神に祈った日

つぐい みこと

 神様なんて信じていなかった。彼は目の前の光景を直視出来ず、天を仰ぐ。

 いつだって自分の力で生きてきた。望みはこの手で叶えられると信じていたけれど、これはあまりにも理不尽で息も止まるほどの残酷だ。

 教えて欲しい、どうしたらいいのかを。目の前の絶望を変える力が欲しかった。守りたいのはなんでもない日常で、ありふれた日々なのだ。

 彼の想いは止まらない。両腕に抱く傷つきぼろぼろになった彼の愛しい人は、小さく身じろいだ気がした。

「ねぇ」

 掠れた声が彼を呼んだ気がする、しかし彼女は本当は冷たくなったまま動くことも無い。彼女を強く強く抱き締めながら、彼は世の理不尽を呪った。


——いま、神に祈ろう。もう二度と守りたいものに手が届かないことがないように。この世の理不尽に屈することなどないように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神に祈った日 つぐい みこと @tsugui_micoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る