第3話 溶岩迷宮


 そして時は、リューカたちが迷宮から出たところに戻る。

「いやーーーご苦労様ー!ずいぶんあっさりこなすんだねえ君たち。初の迷宮攻略どうだった?」

 緑色の人型の長が3人に言った。

「楽しかった!でもあんまりいい素材は手に入らなかったから残念って感じかなー。」

 リューカが長に答える。

「・・・そうか。いや無事でなによりさ。さて、さっそくで悪いけど君たちにはこのあとすぐにもう1つ迷宮を攻略してもらおうと思う。」

「早速過ぎるわね。少しは休ませなさいよ・・・あ、これ魔石よ。」

 セレナが長に魔石の入った袋を渡す。

「おおっ!どれどれ魔石の質とサイズでだいたいの迷宮の難易度がわかるからねえ。」

 長が魔石を袋から取り出した。それを観察して言った。

「うむ、かなり良い品質だね。大きさは少し物足りないがまあ気にするほどでもないって感じだね。ボスなかなか強かったんじゃないか?」

「カインが一発もらうくらいだからねー、今まで練習相手よりは弱いけど、かなりの強い方だったのかな。」

 セレナが答える。

「魔石は女王の呪いを防ぐ結界維持のために必要なものだから何個あっても助かるよ。さて、諸君。休憩はどのくらい必要だい?」

 長が腰に両手を当て、3人に問う。

「そのポーズむかつくわね。」

「人使いの荒いことだな。」

「すぐ行くー!次はいいものがあるといいなー。」

「君たちはあれだね・・・イイね!!!」

 長がぐっと指を立てて3人に向ける。


 さて、テンポよく次の迷宮の入り口へと進む。

「さっきは少し考えが甘かったからな。迷宮に入る前に魔法をかけておこう。」

「そうね、じゃあかけるわよー。環境から身を守る魔法エルレリース!」

 薄青色の光が3人を包む。

「これで、気温や大気、重力とか全部をこの今いるところと同じまま行動できるようになったわ。・・・でもあれね、この魔法ちょっと疲れるわ。」

 セレナの顔に疲労の色が浮かぶ。

「この魔法ホントにすごいよねー!私も覚えたいなー・・・」

「この魔法は師匠から教えてもらった魔法なんだから当然よ!」

 セレナが胸を張って自慢する。少しだけいつもより幼く感じる。

「ラースタ先生か、最近見ていないな。元気かな?」

「師匠はねー多分また籠って魔法創っているのよ。今度お菓子でも差し入れしてあげよーっと。」

「ああ・・・ラースタ先生が昔言ってたなー。『あの威力に対抗できる解毒魔法が思い浮かばない』って。」

「どーいう意味かしらー?リューカ?」

 3人がラースタの思い出話で盛り上がる。その話を聞くだけで、アリシアの顔が少し曇るが、すぐに元に戻る。

 しかし、リューカはその表情を見逃さなかった。


「じゃあ先生ー!行ってきまーす!」

 リューカたちは元気に手を振って迷宮に向かった。それにアリシアと長は応える。


「アリシア、表情に出すなんて君らしくないな。」

 長がアリシアを注意する。

「すみません・・・どうしてもこの年になると厳しいですね。」

「リューカに気づかれていたぞ。」

「そうですか。あの子の鋭さはたまに本当に怖いものがありますね。こちらを見ているようで、その奥を見ているそんな感じがします。」

「それにしても彼女らは優秀だね!さっきの迷宮での反省をしっかりと活かしている。とても今日が迷宮攻略初日とは思えないよ。」

「そうですね。私としてはまさか一日に2つも攻略させるなんて思っていなかったものですから少し怒っていますが、あの子たちはそんな弱くないのですね。改めて成長を実感させられています。」

