第41話 労いと注目
王族の方々がチヤホヤされているのを遠目に眺めながら周りに孤立しない程度に雑談をしていると、やがて狩りに出た人たちが戻ってきた。
その表情は、千差万別。
大物を取ったと晴れやかな人も居れば、残念そうな顔の人もいる。
中にはこれから意中の相手に贈り物をしようとしているのか、緊張の面持ちをした人もいて、先程までは優雅なお茶会会場だったこの場所にも、活気のようなものが訪れた。
対する私はというと、気になるのは侯爵の帰りだ。
予定ではこの後、事が起きる。
彼が帰ってくる事が、そのトリガーだと知らされているだけに、役割を用意されている私はソワソワしてしまう。
辺りを忙しく見回すが、周りはもう大半が帰ってきているというのに彼の姿はまだ見つからない。
まだ帰ってきていないのか、それとも見つけられていないだけなのか。
探すのも面倒臭いので、なんかとても目立つ目印でもつけていってくれればよかったのにと、思わず考えて――あ、いた。
外かつこのようにたくさんの人が集まる場だとやはりどうしてもにおいをキャッチしにくいものの、目も併用して探せばどうにかなるものだ。
彼はどうやら、ちょうど森から帰ってきたところのようだった。
しかしその後ろには、もう一人いる。
「あ、ゼフだ」
協力して狩りをしたのだろうか。
その後ろからは大物を狩猟した時のために用意してある引き車を、使用人が汗をかきながら引いている。
その上に乗っているのは、イノシシが一体。
おそらく成体、しかも大きい。
他の人たちはウサギやリス、鳥などが大半のため、こういった獲物は持ってきているだけで目立つ。
周りも騒めいていて、ディアナ様なんて大袈裟に両手で口元を覆い、驚き交じりの嬉しさを方々にアピールしている。
侯爵一人の成果ではないだろうに、すべて自分の手取りのような勢いだなぁ……なんて考えていたところに、第二王子が席から立ち上がった。
歩いて向かった先には、侯爵がいる。
侯爵の方も殿下に気がついたようで、片膝をついて最敬礼をしようとしたところで、先程と同様に制された。
「大きな獲物だな。私は狩猟会に顔を出すのは初めてだが、たしか仕留めてきた獲物の大きさを競うのだろう? 私が見る限り、貴殿が一番だな」
「光栄にございます。このゼフも多少は手を貸しましたが、ほぼ私の手腕でつかまえたようなもので」
むしろ自分一人でも十分だったと言いたげな彼がわざわざゼフの名を出したのは、殿下の前で「この成果は自分と協力して手に入れたものだ」と言われる事を防ぐためか。
たしかに後で自分の言をひっくり返されて言葉の信ぴょう性を失うよりは先に「二人の成果だ」と言ってしまった方が安全かもしれないけど、あの言い方はどうなのだろう。
ゼフも怒っているのではないか。
そう思って彼をチラリと見るが、特に腹を立てた様子はない。
まぁ、私に獲物をくれるなどというくらいである。
元々あげる相手などいないのだろうから、あまり執着はしていないのかもしれない。
「ご苦労だった」
「ありがとうございます」
殿下に労われて、侯爵はかなり上機嫌だ。
殿下の後ろにいる正妃様も、綺麗な笑顔を浮かべている。
その周りには、褒められる侯爵を見て羨ましそうな人、悔しそうな人などの姿が見られる。
侯爵は一気に注目の的だ。
権力に興味がない私は「へぇ」程度の話だけど、そうでない人たちにとってはこの注目はきっと蜜よりも甘いのだろう。
そんな風に思った時だ。
ドドドッドドドッという地鳴りが、僅かに足に感じられた。
ずっと後方から、いくつもの人のにおいが近づいてくる。
視線をやれば、騎乗した騎士たちがこちらにやってきている。
先頭の男性だけが王城でよく見る文官服姿で、何だか妙に浮いていた。
周りの面々は「何事だろうか」「こんな所に文官が来るなんて珍しい」などと思っていそうな顔をしているが、私はそうは思わなかった。
来た。
そう思った。
侯爵が戻り、騎馬に乗った人たちが狩猟会会場にやってきたら、私の最終ミッションも始まる。
これは指示書に書かれていた、ミッション開始の合図そのものだ。
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