エピソード3 試験③

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部屋の中を覗き込むと、全面に血痕らしきシミとあちこちに、バカとか死ねとか汚い言葉が書きなぐられていて、服なども切り裂かれ、友達と撮ったであろう写真などはビリビリに破られてコテの顔には針が刺されたものが服と一緒に散乱していた。


ひ、酷い…なんなんですかこれは…

誰がこんなことを…

ラリトは驚愕している。


誰でしょうね…

と、モラルが考えていると部屋のドアの影になってる所で何かがうごめいた。


はっ!としてみんなが身構えてそちらを見ると。


ん?コテさん?コテさんじゃないですか!

どうしたんですか?大丈夫ですか?

歩み寄るラリト。


モラルは後ろで小声で。

ケイト!誰も居ないんじゃなかったんですか?


あぁ…俺様のサーチには生命反応は全くなかった!

間違えるはずがねぇ!ちゃんと調べたんだ!

小声で反論するケイト。


コテに歩み寄ったラリトは、肩を掴んだ瞬間、脳裏に憎悪、怒り、妬みの感情が流れ込んできて、掴んだ肩から手を離した。


どうしました?

モラルが尋ねる。


いや…何か…今、変な感情みたいなものが流れ込んできて…

頭を振りながら

いや、なんでもないです。

それよりコテさんを早く助けなきゃ!

もう一度、肩を掴んでこちらに振り返らせた。

そうすると…


あれ?ナンデモ屋さんの皆さん…どーしたんですか?

あれ?なんで私の家にいるんです?


あっ!えーと…これはですね…違うんです!

不法侵入とかではなくてですね…

あたふたしながらラリトは弁解しようとしているところにモラルが割って入る。


アナタこそ、今ここで何をしてたんです?


えっ?私ですか?

あれから…家に帰ってきて…部屋で…

あれ?何しようとしてたんだっけ?


話していると、コテの後ろの方にある黒い影がブワァーっと急に広がりコテを包み込んだ。

その影がコテの身体を包み込むと、左肩のあたりが膨れ上がって顔のように形作られた。

そして、突然喋りだした。


アア…ダレダ…オマエラハ…

ジャマ…スルナ!

オレハ…コノコ…ノ…タメニ…ヤッテル…ンダ…

ダカラ…ジャマスルナーーーー!

そう言ったと同時に黒い影が数本こっちに向かって攻撃してきた。


2匹とも、素早い動きでその影を避けている。


さて、どうしましょうか?

避けながらも話しかけてくるモラル。

先ずは、あの影をコテさんから引き剥がさないといけませんね。

何か、良い案ありますか?


引き剥がすのは何とか…できると思います!

けど、引き剥がした後はどうします?


抑える事はできますよ。

モラルは普通に答えた。


ホントですか!なら、私に任せてもらえませんか!


分かりました。アナタに任せます。


じゃあ、すみませんがちょっとだけ時間を稼いでもらえますか!


分かりました。

と、言って素早く動き回って影の攻撃を一手に請け負った。


それを見たラリトは、後ろに飛び下がって祝詞を唱え出した。

淡い光がラリトを包み込み始めた。


それを見た影は危険を感じたのか、そちらに向かって攻撃を放った。


おっと、つれないですねぇー。

俺が相手してあげてるのに他に気を向けるなんて。

と、言ってラリトの前に立って全ての攻撃を素手でいなしている。


そうこうしてるうちに、ラリトの光が一段と強くなった瞬間。


行きます!

と、言って一直線に影の距離をつめて、顔に手をかけた瞬間、影の攻撃が消滅して明らかに弱っているのが目に取れた。

うぉぉぉぉ!離れろぉぉぉ!

力の弱った影をコテから引き剥がしモラルの方に投げつけた。

お願いします!


分かりました!後は任せて下さい!

ケイト!アレを!


了解!ポータル呼び出し!

