VS転売ヤー

二条橋終咲

買えない買えない Every Day...

 僕は、学校のクラスに一人はいる、インドアの【陰の者】です。


 普段はずっとゲームをして、たまにYouTubeで動画を見たり、漫画や小説を読んだり、Netflixでアニメを見たりしてます。人混みや日光が苦手です。Amazon大好き。


 普通の人からすればと呼ばれる部類の人間なのだとは思いますが、その筋の人から言わせれば全然にわかの、よくいる中途半端な19歳です。


 そんなサブカルにゾッコンな人生を送っていると、幸か不幸か色々便利になった現代では必ず【】という人種の人たちと対峙することになるのです。


 ちなみに、僕は19年をこの世界で生きてきて、3回ほど【転売ヤー】に苦しめられた経験があります。


 今回はその中でも特に印象深い、1回目の出来事を語りたいと思います。


 僕の人生で初めての転売ヤーとのバトルは、中学2年生の3月に『Nintendo Switch』が発売されたときです。


 昔から任天堂のゲームで育った僕は、今回のSwitchの発売も心待ちにしていました。


 ですか当時中学2年生の、まだお子様だった僕は【世界の闇】を知りませんでした。


 発売日の3月3日は、行きたくもないなんの思い入れのない3年生の先輩の卒業式に出席しなければならなかったので、買いに行くことができませんでした。


 なので翌日の3月4日に、自転車で片道30分かけてアピタまで行きました。


 最新ハードに高鳴る気持ちを抑えつつ自動ドアを通り、ちょっと迷惑な早足でゲーム売り場まで行ってSwitchの前に辿り着いた僕は絶句しました。


「う、売り……切れ……?」


 目に飛び込んできたのは「こちらの商品は好評につき、売り切れ終了となりました」の無慈悲な【死刑宣告】でした。


 人目もはばからずに膝から崩れ落ちそうになるのを堪えて、僕は一縷いちるの希望にかけてレジの店員さんに聞いてみました。


「あの『Nintendo Switch』ってもうありませんか?」


「大変申し訳あ」


 その時点で、僕は店員のお姉さんの言葉をシャットアウトしました。


 とは言え、売り切れだけならまだ良かったんです。任天堂の最新ハードだからと、僕も冷静でした。


 家に帰ってからネットで在庫確認をしたときに【彼ら】の存在を知るまでは。


 検索窓に『Nintendo Switch』と入力すると出現する『Nintendo Switch 転売』の予測変換。


 調べに調べていくと、なんと大量のSwitchがフリマアプリなどで定価より高値で売られているではありませんか。


 この時、中学2年生の僕は、この世の歪み初めて知りました。


 しかし諦めきれない僕は、母との交渉を始めます。


「いいじゃんこれで買っても!」


 比較的安価な転売ヤーの販売ページを見せながら僕は懇願します。


「だめ。そういうのはちゃんとしたところで買わないとみんなが困るの」


 今思えば母が正論を言っていたことが理解できるのですが、当時の僕にはゲームができないという苦痛に耐えるだけの精神力は備わっていませんでした。


「なんでいいじゃん!」


「ああもううるさい! ちょっと頭冷やしなさい!」


 そんなこんなでSwitchのお預けだけではなく、スマホまで没収されてしまいます。


 ゲームもスマホも失ってしまったあの時の僕の人生は紛れもないでした。


 そして発売から5ヶ月が経った、中学3年生の夏。

(無事にスマホは返してもらえました)


 この日まで僕は、毎日欠かさずアピタに通っていました。


 暑い日も寒い日も、雨の降る日も風の吹く日も。毎日毎日……。




 そんなある日、僕の人生に光明が差しました。




 いつも通り売り場に行き、在庫の確認をしようとすると、道中のレジの上に見慣れない吊るし看板を見つけたのです。


「『Nintendo Switch』の在庫……有ります⁉︎」


 堂々と書かれたその文字に僕は興奮を抑えることができませんでした。


 そのままの調子でレジに突撃し、店員の綺麗なお姉さんに言ったのです。




「あっ、あの……。えっと……。Switchってありましゅかっ⁉︎」




 僕は覚えていないのですが、唯一思い出せるその時のお姉さんの引き攣った表情を見るに、多分めちゃきもいくらい興奮して、無様に噛んでいたんだと思います。


「……商品、こちらになります」


 とは言え、こうして発売から5ヶ月。ようやく『Nintendo Switch』を入手することができました。


 これは、当時中学3年生の僕の心情です。


「っしゃあああああっ! やっっっと買えたぁぁぁぁぁっ! 転売ヤーのばぁぁぁぁぁか!」


 19歳になった今でもあの時の興奮は忘れられず、転売ヤーに魂を売ろうとしていた僕を正しく導いてくれた母に感謝しています。


 最近ではずっと家に引きこもって『ブレイブリーデフォルトⅡ』をプレイしています。めっちゃ楽しい。アデル可愛い。




 そして、『Nintendo Switch』で遊んでいる今現在も、僕の欲しい『PS5』はメルカリに陳列されているのです。

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