どしたん?話きこうか?^_^ 上巻

「どしたん?話きこうか?」

それがあの男の口癖、女性を口説く際の常套句だった。

あの男は、見境がなかった。<<ここからAI>>初めて出会った時からそうだった。

でも、だからこそ私はあの男に惹かれたのかもしれない。

その言葉に甘えてしまったからこそ、今のこの現実があるのだから。

「……ううん、なんでもない」

「そっかぁ」

あの男はそれ以上追及してこなかった。

私とあの男の関係は、それだけで充分成り立っていた。

―――だって私たちはただのセフレなのだから。

*****

「あーもうっ!なんなのよあいつ!」

仕事帰り、私はイラつきながら歩いていた。

「ほんっと腹立つわ~。今度会ったらぶっ飛ばしてやるんだから!」

私が苛ついている原因は、今日出くわしたある男が原因だ。

その男は最近私の勤めている会社に現れた営業マンで、新卒の頃からずっと営業職をやっていたらしい。

顔はそれなりに良く、スタイルも悪くはない。

ただ、態度がとにかく悪いのだ。お客様には愛想よく接しているが、同じ会社の人間に対しては横柄な態度ばかり取る。

そして何より、異性への性欲包み隠さぬ態度が最悪だった。


『今日の夜空いてる?一緒に家で飲まない?w』

『肩凝ってそうだね。俺マッサージ上手いよ?wど?ど?』

『リホちゃんって舌長いし舐めるの上手そうだよね!wいや、キャンディの話w』等々……。


セクハラ発言のオンパレードである。

はっきり言って気持ち悪かった。

あんな奴と関わりたくないと思っていても、向こうから積極的に絡んでくるため逃げるに逃げられない状況が続いている。

今日もまた絡まれた。

しかも日に日にエスカレートして。……本当に嫌になる。

「……」

ふとスマホを取り出して時間を確認する。

時刻は既に夜の10時を過ぎている。

(こんな遅くまで残業なんてツイてない)

明日は土曜日だが休みではない。休日出勤しなければならないので、早く帰って寝たかった。

「お姉さんちょっと待ってぇ~」

突然背後から声をかけられた。

振り返るとそこには見知らぬチャラ男が立っていた。……なんだコイツ?

「何か用ですか?」

不審者かと思い警戒しながら尋ねると、チャラ男はヘラヘラ笑いながら答えた。

「いやぁ、道に迷っちゃったみたいでねぇ。駅はどっちぃ?」

聞いてみると、どうやらこの辺の土地勘がないらしく、道案内を頼んできた。……正直面倒臭いと思った。しかしこのまま放っておくわけにもいかない。

「……こっちですけど」

仕方なく私はチャラ男を駅へと連れていくことにした。……これが間違いだった。

駅に続く通路はラブホテル街だったのだ。

当然私は抵抗したが、男は聞く耳を持たず、半ば強引に私の腕を引っ張っていく。

「ちょっ!?いい加減にして下さい!警察呼びますよ!」

「え~いいじゃん別にぃ。減るもんじゃないし」

……もう駄目だ。そう思ったその時――

「どしたん?話きこうか?^_^#」

後ろから声が聞こえてきた。振り向くとそこに居たのはあの男だった。

いつものような軽薄な笑みを浮かべておらず、怒りの形相をしていた。

「んだよお前」

いきなり現れた男に対し、チャラ男は不機嫌そうな表情で睨む。

するとあの男は怯まず、逆にギロリと男を睨み返した。

「俺の女に何手ぇ出そうとしてんだっつってんだよ!」

そして私を守るように立ち塞がった。

「ちっ……」

さすがに割に合わないと判断したのか、チャラ男は舌打ちをしてその場を去った。

そいつの姿が見えなくなると、彼はこちらを振り返り笑顔で話しかけてくる。

「大丈夫だった?」

私は呆然としていた。まさかこの男が助けてくれるとは思わなかったからだ。

「あれ?どしたん?もしかして怖くて立てなくなっちゃった?w」

「そ、そんなことありません!余計なお世話です!」

慌てて否定する。……本当は少し腰が抜けてしまっていたのだが。

「そっか。じゃあ俺はこれで帰るね」

「え?」

意外な言葉に思わず聞き返す。

「ん?なに?どしたんwどしたんw」

「あ、いえ、その……ありがとうございました」

私は頭を下げて礼を言う。

「ああ、気にしないでよ!それより気をつけて帰ってね!」

そう言うと男は去って行った。

その背中を見ながら、私は心の中で呟いた。

(お礼とか言って絶対家まで付いてくると思ったのに、どうして……?)


あの男をただのヤリモク男だと思っていた私は、この時初めて彼の本当の姿を垣間見た気がした。


***

次の日、休日出勤を終えた私は会社を出て降りしきる雨の中を帰路についていた。

(疲れた……。出勤日に限って雨なんてサイアク…。でも明日は休みだからゆっくり休める)

昨日のこともあり、あの男のことが妙に気になった。結局あの後家に帰り着いてもあの男から特にメールも何もなかった。

むしろ普段よりぐっすり眠れたくらいだ。

「また会えるかな……?」

ふと、無意識に独り言が漏れる。

自分で自分の言ったことに驚いた。

「え?あ、いや、今のは違うから!」

誰に向かって言い訳をしているのだろう……。

「……まあいいか」

私は気持ちを切り替えて歩き出す。

今日は土曜日。……今頃あの男は何しているだろうか?