そう言うと、ケイトの目のモニターから上空へ向けてワープホールみたいのが現れて、そこにモラルが右手を突っ込んで何か銃らしきものを取り出し目の前に投げ出された影に撃ち込んだ。

捕縛用の光の網が飛び出して、影を押さえつけた。

ふぅ…何とかなりましたね。

モラルは安堵の表情で呟いた。

ラリトは、影を外して倒れかけたコテを抱き抱えていた。

そっと、そのまま床に下ろしてから立ち上がり捕縛した影の方へ、歩き出した。


さあ、アナタ…色々聞きたい事があります話してもらいましょうか。

凄く冷酷な目で影をラリトは睨みつけた。


ボク…ハ…ワル…クナ…イ…

スベテ…コノコ…ノ…タメニ…


はあ…どういうことですか?

モラルが尋ねる。


ボクハ…コテ…スキ…ダッタ…

コテ…ガ…シアワセ…ニ…ナル

テツダイ…シタカッタ…ダケ


ラリトは頭を掻きながら。

ああ、もう!ちょっと待ってください!

ラリトはさっきと違う祝詞を唱えだして、そっとその影に手を当てた。

そうすると、その影の顔が人間の時のように戻り普通に話始めた。


ああ、ありがとう…

僕は、コテと知り合った時にはもう不治の病に侵されていて、いつ死んでもおかしくないくらいだったんです。

そんな時にコテと出会い、好きになるのにはそんなに時間はかかりませんでした。

いつも、気さくに声をかけてくれたり。

他愛のない事で笑ってくれたり。

本当にコテと話すのは、とても楽しくて死にたくない!と、思うほどに…

けど、命の終わりは近づいてきて…死ぬまでに僕は何をしてあげられるのだろうと考えるように…

そして、何も出来ないまま僕は…別れを告げることさえも出来ないまま息をひきとりました。

その瞬間、声が聞こえてきて、

「貴方には、まだ出来ることがありますよ」

「彼女と、彼女の仲の良い人とをもっと仲良くしてあげましょうよ。」

「永遠に一緒にいられるように。」

「それには…」


そう言ってその人は、僕にその方法を教えてくれたのです。

コテの仲の良い人の血と内蔵を食べさせると一生一緒に、1つになれるのだと。

そうして、僕は仲の良い人を夜な夜な殺しては寝ているコテに食べさせていました…

そして、残りはお風呂場で処理しました。

それが間違った愛だと分かっていても…もう止められませんでした…


モラルは、無表情のまま聞き。

ラリトは、なんとも表現出来ない怒りと悲しみの表情で聞いていた。


ごめんね…ごめんね…ただ、幸せになってほしかったんだ…

そう言って、コテの方を悲しい顔で見つめて泣いている。

貴方の気持ちは、私達がしっかり受け止めました…

そろそろ、楽になってください…

ラリトは立ち上がって、祝詞を唱えだし優雅な舞を始めた。


あっ…あたたかい…ホントにごめんね…そして…ありがとうコテ…生きる意味を与えてくれた君に感謝してま…す…


ラリトの、舞が終わる頃には影はすっかり消滅していた。


さあ、終わりましたね。

帰りましょうか…

モラルが言うと。


いや、まだ終わってませんよ。

ねえ!コテさん!いや、コテさんの中にいる

そろそろ、出てきたらどうですか?


モラルが、えっ?っとした顔でコテの方を見ると。

身体から、黒いモヤが出ている。

クックック…アーッハッハッハと、笑いながら身を起こして立ち上がった。

特徴的だったオッドアイは、真っ黒に染まり眼球が赤くなっているコテがそこには立っていた。

チッ!全く使えない奴だな!

私が、せっかく教えてやったのに、このざまかよ!

まあ、アイツのやってた事は、ただの呪詛だったんだけどな!

そのうち、異臭を放ち身体中が爛れて、かわいいかわいい顔も醜くなるはずだったのによー!

