第二章:あなたの証拠、いただきます。

第11話 密かな期待 ~謎の組織の『上』視点~



 淡い日の光が差し込む庭園に建っている年季の入ったガゼボの中で、一人手元に目を落とし私は小さくクスリと笑った。


「そう、あの子うまくやったのね。流石はレンリーアさんのお気に入り」


 そう呟きながら、手紙の一文を指でなぞる。



“グレンディース侯爵夫人・メリナ様は、現状からの解放を望んでいる”


 几帳面な字で書かれたその言葉は、きちんと手順を踏んで読み解かなければ浮き彫りにはならない朗報だ。


 どうやらノスタリオ公爵家で行われた夜会にメリナさんとエリーさんを呼ぶように仕向けた結果が、功を奏したようである。


 しかしまだスタートラインに立ったに過ぎない。


 

 情報もやり方も得られる結果も、脳内には無数に存在している。

 それを指示書に落とし込み適正なエージェントに割り当てるのが、私のすべき事である。

 


 特にあの子は、中々に面白い個性の持ち主だ。

 少々性格的に純粋すぎるきらいがあるけれど、持ち前の嗅覚は潜入に向いている。

 モチベーションも十分だから、きちんと指示書を練りこめば、またいい結果を持って帰ってくるだろう。


「一つだけ懸念点があるとすれば、あの子は組織を『正義の味方』だと思っているという事かしら」


 この組織は、厳密には正義の味方をするために存在している訳ではない。

 副次的にそうなっているだけで、真の目的は別に存在している。


 その辺を勘違いしている彼女が、どんな行動に出るのか。

 それだけは今後も観察の必要がある。



 庭園の中に作られた日陰の下、やんわりと吹き抜けていく風の気持ちよさに目を細めながら、私は目の前の穏やかな景色に目を向けた。


 この世界を維持するために、私はやるべき事をやる。

 ――エリーさんの工作活動を、興味深く見物しながら。



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