車で人を釣る

布団カバー

車で人を釣る

「いらっしゃい、ませー」アルバイト店員の気のない返事が出迎える。

とくに欲しいものはないので、店内をふらつく。

俺が欲しいものは外にある。

雑誌を立ち読みしながら外の駐車場をちらりと見る。

こじんまりしたコンビニに似つかわしくない超高級車、この車は一週間ずっと止まっている。

しかも、施錠なし&キーがつけっぱなしの無防備っぷり、

どうぞ盗んでくださいの配置、怪しすぎて気になってしょうがない。

コンビニを通るたびに車へ目に行く

そのたびに今日こそは盗んでやると思いながら通り過ぎてきた。

だが、今日の俺は違う、やってやる。店員が補充のためにレジから離れる。

この隙を逃さず、俺は車へ走り出した。

緊張による汗が全身からあふれ出しながら車内へ滑り込む。

周りを見渡し、誰もいないことを確認する。

俺は、はーーーっと大きく息を吐きだした。

体に過剰に入っていた力が抜けていき、心が落ち着く。

刺したままのキーを回し、エンジンを掛ける。

暴力的なまでの激しい排気音が俺の士気を爆上がりさせる。

熱くなった体を冷やすためクーラーをガンガンに効かせてゆく。

アドレナリンが過剰分泌された俺の頭は冷房の風に紛れて入ってくる無味無臭の睡眠ガスに気が付かない。

いつの間にか締まってシートベルトが俺の体を締め付け、固定する。

意識が浮ついて遠のいていく

なんでだろうか凄く眠い、ねむりたい…………


車は眠っている運転手を乗せて、走り出す。

しばらくして車は巨大なコンテナ船だけが止まっている人気のない港に着く。

同じような高級車たちが船に乗り込んでいく、出荷するように。

車で満載になった船はボーーっと汽笛を鳴らし、出航する。

陸からだいぶ離れたタイミングで船が再び汽笛を鳴らす。

車たちは音に呼応して車内の人々を吐き出した後、車同士が互いに寄せ合い融合してゆく。

すべての車が一つの塊になった時、その姿はコンテナ船の一部に酷似していた。

塊は船に融合して一つになる。

船は再びボーーっと汽笛を鳴らす、それは歓声のように思えた。

音で目を覚ました人々、それを捉えるために船内のあらゆる場所から伸びる触腕が伸びる。

掴まれた人々は船と融合させられていく。

自分の体が船と融合して境目がなくなっていく。

恐怖と死に満ちた船内が静かになった時、船は再び汽笛を鳴らし新しい獲物を求めて出航し始めた。

終わり



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