そう言って高笑いをしている。


お前らも、なんなんだよ!

邪魔しやがって!早くコイツを殺せよ!

イライラを隠せないようだった。


アナタは、どなたですか?

モラルが冷静に尋ねる。


あ?私か?コイツ!コイツに殺されたんだよ!

そう言って自分の頭を叩いている。

殺された?どうゆうことです?コテさんがアナタを殺害したってことですか?

ラリトは、身構えながら聞いた。


は?私が?私がこんなビッチに殺されるわけないだろ!

全部、コイツのせいで人生狂ったんだよ!

コイツはなぁ!私のいたサークルに突然現れて、仲の良かったみんなを狂わせたんだよ!

最初は、可愛らしい後輩くらいしか思ってなかったんだけど…突然、馴れ馴れしくなったり、そんなに親しくないのに、気軽に話しかけたり、甘えたり、褒めたり、じっと見つめたり!

色んな男に色目使いやがって!言葉巧みに騙してたんだよ!

男どもなんて、急にコイツをチヤホヤしだしやがって!

それで、次から次へと男を取っかえ引っ変えだよ!

その中に、私の彼氏もいたんだ!

ある日、好きな人が出来たから別れよう。って言われて、何故って尋ねたら…

コイツだよ!コイツ!コイツが絡んでたんだよ!

嫌だ!って言って抱きついたら、振り飛ばされてそのまま車道に飛ばされて…

はーい!終わりー!私は打ちどころが悪く、そのまま死んでしまいましたとさ!

笑えるでしょ?笑えよ!

なんで私が死んで、コイツは生きてて、まだ他の男と遊んだりしてんだよ!

不公平だろ!


モラルが哀れんだ目をして。

醜いですね…ただの嫉妬じゃないですか。

呆れ顔で言う。


なっ!なんだって!

そんなわけないだろうが!コイツだよ!

コイツがすべての元凶なんだよ!

そう言って喉元を爪を立てて掻きむしっている。


お前らに言ったって分かるもんか!

さあ、どうする?

私を、殺りなさいよ!コイツごとね!

それとも…あなた達が…死ぬ?

黒い影を、伸ばして攻撃してきた。

攻撃は先程と変わらないがスピードが増している。


さほど気にしてないのか、見事にかわす2匹。


先程と同じ事出来ますか?

モラルが尋ねる。


んー…難しいですね…先程は、ただ絡みついていただけなので剥がせましたが、今回は同化してますからね…

攻撃をかわしながら応える。


じゃあ、本人の希望通り殺しますか?

カイト、ポータルお願いします。

そう言って、ポータルから2本の刀を取り出し両手に持ち身構えた。


いや!ちょ、ちょっと待って下さい!

何か!何かいい方法探しますから!

そう言って、考えを巡らせている。


ちょっとだけですよ。

俺は、待つの好きじゃないので。

両手に持った刀で影を斬り払いながら言う。


ちょっと、効くかどうか分かりませんが試したい事があります。

いいですか?


どうぞ。

素っ気ない返事をするモラル。


式鬼しきを使います!

先程より時間が、かかりますが大丈夫ですか?


ええ、気にせずやってください。


ラリトは、懐から人型の紙を取りだし何やら念じている。


何をしようとしてる!

させないよ!

先程より影を増やしスピードも増した攻撃を繰り出した。


モラルがラリトの前に立ちそれを切り払うが、押されだしている。


はっ!いつまでそうしてられるんだい!

ほら!ほら!


モラルが、さばききれない影を身に受け始めた。

1つの影がモラルの太ももを貫く。


クッ…

苦痛の表情を浮かべるモラル。


モラルさん!大丈夫ですか!


このくらい、大丈夫です。

アナタは、それに集中して下さい。

彼女を殺さないで助けるんでしょ?

痛みをこらえなが笑顔で応えた。


で、でも…

分かりました!よろしくお願いします!