 長とアリシアはしみじみとリューカたちの成長を実感していた。



「うーむ、さっきの迷宮で学習しておいてよかったなあ。」

 カインが迷宮内でしみじみと言う。

 それもそのはず、迷宮内は溶岩で溢れかえっていたのであるから。

「あんたたち、足滑らして溶岩に落ちたらいくら師匠の魔法でも耐えられないわよ!」

 セレナが注意喚起する。しかし、リューカが言う。

「セレナこそカインに抱っこしてもらったらー?一番どんくさいんだからー。」

「さすがに大丈夫よ!あんただけ魔法解いちゃうわよ、そんなこと言うと。」

「いや、そういうわけにもいかないみたいだ!リューカ!」

 カインがセレナをお姫様だっこし、迷宮の奥へと急いで進み始めた。

「おおっ!でっかいヘビだー!」

 3人の後ろに溶岩を纏った巨大な蛇が現れた。

「リューカ、ここだとちょっと戦いづらい。もう少し迷宮の奥に急ぐぞ!」

「んーあいつかなりはやいな。ちょっと足止めしていくから先に行っててー。」

 リューカの提案にカインは少し躊躇しながらもうなずく。

「わかった、先に行って安全な場所を確保しておく。気を付けてくれ。」

「うん!そっちこそセレナを落とさないようにねー。セレナも落ちないようにしがみついておきなよー。」

「落ちないわよっ!」

 カインとセレナは先に迷宮の奥に進んでいった。


「さて、さっきの迷宮ちょーーーーっと不完全燃焼だったんだよね。キミ、いいところに出てきたねえ。」

 リューカが悪い笑みを浮かべる。そしてその不吉な魔力を感じ取ったのか、『溶岩の蛇』は威嚇したまま動かないでいる。

水槍を放つ魔法ウルクラフ!」

 水の大きな槍が蛇を襲う。しかし、『溶岩の蛇』はその口からマグマを吐き出し、相殺する。その二つのエネルギーは濃密な霧となって周囲の視界を奪った。

「ありゃ、さすがに熱いところで水の魔法使っちゃダメかー。何も見えない。」

 その隙を見て『溶岩の蛇』は溶岩の中を移動し、リューカの背後を取った。

 巨大な口がリューカを襲う。しかし、リューカに動揺はない。

冷気を放つ魔法コースレイ!」

 その強烈な冷気が濃密な霧とともに『溶岩の蛇』を凍らせてしまった。

「さっきの霧はわざとだよ。とびっきり魔力を込めた冷気をぶつけたからいくら溶岩でも抜け出せないでしょ?」

 そういうとリューカは『溶岩の蛇』、いやもはや『蛇の氷像』と化してしまったものに氷の槍をぶつけた。

「んーーーーーきもちいーーーーーーー!!!」 

 リューカが手を挙げる。

「カインがいると撃てない魔法もあるからねー。広範囲魔法でがっとやりたいときもあるじゃーん?あースッキリした!さて、合流しますか。」

 満足した表情を浮かべたリューカはゆっくりと迷宮の奥へと進んでいった。



 その頃、カインとセレナは迷宮の奥というよりは先ほど溶岩があった場所の上層にいた。

「なんだあの仕掛けは!?」

 カインが憤っていた。

「そういえば今回は罠検知の魔法を使うの忘れてたわね。まさか地面ごと上に飛ばされるとは思わなかったわ。」

 セレナが状況を整理した。

 先ほど、溶岩地帯を抜けた2人は溶岩の影響がないところでリューカを待つ予定であった。

 しかし、その地面には罠が仕掛けられていた。地面ごと上層に飛ばされてしまったのである。

「リューカと合流できるかしら・・・ってカインなにしてるの?」

「いやこの地面掘れば下に行けると思ったけど・・・やはり迷宮の壁や地面は壊せないようだね。」

「迷宮は普通の空間じゃないらしいからね。空間破壊魔法とかそういう異次元の魔法が必要ってアリシア先生が言っていたよね。」

「セレナ、環境から身を守る魔法エルレリースはどのくらいの時間もつ?」

「ざっと6時間くらいね。リューカなら大丈夫よ、どうせのびのびしてるわ。」

