きょうを読むひと

余記

きょうを読むひとたち

「ふぁぁぁ~~~~~!」


大きく伸びをすると、窓から朝日が射しています。

朝です。いい天気ですね。

時計を見ると、まだ六時。

会社には八時に出ればいいのでまだまだ時間があります。

まずは腕を上に伸ばしてぐぐ~っと伸びをしょう。

ぐっすりと眠っている間に凝り固まってしまった筋肉が、心地よい刺激を感じて爽やかな気持ちになります。

少し喉が渇いていたので、口をすすいだ後に冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してひとくち。

冷たい水の刺激で、しゃっきりと目が醒めました。


さて、今日の予定はどうだったかな?

なんとなく考えながら、朝食の準備をしていきます。

トースターにパンを放り込んで、冷蔵庫から卵とレタスを取り出して。

ベーコンとソーセージ、どっちにしようかな?

少し迷った後に日曜日に買っておいて、余っていたボローニャソーセージを取り出します。

少し高かったけど、スパイスの香りと溶けだした油の香りが元気になるような気がするんだよね。

今日は、苦手なお客さんとの会議があるから。

気分を奮い立たせる為に、ちょっと贅沢をしてみようと思ったのです。


フライパンで軽くあぶったソーセージの上に卵を割って目玉焼きにしたら、お皿に盛って、ちぎったレタスを添えます。

その頃には、トースターも元気にパンを吐き出すので、あつあつのパンにバターを乗せて朝食の出来上がり。

もぐもぐと食べながら、タブレットに表示されるニュースに目を向けます。

お食事をしながら別の事に気を向けるのは、少しお行儀が悪いかもしれませんが、忙しい朝の事です。仕方が無いですよね。


会社までは、三十分ほど電車に乗る必要があるので駅まで歩いて行くと、運の良い事に改札を通った時に丁度、電車が滑り込んでくるのが見えました。

「すいませ~ん、乗ります!」

よかった、間に合った!

ぎりぎりで駆け込んで来たのに周りの人たちは嫌がりもせずに場所を空けてくれます。

軽く会釈をして、ごとごと十数分も揺られると会社の前の駅に着きました。

近くのコンビニに寄って冷たいお茶でも買って、会社についてみれば始業の10分前。

ゆったりと自分の席に着いた後、マイカップを取り出してお茶を注いで一息つきます。

あの電車に間に合わなかったらもっとギリギリだったな。

そんな事を思いながら、今日の作業をする為にパソコンの電源を着けました。


「これって、どこの景色なんだろう?」

目の前に映っているのはどこか、憧憬を感じさせるような自然の風景。

毎回、電源を着ける度に思うのですが、忙しさに紛れてすぐ忘れてしまうのです。

何か、忘れているような・・・そんな思いを感じます。

ですが、いつまでも考えている暇はありません。

そう。今日は大事な顧客へのプレゼンテーションがある日なのです。

午前中いっぱいを使って、用意した資料を整理してスライドを用意しました。

午後いちからは、苦手なお客さんとの会議になります。

気合を入れなくちゃ!


「お疲れ様でした!」

幸い、お客様との会議も無難に終わりました。

頑張って作ったスライドも分かりやすい、と好評でしたね。

緊張した時間を送った反動で、席に戻ってぼーっとしていると、友達がコーヒーを持ってきてくれました。

ありがたく頂いて、コーヒーを啜りながらだべっていると程なく退勤時間となりました。

「今日はお疲れ様。無事に済んだ事だし、お疲れ様会で、ちょっと飲んでいく?」

そんな事を言われますが、ちょっと疲れた気がするのでごめんなさい、と真っすぐに家に戻ることにします。

途中、コンビニにちょっと寄って軽く夕食を見繕い、温めてもらったお弁当を持って家に帰ったらそのままぱくぱくと。

あぁ、今日は疲れたな。

仕事の量はいつもと変わらないでしょう。

ですが、色々と緊張して余計に疲れた気がするのです。

なので、ゆっくりと入浴して疲れをとったら、早めにベッドに入る事にします。

いつもの枕に、柔らかいお布団に包まれて目を閉じると程なく意識が薄らいで眠りに落ちていくのを感じました。


いかがでしたか?

これが本日配信された、今日いちにち分のあなたの生活です。



脱炭素化、という言葉を聞いた事はありませんか?

年々、地球の温度が上昇していく地球温暖化現象の要因として、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出を抑えようという運動の事です。

つまりは、人間の活動の為に地球を圧迫してしまっているので、地球に優しい活動をしようと言う事です。

が、単に地球に優しくしようというだけならば簡単なはずなのです。

問題は、人間ひとりひとりが「人間らしく」生きる為のコストが高くなっている為に難しくなっているという事。

人はパンのみにて生きるにあらず。

パンだけでなく、人には見せ物、さらにはいろいろと「人間らしく生きるにはどうするべきか?」といった、色々なものが追加された為に余計なエネルギーを必要とするようになってしまったのです。

では、どのようにすればよいのでしょうか?


要は、満足させればいいのです。

消費させないで満足させる。

こうして、今のシステムが出来上がったのです。


政府は省エネルギー化、脱炭素化への対応として、人類の意識のオンライン化を推進しました。

賛同した人々の意識をコンピューターに吸い上げてインターネット上に放流する。

こうして、人々は生活の質を落とす事無く脱炭素化への道を進む事が出来るようになりました。

今、あなたが読んでいた一日は、政府より配布されたあなたの一日の生活だったのです。


え?そんな馬鹿な、と思いましたか?


ここを読んでいるあなたなら、毎日パソコンの電源をつけると写し出される、どこか憧れや郷愁を覚えるような自然の風景を見ているのではないかと思います。

それは、あなたがオンライン化する事によって節約されたエネルギーによって守られた、地球の自然の姿なのです。

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きょうを読むひと 余記 @yookee

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