と、言って術に専念するラリト。


アーハッハッハ!どうしたのさ?

だんだんボロボロになってきてるよー。


うるさいですね…俺が、たかだかメンヘラ女に殺られるわけないでしょ。


あー!じゃあこれならどうさ!

影の数を増やして襲いかかったきた!


それを2本の刀で防いでいるが、徐々に疲れが見え始めている。

そんな時に…


おまたせしました!

そう言って、モラルの影から飛び出し人型の紙をコテの方になげつけた!


ひょいとかわして。

はっ!そんなの当たるわけないじゃん!

残念でしたー!

嘲笑う彼女にむかって。


ニヤッと笑みを浮かべて。

それでいいんですよ。

そうして、もう一度念じるラリト。


彼女の後ろにある人型の紙がみるみるうちに形を変え、異形の鬼と変わった。


式鬼!その悪霊を引きずり出して完全除霊しろ!

鬼は彼女に掴みかかった。


いいのかい?この子が傷つくよー!

余裕の表情で言う。


それは、どうですかね?

やれ!


鬼が彼女を掴むとコテにはなんの影響もなく霊体だけを掴んだ。

そのまま、引きずり出し両腕で抱えあげた!


えっ?!どうして?

なんで、アタシだけなのさ!


それは、その式鬼は私にしか見えない存在で人には害を与えられないんですよ。

だから霊体であるアナタだけを掴まえる事ができるんです。


くっ!クソが離せ!離せって言ってだろうが!

影を繰り出し式鬼に攻撃するがものともしない様子だった。


嫌だ!嫌だ!死にたくない!消えたくない!

助けてよ!悪いのはこの女なのに、なんで私だけが…

泣き叫びながら言う。

お願い…助けて…もう、この子には手を出さないから…お願いします…消えたくない。


モラルが、足を引きずりながら。

ダメですよ。何言ってるんですか?

アナタは、さっきの彼の弱みにつけ込んで、いいように操り、大勢の人を殺めたじゃないですか。

悪い事をしたら罰を受けるのが当然の報いです。

子供でも知ってますよ。

それじゃあ、さようなら。

冷ややかな表情で言い放つモラル。


それと同時にラリトが念じると。


いっそう式鬼が締めつけを強くする。


ああ…嫌だ死にたくない…

私は悪くないのに…♯☆ゞ〃様……

そう言いながら、消滅していった。


アナタは、もう死んでましたから。

そして、自業自得ってやつです…

アナタの逝く所は地獄でも、ましてや天国でもない…無に帰すのです…

ラリトが悲しそうな表情で小声で言った。


ふぅ…っと言ってその場に座り込むラリト。

モラルも、苦痛の表情をしながら、その場に座り込んだ。


疲れましたね。

と、モラル。


ええ、疲れました。

少し苦笑いしながらラリトも言う。

あっ!と、言いながらモラルに詰め寄る。

足!足!大丈夫ですか?

見せてください!


大丈夫ですよ。大袈裟な、唾つけとけば治りますから。


そんなわけないでしょ!

見せて下さい!

と、言ってモラルの傷口に両手をかざすラリト。

すると、淡い光がモラルの足に注がれるとみるみる足の傷口が塞がっていく。


ラリトがフラっとして。

すいません…もう妖力がなくて…


大丈夫ですか?

十分ですよ。傷口も、塞がりましたし血も出てないみたいですし。

ありがとうございます…ラリトさん。


あっ!今!初めて私の名前呼びましたね!

ニコニコしながらラリトは言う。


えっ?初めてでしたっけ?前から呼んでましたよ。

気のせいじゃないですか?

そっぽを向いて表情を隠してる。


まあ、いいですけど。

お疲れ様でした。

そう言って右手をグーにして突き出す。

モラルは、ちょっと躊躇しながらも同じく右手をグーにして突き出してコツンと合わせて。

お疲れ様でした。


……つづく






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