その時、聞き覚えのある声がした。

「どしたん?話きこうか?w」

「ニャァ」

「……え?」

声のした方を見ると、そこにはあの男が立っていた。

雨の中、自分が濡れるのもお構いなしに段ボール箱に入れられた捨て猫に傘をさしている。

「風邪引くよ?これ使いな?」

そう言って彼は猫をタオルで拭いてやっている。

「ニャー」

「元気出せよ。きっと良い飼い主見つかるからさぁ」

どうやらこの男は、捨てられていた子猫と会話をしているらしい。

「……何やってんですか?」

思わず話しかけてしまった。

「え?」

「こんな所で……」

「見ての通りだけど?w 」

「いや、見れば分かりますけど。……なんでわざわざ?」

「だって可哀想じゃん。あんな風に捨てられたらさぁ。……リホちゃんこそ何してんの?」

「私は仕事終わりです。今日は休日出勤だったので」

「へー、そうなんだ」

彼は興味なさげに返事をする。

「……で、その子どうするつもりですか?」

「連れて帰りたいけど、俺のマンションじゃペット飼えないからなぁ。でもこんな雨の中でびしょ濡れじゃ、可愛そうだし?w」

「だったら私の家で預かりますよ?」

気がつくと私はそんなことを口走っていた。

自分でも何故そう思ったのか分からない。

ただ、このまま見過ごすことが出来なかったのだ。

「マジで!?いいの!?」

男は目を輝かせて尋ねてくる。……一度言ってしまった手前引き返せず、私は「はい……」と答えた。

「助かるわ~。俺んちだとバレると追い出されるからさぁw 」

「あなたも」

「ん?w」

「あなたも、来てください。そんなにびしょ濡れじゃ風邪を引きます。家、すぐそこですから」


これはお礼。昨日のお礼だ。私はそう自分に言い聞かせた。


***

「とりあえずシャワーを浴びてください。スーツは洗面台の横に」

「うすw覗かないでね」

男は着替えを持って浴室へと入って行った。……まさかこの男を自分の家に上げることになるとは思わなかった。

「ニャー」

「ん?なに?」

「ニャー」

拾ってきた子猫は思いの外人慣れしているのか、顔を私の足に擦り付けてくる。

……正直なところ、少し面倒くさいと思っている自分もいる。でも放っておくことも出来ない。

結局私も甘い人間なのだ。

「はいはい、分かったから。ご飯あげるから待っててね」

そう言うと、子猫はまるで言葉を理解しているかのように鳴きながら部屋を出て行った。

「リホちゃん優しいね〜」

いつの間にかあの男はシャワーを終えて戻ってきてた。

「あ、すみません。ドライヤーの場所教え忘れました」

「別に大丈夫だよw それよりリホちゃんの服着ちゃった。ごめんね」

「いえ、私は気にしてないので。それよりお腹空いていませんか?良かったらなにか食べていきますか?」

私はそう言ってキッチンへと向かう。

「魔?w是非是非~是々非々~~~w」

……なんか変な言葉聞こえてきたけど、無視しよう。

昨日はカップラーメンで済ませたけど、今日は久しぶりに手の込んだ物を作ろうかな……。


***

「はい、どうぞ。召し上がれ」

料理が出来上がりリビングに運んだ私はあの男の対面に座る。

今日のメニューは肉野菜炒めとインスタントスープと白米だ。

「いただきます!」

手を合わせて元気よく言った後、彼はガツガツとお皿に乗ったものを口に運んでいく。

余程お腹がすいていたようだ。……しかし不思議な光景である。見た目は完全にヤバめの男性なのに、目の前で食事をするその姿はとても雅に見えた。

(あ、そっか……。私、普段1人で食べてるんだ)

私は彼の隣にいる黒猫を見る。猫は彼と同じスピードではないもの出された食事を食べているようだった。

猫を飼ったことは無いけれど、多分こんな感じなのだろうと思った。

私はふっと頬を緩める。そして自分も箸を持ち直した。

それからは無言で食べた。テレビも点けず会話もない。でも居心地の悪いものではなかった。寧ろ安心出来るような気がした。

(なんなんだろ……これ?)

不思議だ。……今までこんなことは経験したことが無い。いつもならもっと騒々しいというか煩わしい筈の静寂が何故か今は気にならない。

「…あのさ?」

男が不意に声をかけてくる。

「また、来てもいいかな?…コイツの様子見に」

「……」

男は照れ臭そうな顔でこちらをチラリと見る。……私は少しの間考え、そしてこう答えた。

「はい……」

何故その返事をしたのか分からないけど、嫌な気持ちはなかった。

だからそう答えるしかなかったのだ。

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文豪AIのべりすと短編集 宇宙芋虫寄生済みゴリラ @chinpan_g

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