「そうだね、むしろおれたちのほうが気を引き締めていかないとな。」

「それで、どっちに行けばいいのかしら?」

 2人は今、一本道のど真ん中にいる。

「進行方向的には左かな。リューカがいると魔力の歪みとか追えて便利なんだけどね。」

「私たちは普通に進みましょ?」

 セレナが笑顔でカインを促す。2人は歩みを進めていく。



 一方のリューカは先ほど2人が罠にかかった場所にまでやってきていた。

「なにこの穴でっかーい!というか2人の魔力全然感じ取れないなあ・・・どこにいったのやら。」

 リューカは穴を飛び越え、先に進んでいった。

「この迷宮あれかなー、かなり広いのかな?魔石の歪みみたいなものもあんまりはっきりとわかんないしー・・・そういえばさっきのヘビの反応も遅れたなあ。」

 リューカは迷宮の特性を考えながら進んでいる。と急に迷宮の壁をきょろきょろしだした。

「ん?ああーーーーー!!!これ、『炎灼晶』じゃん!」

 リューカが壁に生えていたものを見つけた。美しい赤から橙色透明の結晶だった。

 きょろきょろしたリューカはおもむろに手をかざした。

「へっへっへ、まあ合流もゆっくりでいいかなー?素材狩りじゃーーー!!!」

 セレナが言った通りリューカはのびのびと迷宮を攻略していた。




「セレナ、気を付けて。この先になんかいる・・・と思う。」

「どうしたのカイン?歯切れが悪いわね。」

「なんかこの迷宮、魔力が感じ取りにくいんだ。敵の気配の方で追っているからなんとかわかるけど。」

「そう・・・じゃあ魔法かけておくわね。身体を強化する魔法ディグナス!」

 2人は身体能力を強化し、先にあるひらけた部屋へと進む。

 そこには大きな魔物がいた。体表が岩石で覆われた四足歩行の獣であった。

「また硬そうだな。・・・いくぞ!」

 カインがすばやく攻撃に向かった。

 『岩石の獣』の懐にもぐりこんだカインは下から魔法を放つ。

拳で衝撃を放つ魔法フィ―ンクト!」

 衝撃が『岩石の獣』を襲う。しかし、あまり意に介していないようであった。

「あんまり効いてない感じよー!ってなにあいつ何する気!?」

 セレナが驚く。それもそのはず、巨体である『岩石の獣』が飛び上がり、丸まり始めたのであった。そして、勢いをつけセレナに向かって転がっていくのであった。

「待って待ってこっちくるーー!?」

 セレナが急いで逃げる。しかし『岩石の獣』はその速度を加速し続けている。

脚を硬質化する魔法ソルガードン!」

 『岩石の獣』の横からカインが蹴り飛ばす。軌道が大きくずれ壁に激突した。

「大丈夫?」

「あーびっくりした。にしてもあいつタフすぎない?全然効いてないわね。」

「そうだね。本気でやらないとだめかもしれない。」

「わかったわ。回復は任せてちょうだい!」

 2人が話し合いを終えたタイミングで『岩石の獣』がまたしても2人に向かって転がってきた。

「ふぅー。」

 カインが目を瞑り集中している。さらに拳に魔力を集めている。

 『岩石の獣』が迫る。そして、カインの射程に入り込む。

「はっ!」

 目を開いたカインが魔力を集中した拳を『岩石の獣』に叩き込む。

 そして同時にセレナが回復魔法をかける。

身体を回復する魔法ティラ!」

 カインが叩きこんだ『岩石の獣』の背中部分が破壊されていた。『岩石の獣』もこれにはたまらず唸り声をあげる。

「そこだ!拳を硬質化する魔法フィガードン!」

 硬質化した拳で『岩石の獣』の破壊部位を追撃する。

 連撃で『岩石の獣』にとどめを刺しに行く。

「終わりだ。はあーーーっ!!!」」

 カインが魔力の籠った拳を突き立てた。

 『岩石の獣』は断末魔をあげ崩れていった。

「ふうー、硬い敵が多いな。あの魔法を完成させなきゃなマズいようだな。」

