マスクドライダー

三題噺トレーニング

マスクドライダー

秋山ヤマトは趣味としてヒーローを嗜んでいる。

子供の頃には誰しも憧れたであろうそれを目指した理由は就職活動の失敗というネガティブなものではあったが、子供の頃からの夢を諦めるなという何かのメッセージなのかもしれないと今では考える。


ともかくヤマトは今日もワンボックスのファミリーカーで仙台市内の繁華街である国分町周辺を流している。パトロールだ。

運転席で電子タバコの煙を吐くのは相棒のタク。

中学校からの同級生で仮想通貨投資でFIREして暇そうにしているところを捕まえたパトロンである。いつだって気怠そうな男で、金持ちのクセに友達はヤマトしかいない。ネクラなやつなのだ。

始めはひったくりの確保から始まったこの2人の慈善活動も、最近では違法薬物の摘発にまで及んでいた。


スマホに通知が入る。

タクがジャックしている防犯カメラの映像から、トラブルがあると思われる映像をAIが判断してアラートする仕組み。

ヤマトは動き出す。

ジャケットを脱ぐとその下はカーボン素材のアーマー。同じ素材のフルフェイスのマスクを被ると、ワンボックスの後部ドアを開ける。

中には改造オートバイ。入り組んだ街中では小回りの効くこれが必要不可欠だ。

これらの装備は全てタクの財力で整えられている。


今日のターゲットはよくあるひったくり。

ヤマトが先回りして、後からタクがワンボックスで退路を断つ。いつものパターンだ。

だがしかし今日はそのターゲットはいない。


「どういうことだ?」

人気のない裏通りまで出ると、車から降りたタクが訝しげに言う。

ヤマトはマスクをしたままでバイクから降りると、腰の特殊警棒をタクに突き付けた。

「これまで俺たちが解決した事件、おかしいなとは思ってたんだよ。そもそも一個人の俺たちが警察よりも早く犯人を見つけられるのはなんでか、とかさ」

ヤマトがこの規模が大きくなっていく犯罪の裏を独自に探ったのは、相棒であるタクを守るためでもあった。

タクはあくまでパトロンであり、自分の道楽に彼を付き合わせているだけなのだから。


そしてたどり着いたのは、これまで2人が解決していた事件たちの黒幕が、タクであるという真実だった。

犯人たちはタクから金を渡されて、犯罪を犯していたのだ。


「あーあ」

言って、タクは電子タバコの煙を気だるく吐き出す。

「じゃあ終わりってことで」


タクが犯罪者たちに指示を出していたことは本当だった。ヤマトとしては最後まで信じたくなかったが。

「ごっこ遊びにゃ悪役が必要かと思って。お前の願いをさ、叶えてやりたいと思ったんだよね。長い付き合いだからさ」

「それだけのために?」

「ひどいな、夢を叶えてやったのに」

「本当に傷ついた人や、ドラッグ中毒になった人がいる」

「俺にとっちゃどうでもいいよ、たった一人の友達のためだ」


ヤマトは思わずタクに殴りかかり、タクはそれを受け入れる。

馬乗りになって2発、3発と殴りつけたところで、このどうしようもない状況に、どうしようもなく脱力してしまう。

「もうちょい上手くやれば良かったよ、ごめんな」

タクは呆然とするヤマトを押しのけて立ち上がると、ワンボックスに乗り込む。

「嬉しかったよ。話しかけてくれて。中学の時」

ヤマトにできることは、去っていく車の影をただ見つめることだけだった。



国分町に今も残る噂がある。

なんでも、国分町で犯罪があると、テレビのヒーローのようなバイクの男が現れて助けてくれるというものだ。

県警はその噂を利用して、マスクを付けたライダーを国分町の治安維持マスコットキャラクターとして作り上げた。

かくしてこのエリアは劇的に治安を回復していくことになるのだが、そのきっかけとなった一人の男がバイクに乗ることはもう無かった。

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