそうしてくれるからです。


 さて、あるさむさむい、ふゆのこと。


 おばあさんは風邪かぜをひいて、寝込ねこんでしまいました。


 きつねとたぬきのあたまかぶのは、数年前すうねんまえくなったおじいさんのこと。


 おばあさんの懸命けんめい看病かんびょうみのらず、おじいさんは風邪かぜをこじらせてんでしまったのでした。


 あのとき、きつねとたぬきはおじいさんをその毛皮けがわあたためることしかできませんでしたが、今際いまわきわ、おじいさんがのこした「ありがとう。おばあさんをよろしくたのむよ」という言葉ことばを、けっしてわすれたことはありませんでした。


 きつねとたぬきは、猟師りょうしわなにかかった二匹にひきあわれにおもい、たすけてくれたやさしいおじいさんのことも、おばあさんとおなじぐらい大好だいすきだったのです。


「たぬきどん、いまこそ修行しゅぎょう成果せいかせるときだ!」

「きつねどん、ああ、そうともさ!」


 二匹にひき寝込ねこんでいるおばあさんにわかれをげ、ともあたまうえせたのでした。


 おばあさんは目覚めざめると、ちっともさむくないことにおどろきました。


 そして、にわてさらにおどろきました。


 まえ一面いちめん冬景色ふゆげしきだったのに、太陽たいようゆきをすっかりかしてしまい、木々きぎにはみどり青々あおあおしげり、それはまるで、はるのような光景こうけいだったからです。


 そのふゆは、それからもああたかいつづき、おばあさんの具合ぐあいもすっかりくなりました。


 しかし、きつねとたぬきが、いえ庭先にわさき姿すがたあらわすことは、二度にどとありませんでした。


 ──ときながれ。


 小山おやまふゆでもはるのようにあたたかいことが評判ひょうばんとなり、日本中にほんじゅうからひとあつまるようになったことで、おおくのおみせならぶ、観光名所かんこうめいしょとなりました。


 なかでも人気にんきのおみせ名物めいぶつはうどんとそばで、あま油揚あぶらありのうどんは「あかいきつね」、さくっとしたてんぷらりのそばは「みどりのたぬき」とばれており、それらはおみせつくった女将おかみが、大切たいせつ家族かぞくしのび、そう名付なづけたということです。

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