 拳から血を流しているカインが『岩石の獣』の上で呟く。

「カインー!大丈夫!?」

 セレナがカインに声をかける。カインは『岩石の獣』から飛び降りた。

「ああ、大丈夫だよ。」

「どこがよ!?魔法を使わず魔力をぶつけるのは威力こそすごいけど体への負担もすごいんだからほどほどにしておきなよー。」

 セレナがカインを心配しながら回復魔法をかける。

「ああ、気を付けるよ。おれもリューカみたいに色々な魔法を覚えておかないとダメだな。こういう状況を想定して戦い方の幅を広げないといけない。」

「少し休憩したら先に進みましょうか。」

 セレナとカインは少し休憩し、リューカとの合流に向け先を急ぐのであった。



「うーむ、素材を集めていただけなんだけどなあ。」

 リューカは1人、巨大な扉の前にいた。

「どうみてもボス部屋だよねー。さっきの迷宮よりやっぱり難易度高いみたいだ。こーんな仰々しい扉まで用意してさー。」

 リューカは考える。2人を待つのかそれとも1人でこのボスと戦うのか、はたまた2人を探しに行くのか・・・

「うーんまあ採れた素材たちの整理でもしながら気長に待つとするかー!」

 すると上から振動がし始めた・・・それに大きな音もする。

「お?もしかしてここヤバい感じ?にっげろー!」

 リューカがその場を離れた。その瞬間、天井が崩落した。

「っっっ!!!あーーーびっくりした!」

「また罠か・・・。上に行くより落ちる方が『ひゅっ』ってなるから怖いな。」

 カインとセレナが天井に乗っていた。

「あー2人ともー、なんか楽しそうだねえ。」

 リューカが声をかける。

「あー!いたーーー!良かった、やっと合流できたー!!!」

 セレナがリューカに飛びつく。

「リューカは無事か?」

「うん!そんなに強い敵も出なかったし、変な罠もなかったから楽ちんだったよー。」

「何言ってのよあんた!ギリギリだったのよーホント。」

 そういうとセレナはリューカに魔法をかけた。

「私の魔法で普通にしてられるけど、この場所めちゃくちゃ高温なのよ?そして、出発前にかけた魔法が解けるまであと5分だったんだから。」

「元はといえば、セレナたちがどっかいったのがいけないんじゃ・・・」

「こっ細かいことはいいのよ!はー良かった間に合った。こっちのルート敵が多くて多くて、カインも私もボロボロよ。」

「ホントだー、けっこうボロボロじゃん。じゃあボス戦は2人とも支援だけしてくれればいいよ。私はまだかなり余裕があるから。」

「・・・そういうわけにはいかない。ところでリューカはボスの場所の目途が立っているのか?」

「何言ってるのカイン、そこそこ。」

 カインが振り向く。

「おお、目の前だったのか。にしてもでかい扉だな、中の敵もそうとうでかいんだろうな。」

「まったく、さっきと違ってこの迷宮の難易度急に上がりすぎじゃない?連続で来るところじゃないわ。」

 長に対して憤るセレナ。

「とりあえず2人ともこれ飲みなー!魔力上げていこー!」

 リューカは回復薬を差し出す。そして少しだけ休憩時間を取る。


「さて、行こうか!2人ともあんまり無理しなくていいからね、私今回は本気出しちゃうかもだし。」

 リューカが2人をいたわる。

「リューカが本気出すと、オレが巻き込まれるからな。あんまりでしゃばらないようにするよ。」

「ホントにリューカ元気なの?いくらあんたとはいえ、この難易度の迷宮に6時間もいたらへばっちゃわない?」

「ちょー元気なんだよねーふっしぎー!じゃ、扉開けまーす。」

 リューカが扉を開ける。そこには巨大な空間が広がっていた。

 その巨大な空間はところどころから溶岩が噴出しており、非常に高温になっているのがわかる。

「ひろーーい!けど、敵が見えないな。どこだーい、やーい!」

 リューカが叫ぶ。

