ユミちゃんはどこ?

紫 李鳥

ユミちゃんはどこ?

 


 その小さな村には、こどもがひとりしかいません。


 ひとりぼっちの女の子は、いつもひとりで遊んでいました。


 女の子の名前はミナちゃん。


 ミナちゃんは、きょうも遊んでいます。


 小さな人形と一緒いっしょに。


 人形の名前は、ユミちゃん。


 ユミちゃんは、お母さんが作ってくれた人形です。


 布切ぬのきれに綿わたをつめた人形です。


 髪の毛は黄色い毛糸で、服は桃色の端切はぎれで作ったワンピースです。


 でも、ミナちゃんは、そんなユミちゃんがお気に入りです。


 大事な大事なおともだちです。


「ユミちゃん。きょうはなにしてあそぶ?」


 雪が積もった道を裏山うらやまに行きました。


 そこには、お父さんが作ってくれたブランコがあります。


 太い枝にるしたブランコが。


 ミナちゃんは、ユミちゃんを抱っこすると、ブランコをこぎました。


「わぁ~、とんでるみたい」


 ミナちゃんは、夢中むちゅうでブランコをこいでいました。


 そのときです。


「あっ!」


 ユミちゃんがいないことに気づきました。


「ユミちゃーん!」


 ミナちゃんは、ブランコからりると、ユミちゃんをさがしました。


 でも、どこにもいません。


「……どこにいるの? ユミちゃん」


 雪にもれてしまったのでしょうか……。


 夕日ゆうひしずむまでさがしましたが、見つけることができませんでした。


 ミナちゃんは、しょんぼりしておうちに帰りました。


 人形をなくしたことはお母さんに言えません。


 お母さんをかなしませたくなかったのです。


 ミナちゃんは次の日も、ユミちゃんをさがしました。


 オレンジ色のミトンをして、あっちこっちの雪をりました。


 でも、見つかりません。


「……ユミちゃん、どこにいるの?」


 ミナちゃんは、白いいきをはきながらユミちゃんをさがしていました。


 そのときです。


「おじょうちゃん。何をさがしているのかな?」


 男のひとの声がしました。


 ふりむくと、白いひげのおじいさんでした。


「にんぎょうをさがしているの」


「どんな人形かな?」


「おかあさんがつくってくれたかわいいにんぎょう」


「どんなかたちの人形じゃ?」


「……んと、このぐらいで、かみがタンポポいろで、サクラいろのドレスをきて、ブローチをしてるの」


「じゃ、わしも一緒にさがしてあげよう」


「……ありがとう」


 ミナちゃんはれいを言うと、おじいさんと一緒にあっちこっちの雪をりました。


 でも、夕日が沈むころになっても見つかりませんでした。


「雪の下に埋もれているんじゃろ、きっと。だから、かならず見つかるはずじゃ」


 おじいさんはそう言って、ほほえみました。


「……ん」


 ミナちゃんはさみしそうにうつむきました。


「だから、またあしたさがそう」


「うん。ありがとう」


 ミナちゃんは笑顔で礼を言うと、おうちに帰りました。



 おじいさんはひとり残ると、モコモコの長いひげをさすりました。


 すると、


 シャンシャンシャン~♪


 そらからすずが聞こえてきました。


 空から下りてきたのは、ソリを引いたトナカイでした。


 トナカイはおじいさんのそばに来ると、真っ赤まっかはならしました。


「同じ人形をプレゼントしてあげたいが、手作てづくりの人形じゃから、どこにも売っとらん。……雪を掘ってさがすしかなかろう。やれやれ」


 おじいさんは、そうつぶやきながら、ふと、ブランコのうえ見上みあげました。


 すると、トナカイがらす明かりに、何かがキラキラとかがやきました。


「ん? ……もしかして」


 おじいさんはそう言って、ソリに乗ると、手綱たづなを引きました。


 すると、おじいさんを乗せたソリとトナカイがふわりとがりました。


 そして、大きな木のそばに来ると、雪が積もった枝にいた黄色い髪の人形を見つけました。


 輝いていたのは、ワンピースについている星の形をしたブローチでした。


 おじいさんは、人形を手にすると、


「こんなところにおったのか。どうりで、あっちこっち掘ってもさがせんかったわけじゃ。ハハハハ……」


 と、人形に話しかけて、大きな声で笑いました。


 シャンシャンシャン~♪


 トナカイもうれしそうに、鈴の音を鳴らしました。






 クリスマスの朝でした。ベッドに吊るした靴下をのぞいたミナちゃんは、目を丸くしました。


 そこには、どんなにさがしても見つけられなかったユミちゃんがいたのです。


「わぁ~、ユミちゃんだぁ」


 そう言って、うれしそうにユミちゃんを抱きしめました。


「サンタさん、……ありがとう」


 サンタさんがプレゼントしてくれたのは、世界にひとつしかない大切な大切な宝物でした。




 おわり

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