27  元魔王様、勇者(♀)を勧誘する






 王都から屋敷に戻ってきた一同は、フィリアの件で話し合いを始める。


「俺はフィリアを仲間に入れようと思うのだが、みんなの意見が聞きたい」

「いいと思います。私はお姉さまが加入することに賛成です」


 アルスの言葉に真っ先に反応したのはルイスだった。


「私は魔王様が、お決めになったことに従います」


 続いて口を開いたのはメルルで、とても幼女とは思えないお利口さんな答えだ。


「フィリアしゃまは遊んでくれるので、ボクは反対しにゃいです」


 最後に意見を述べたのはシャルーである。うん、ペットらしい答えだ。


「そうか…。だが、みんなわかっているのか? フィリアは前世の俺やお前達の両親や祖父母と戦った勇者の末裔であり、魔族だとバレたら<即殺しデストロイ>になるかも知れないんだぞ?」


 アルスは真剣な表情で、一同に問いかける。ありえない話では無いからだ。

 しかし、それに答えたのは意外にもメルルであった。


「私はそれでも構いません。先程も言ったとおり、魔王様の指示に従うのみで、その結果命を落とすことになっても、お恨みはいたしません。祖父や両親からもそのように言われています」


(やだ、何この幼女!? お利口通り越して、もはや達観しちゃってるよ! ホントに10歳なの!?)


 アルスはメルルの大人過ぎる意見に、内心でそんなことを思っていると、次はルイスが口を開く。


「私は… お姉さまがそんな酷いことをする人だとは思っていません! それに、もしそうなったとしても、私はお姉さまを恨みません。アルス様の事は恨むかも知れませんけどね♪」


(おいーー! この娘、今なんつった?!)


 最後の言葉に少しだけイラッとする。だが、言い終わったルイスは彼女にしては珍しい小悪魔のような笑みを浮かべており、アルスは初めて彼女を可愛らしいと思ってしまう。


(だが、今回だけは許してやる! 可愛いからじゃないぞ!? 親友の娘だからだ! 断じて、可愛いからではないからな!?)


 アルスは心の中で葛藤しながら、みんなに感謝すると結論を口にする。


「みんなが賛成ということなので、フィリアを仲間にすることにする!」


 こうして、アルス達は新たなメンバーにフィリアを加える事になった。


「さて、問題はどうやってフィリアを捕まえるかだが……」


 だが、連絡手段のない単独行動のフィリアと、どう出会うかという問題に突き当たる。

 アルスが”王都の冒険者組合に通うしか無いか…“と考えていると、そこにメスレが勢いよく扉を開けてやってきて、このような提案をしてきた


「魔王様、ここは私に任せてください!」

「何かいい考えでも?」


「私が王都の冒険者組合に圧力― いや、話を通してフィリア殿に実家で魔王様が待っている事を伝えさせますので、魔王様は実家でお待ち下さい」


(流石は大企業! マネーパワーで解決だ! 世の中、金か……)


 アルスはメスレの提案を聞いて、世界征服には<圧倒的な力>ではなく<圧倒的な金>ではないのかと思いながら、彼の提案を受け入れることにした。


「わかった、任せる。頼んだぞ」

「はい、おまかせください! 早速王都の支社に連絡して、根回しを行います!」


 メスレは一礼すると意気揚々と出ていく。その後ろ姿を見ながら、アルスはこう思った。


(メルルはいい子だけど、もう普通にメフィレに参謀になって欲しい……)


 こうして、アルスは次の日から、実家でフィリアを待つ事になった。


「じゃあ、俺は明日から実家に通ってフィリアを捕まえるから、みんなその間、訓練をしてスキルを磨くように! 決して遊んで過ごさないように!」


 屋敷を出る前に一同にこう言ってきた手前、ただ待つのも気が引けるのでアルスは家にある魔法の本を読むことにした。


 人間界の文字や知識、文化に詳しくなった今なら、昔では気づかなかった新たな発見があるかも知れないからだ。


 それから5日ほど経った頃だろうか、遂にその時はやってきた。


 彼が自室で本を読んでいると、家の玄関がノックされる音と共に懐かしいあの声が聞こえる。


「アルス~ いる~?」


(来たか……)


 そう思いながら、アルスは部屋のドアを開けるとそこには予想通りの人物が立っていた。


「久しぶりね。元気にしてた?」

「ああ、お前も相変わらずだな」


 そう言うと、フィリアは嬉しそうな顔をしながら家に入ってくる。

 自室まで来たフィリアは、髪を触りながら口を開く。


「それで、私を態々実家まで呼んだ用って何かしら? 私、今魔族討伐で忙しいだけど?」


 彼女は少し面倒くさそうな表情を浮かべながら、そう言ったがその瞳は何かを期待しているモノであった。


「フィリア… 一人で頑張っているみたいだが… そろそろキツくなってきたんじゃないか…? そこでだ… 俺のクランに入らないか?」


「えっ!? いいの!?」


 アルスがクランへの勧誘を行うと、彼女は一瞬驚いた後、満面の笑みになる。


「入る! 絶対に入るわ! よろしくね、アルス!」


 フィリアは興奮気味にアルスの手を握り、ブンブン振り回す。


(ちょろいな……。これならあの条件も飲むかも知れない… やるか!)


 彼女の反応を見て、アルスは考えていた条件を提示することにした。


「だが… 誘っておいて何だが条件がある… 」

「条件ってなに?」


 恐る恐るフィリアの表情を窺いながら、アルスは条件を口にする。


「お前の持っている… その<聖剣ブランシュナール>を預かりたいんだが… 」


 そう、アルスの条件とは、彼女の強大な力の一角を担う<聖剣ブランシュナール>を、彼女から奪うことであった。


「え~ どうして~?」


 まあ、彼女からは当然このような答えが返ってくる


 この世界で最強の武器の一つであるそれは、勇者が持つ事で真価を発揮する為、それを奪えば戦力ダウン間違いない。そうなれば戦うことになった場合、フィリアの戦闘力を大きく下げる事ができるのだ。


「いや~、だって、それ凄く目立つだろう? 勇者丸出しだろう?」


「勇者丸出しっていうのは、よくわからないけど…。目立つのは確かね…。でも、それがどうしたのよ?」


 不思議そうな顔をする彼女に、アルスは言葉を続ける。みんなの安全のためにも、ここで引くわけにはいかないからだ。


 彼は反対されるのは想定済みだったので、それらしい理由を用意しており、その台詞をそのまま口に出して続ける。


「お前がその剣を帯びたまま勇者していると、俺のクラン<魔法使いアルスと愉快な仲間達>は、<勇者フィリアとその他お供たち>になってしまうんだよ! だから、預かって危なくなったらその都度返すみたいな…。まあ、そんな感じで……」


 アルスがそう言いうと彼女は笑い始める。

 そして、ひとしきり笑うと目尻に浮かんでいた涙を拭きながら、アルスを見つめて言った。


「あはは。そういうことね~」

「そういうことだ。だから、フィリアちゃん、早くその剣を渡しなさい」


「わかった、アルスに預けるわ」

「えっ? 本当にいいのか?」


 あっさり承諾されて拍子抜けしながら、アルスは尋ねる。


「うん。魔王でも相手にしないかぎり、必要ってわけじゃないし… 」


(計画どおり)


 アルスは自分の思い通りに上手く運んだことで、心の中で最高に悪い顔をした。

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転生した元魔王は、幼馴染の勇者(♀)が強すぎて復活できない! 土岡太郎 @teroro

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