「やーいって意味が分からないわ。それにしてもこの場所の気温、さっきよりさらに高いわね。入り口のところみたいね。」

「くそっ、敵の気配が判別しづらいな。セレナ、防御魔法の準備はしておいてくれ。」

 そのとき、頭上から無数の火炎の球が降り注いだ。

攻撃から身を守る魔法ガーリース!」

 セレナが防御魔法を放つ。辛うじて火炎の球から守られた。

「いたねー。しかもあれは本でしか見たことないやーつじゃない?」

 リューカが目をきらきらさせて天井を見上げる。

 そこには、巨大な翼と尻尾を持ち、大きな牙と頑丈な鱗を持つ伝説の生物

『ドラゴン』がいた。

「あの『ドラゴン』は赤い鱗で覆われているから、炎タイプの『レッドドラゴン』だねえ。あーまさかこんなところで会えるとは・・・」

「オレの戦闘スタイルだと飛んでいる敵がちょっと苦手だけど・・・」

「やー、ドラゴンと魔法の撃ち合いができるなんてホントに嬉しいなあっと」

 リューカが防御魔法のエリアから出る。

「2人とも今回は見てるだけでもいいからねー!さて、どうやって叩き落しちゃいましょうかねえ・・・?」

 リューカの目が獲物を狙うものに変わる。

「今のリューカの本気が見られるいい機会かもしれないな。」

「そうね。にしてもドラゴンを1人で倒せたとしたら、それについていくのけっこうしんどいわねー。」


風槍を放つ魔法ランクラフ!!!」

 リューカがまるで小さな竜巻のような槍を『レッドドラゴン』に向かって放った。

『レッドドラゴン』もそれに応戦するように火球を放つ。

「残念!風の魔法は炎を巻き込んでさらに加速するよっ!」

 炎を巻き込んだ風の槍はドラゴンに直撃する。しかし、『レッドドラゴン』はまったく意に介していないようであった。

「どんどんいくよー!それっ!」

 リューカは風の槍を10発同時に放った。

「すっご!あれ10発も同時にだせるもんなの?なんて魔力量と精密さ!」

 セレナがびっくりして思わず声を上げる。

 『レッドドラゴン』もそれに対応するために火球を放つが、その火球をすり抜けた2発の槍が『レッドドラゴン』に当たる。

「あら、もう当たっちゃうの?じゃあ次は20発だね。」

 先ほどでも異常な数の槍がさらに倍加し、『レッドドラゴン』を襲う。

 2発の槍で少しひるんで対応が遅れた『レッドドラゴン』に20発の槍が直撃する。

「少しは効いたかなー?」

 リューカが楽しそうに見上げている。


 風によって起こされた煙が晴れる。そこにはほとんど無傷の『レッドドラゴン』が余裕の表情で佇んでいた。

「あらら、あんまり効いてないや。さっすが本物のドラゴン。なかなかやっかいじゃんあの鱗。」

 リューカによる攻撃で『レッドドラゴン』は完全に敵だと認識したようだった。地上にいるリューカめがけてその巨大な爪を突き立ててきた。

風の盾を出す魔法ランリース!」

 リューカは風の盾を出現させ、その攻撃を難なく防いだ。

「すぐに物理攻撃に切り替えられるなんて賢いじゃないか、結晶槍を放つ魔法タルクラフ!」

 リューカも瞬時に反撃に転じる。水晶のようなものを槍のように飛ばして攻撃する。『レッドドラゴン』も華麗に躱す。先ほどの風の槍も少しは効いていたのかもしれない。

 リューカと『レッドドラゴン』の激しい攻防が続く。しかし、地上にいるリューカは空中を縦横無尽に駆ける『レッドドラゴン』相手には少し不利な状況が続く。

「んんんー強いねー。埒が明かないな。そろそろ強力なのぶつけちゃおうかな?」

 リューカがしびれを切らして戦況を変えようとした直後だった。


 『レッドドラゴン』が先ほどまでより遥かに濃密で巨大な魔力を放つ準備を始めた。


「ちょっと!?あの魔力はヤバいわよ、リューカ!」

「そうだね。あれはヤバい。さっきまでの比じゃないね・・・本気のブレスがくるから強めの防御魔法を展開しておいて!」

「わかったけど、あんたはどうするのよリューカ!?」

「私は大丈夫、ちょっと本気出すから。」

「んーもう!死なないでよ!」

「だいじょーぶだって、ホントにセレナは心配性なんだから。それよりはやく!」

「わかったわよ!攻撃から身を守る魔法ダルア・ガーリース!」


 セレナは先ほどより強力な防御魔法を展開した。リューカは全身に魔力を漲らせている。

『レッドドラゴン』の膨大な魔力が口腔内に集まり巨大な魔法陣が出現した。


 その瞬間、圧倒的熱量が3人を襲った。


「くっ・・・なんて熱と魔力。これが本物のドラゴンブレスってやつ!?」

 セレナは手を前に出し、防御魔法を維持する。なんとか耐えられているようだ。


 いったいどのくらいの時間、攻撃を食らったのだろうか。実際にはほんの数秒なのだが、あまりの威力に気が遠くなっていく。

 セレナが膝をつく。元々けっこうボロボロだったのにも関わらず強力な防御魔法を展開し、限界がきたようだった。

「大丈夫か、セレナ!?」

 カインがセレナを倒れないように抱き留める。

「なんとかね・・・それよりリューカは?」

 2人は先ほどまでリューカがいた場所に視線を向ける。そこにリューカの姿はなかった。


 『レッドドラゴン』は不思議な感覚を覚えていた。

 基本的にあのブレスを放ったあとになにかが残ることはないのだ。しかし、実際に眼前には2体生き残っている。それに敵と見定めた1体の気配がない。ないのだが、倒した気がしない。それになにか言いようがない不安のような感覚が本能的に沸いていた。


「リューカ!」

 セレナが虚空に向かって叫ぶ。当然返事はないはずだった。しかし、

「はーい、無事だよー。」

 なにもない空間からリューカの声が聞こえる。・・・のではなくドラゴンの方からリューカの声が聞こえた。


 リューカはドラゴンの上に乗っていた。『レッドドラゴン』もそれに気づき、咆哮をあげ激しく動く。

「おおー!?あんま動くんじゃないよ・・・これかな?逆鱗ってやつ。」

 リューカは首筋にあるドラゴンの弱点を見つけた。

結晶槍を放つ魔法ダルア・タルクラフ!」

 リューカは巨大なひし形の水晶のようなものを『レッドドラゴン』の逆鱗にぶつけた。『レッドドラゴン』は雄叫びをあげながら墜ちていく。

「ドラゴンなら耐えられるよね?」

 リューカはさらに10発の結晶を放った。なすすべなく『レッドドラゴン』は地に伏せることになった。


 空中にいるリューカはそのままセレナとカインのもとに飛んできた。

「あんたいつの間に浮遊魔法なんて覚えたのよ!?」

「へっへー!いいでしょ?でもこれけっこう魔力使うし、魔法を創るための素材もかなりレアなものばっかりだから教えてあげられないや。」

「いや、それだけじゃ説明がつかないな。どうやってあのブレスを避けたんだ?」

「さっすがカイン!目の付け所が違うね。あれはねー・・・っと。悠長に話している場合じゃなかったみたいだ。」

 リューカは先ほど自分がいた場所の真下を睨みつけた。

 『レッドドラゴン』はその身に何本も結晶が突き刺さっていながら、起き上がっていた。

「魔石の影響か、そもそもの生命力かな?それとも生物の頂点としてのプライドかな?なんにしても尊敬に値するね。」

 リューカが魔力を高める。追撃に備えているようであった。

「グオオオオオオオオオオオ」

 『レッドドラゴン』が叫ぶ。それと同時に体全体を炎で包んだ。

「へえ、自爆攻撃か。そうだよね、負けることだけは許さないよね。でもそれはさせないよ。」

 リューカが手を伸ばす。

結晶槍を枝分かれする魔法ログア・タルクラフ!」

 『レッドドラゴン』に突き刺さっていた結晶がリューカの魔力に反応して、さらに全身を貫いていった。

 

 『レッドドラゴン』は完全に沈黙した。リューカの勝利である。



「あーあ、内臓もきれいに持って帰りたかったけど仕方ない。今度戦うときはもう少し傷つけないような魔法を用意しておかなきゃね。」

 リューカが少し・・・いやかなり悲しそうな顔をしていた。

「あんたホント化け物ね。もうドラゴンより強いなんて。」

 セレナが呆れた顔でリューカを見ていた。

「ごめん2人とも。今回本当に役に立たなかった。」

 カインが落ち込んでいた。

「まあ道中頑張ったんだからおーけーおーけー!それよりドラゴンの解体手伝ってよ!」

 リューカとカインがドラゴンの解体をして素材と迷宮を作る魔石の回収を行った。

「けっこう貴重な素材が採れたー!それに見てよこの魔石!さっきのと比べたら大きさも輝きも全然違うの!」

 リューカは手袋越しに掴んだ魔石を掲げた。先ほどの迷宮で手に入れたものよりも3倍は大きく、深紅に輝く赤い魔石であった。

「ほんとね!とてもきれいだわー。これはリューカじゃなくても欲しくなっちゃう。」

「魔石のせいでこの迷宮の魔力感知が難しくなっていたみたいだね。なんか霧が晴れた感じだ。」

「そうだね。せっかくだし、この広い場所を感知してみようかな。」

 リューカが目を瞑る。

「あ!やっぱりここにも隠し場所がある。」

 リューカが溶岩溜まりの方に向かって歩く。

「ここの溶岩がダミーになっているみたい。」

 そういうとリューカが手を伸ばす。リューカの手は燃えることなくその溶岩を突き抜けた。まるでホログラムのようになっているみたいであった。

「なんか仕掛けが巧妙ね。こんなのリューカ以外気づけないんじゃない?」

「今回はけっこうわかりやすくない?カインもわかったでしょ?」

「ああ、でもなんか怪しいなくらいだけど。」

「セレナも魔力感知は鍛えたほうがいいよー?便利だし。」

「そうね、あんたたち見てると私もあった方がいい気がしてきた。」

「それじゃ、今回も行ってみようか。なにかあるかもしれないしオレが先に行くよ。」

 そう言うとカインが先にその溶岩に飛び込んでいった。そのあとに2人は続いていった。


「やっぱりあったねー、あのきれいな魔石。」

 先ほどの迷宮にもあった魔石がまたしてもリューカたちの前に現れた。

「今度はなにを見せてくれるのかしら?さっきより大きいわよ。」

「そうだね。なにが起きるか分からないから防御魔法の展開の用意はしておいて。」

「じゃ触るよー。えーい!」

 リューカが魔石に手を伸ばす。またしても眩い光を放ち3人を包んでいった。



『おかーさんありがとう!』

 少女が大事そうになにかを抱えている。少女におかーさんと呼ばれた女性は振り返りその少女を抱きしめた。

『ごめんなさい。本当にごめんなさい。でもあなたのためなの。』

 おかーさんは泣いていた。

『ではそろそろ。女王がお待ちです。』

 ローブを深くかぶった人間が2人、おかーさんに声をかける。少女が連れていかれる。



 ここで映像が途切れた。


「んんんんん?この女の子ってさっきも出てきたよね?」

 リューカが2人に問いかける。

「そうね、それに女王って言ってたわよね。女王なんて地下の国に来た時点でいなくなっているものね。」

 セレナが気づいたことを述べる。

「ということはこれってなにか過去の話ってことなのか?」

「ほうほう。カインなかなか興味深いことを言うねー!たしかに風景も見たことなかったし。もしかしてあれが地上だったり?」

「まあなんにせよ、もう少し情報がほしいな。それに・・・」

「それに?」

「リューカじゃないけど、これはかなり面白いと思う。」

 珍しくカインが楽しそうにほほ笑んだ。

「わかってんじゃーん、さすがカイン!」

 リューカがカインの肩を組む。セレナが呆れた顔で2人を見ていた。

「じゃ、魔石を回収して戻りましょうか。今回はちょっと疲れたわ。」

 ドラゴンの中にあった魔石はセレナが、この謎の魔石はリューカがそれぞれ回収した。


 迷宮が崩壊する。今回も多くの謎を残して。






 


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リューカと女王の呪い タウロラ @tarorhythm

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