第4話 世界を救う

 王都についてからやることはただ一つ、直接国王に会いに行くという事だ。ただ、元勇者とはいえアポなしで面会などさせてもらえるはずなんてないので、元魔王に頼んで王都に残っている戦士達でもギリギリ勝てるような魔物が数体王都を襲うようにしておいてもらっていた。魔物が負けそうになった時には僕の力を少しだけ分け与えてあげればいいだけなのだけれど、王都にいる連中は以前よりも頼りなくなっているようで、あっさり全滅しそうになってしまっていた。

 僕の計画とはかなり大きく異なってしまったのだが、どうせやることは変わらないのだって事で戦士たちの代わりに魔物たちを追い払ってやった。と言っても、ある程度は打ち合わせもしてたので結構スムーズに事は進んだのだが、あまりにもスムーズ過ぎたのでこちらの方が騙されているのではないかと不安になってしまった。


 謁見の間に案内されるのは僕がまだ現役の勇者だった時以来だと思うので相当昔の話になるだろう。大臣たちも何人かは見知った顔が見受けられるのだが、そのほとんどが資料でしか見たことのないような人たちだった。何よりも、僕の知っている国王ではなく新しい国王に変わっているというのが新鮮に思えた。


「この度は王都をお救い頂き誠にありがとうございます。国王陛下も元勇者様の活躍をお喜びであります。ところで、なぜ元勇者様はこの王都においででしたのでしょうか?」

「ここしばらくの間なんですが、私が住んでいる村に王都からの支給品が届いていないのでして、それはいったいどういう事なのかと確認のため伺わせていただいたというわけなのです」

「そうでしたか、王都から元勇者様のお済になっている村は何分遠いものでして、そういった話はまだ聞いていないのですよ。ご確認いたしますので今しばらくお待ちいただけますでしょうか」

「いえ、確認していただかなくても結構ですよ。そう言ったことがあったという事を知っていただければいいので。こちらとしてはあえて物資の支給を断って私の住む村を見捨てようとしているのか不安になっただけですから」

「なぜそのように思われるのか。我々が元勇者様の住む村を見捨てるなどありえない話なのですが」

「あなたはそうなんでしょうが、他の方も同じとは限らないのではないでしょうかね。過去の勇者よりが今の勇者よりも目立っているのは好ましくないと思っている方もいたりするんではないでしょうかね。例えば、一番高いところに座って僕を見下ろしている人とか」

「何をおっしゃるんです。元勇者様とはいえあまりにも無礼すぎますぞ。今すぐその言葉を撤回していただければ悪いようにはしませんので、どうかご自身の発言を撤回なさいますよう忠告申し上げます」

「僕を脅すって事ですか?」

「いえ、そうではありませんが」

「別に僕はこの国にこだわる必要も無いんですけどね。ただ、一から自分の国を作るのって面倒じゃないですか。それに、ただ古いだけの国が偉そうにしているのも好きじゃないんですよね。でも、新しくて力のある国が偉そうにしてるのはもっと嫌いですけど。そう言えば、今の魔王ってあとどれくらいで討伐出来そうなんですか?」

「今の魔王でしたら、勇者様の報告では三年以内にはかたを付けられるとのことですが」

「今の勇者って結構のんびり屋なんですね。僕が三体の魔王を倒すのにもそんなに時間がかからなかったような気がするんですけど、今の魔王ってその時の魔王よりも強いって事なんですかね?」

「魔王の強さを比べるのは不可能だと思いますよ。元勇者様が今の魔王と戦ったとしても過去の魔王たちの強さと比較することなど無理な話かとは思いますが」


 僕と大臣の話を国王は全く興味が無さそうに聞いていた。というよりも、僕と話してくれているこの大臣と数名の大臣以外は僕の話を聞くつもりなんて毛頭ないのだ。そもそもが、僕をこの謁見の間に入れること自体反対しているように思えるのだった。


「失礼いたします。魔王城にて動きがありましたので報告に参りました。現在、魔王城は謎の勢力に奇襲を受けているもようであります」

「謎の勢力だと。それは勇者様とは無関係の者なのか?」

「恐らくそうではないかと考えられます」

「他の国の勇者が魔王城に攻め入っているという事なのか?」

「いえ、そうではなく。言葉では何とも説明しずらいのです。今観測士が映像の準備をしておりますので、少々お待ちくださいませ。そちらの壁に映す予定となっておりますので」

「いったいどこの勢力が魔王に挑んでいるというのだ」


 謁見の間に四人の観測士が入ってきて各々が準備をし始めていた。時々映る映像はいまいち状況がわかりにくいのだが、なんとなく見たことがあるような城が映っていた。魔王城は姿かたちはどれも異なるものなのだが、なんとなく根本的な部分では似通っている印象を持ってしまった。

 やがて、四人の観測士が映しだすバラバラだった映像が一つの大きな映像となってくると何をしているのかハッキリとわかるようになっていた。僕の友人である元魔王たちがそれぞれの兵団を伴って好き勝手に暴れているのだった。


「なぜだ、魔物同士で魔王城を攻めているのは何故だ」

「わかりません。ただ、どこかで見おぼえがあるように思えるのですが、どなたかあの魔物の事で心当たりがあるものはいませんか?」


 僕と話をしていた大臣がそう尋ねると、一人の若い大臣が恐縮そうに手をあげていた。


「私の記憶が間違って無ければなんですが、あの魔物たちの中に三代幻魔と呼ばれる者がいたと思うのですが」

「三代幻魔は全てそこにいる元勇者様が討伐されたはずですが。いや、確かにあの時の魔王に似ていると言われればそう見えなくもないです。元勇者様が討伐された魔王でしょうか?」

「ああ、似てるってレベルじゃないくらい似てますね。もしかしたら、僕が倒した魔王が何らかの力で蘇ったのかもしれませんね。でも、今は魔王が別にいるんで幻魔として蘇ったって事だったりして。あ、これで今の魔王と昔の魔王が戦ってどっちが強いか見ることが出来るんじゃないですかね」

「そんな事を言ってる場合ですか。今の状況では魔王城が陥落するのは時間の問題でしょう。しかし、問題はそんな事ではありません。魔王城が落ちた後にあの幻魔たちがいったいどのような行動を起こすのか全く分からいという事なのです」

「それこそ、今の勇者に倒してもらえばいいじゃないですか」

「そうは言いますが、どんなものでも同時に三体の幻魔の相手をするなど無理な話ではないでしょうか」

「そんな事ないと思いますよ。そうだ、あの三体の幻魔か魔王を討伐したら僕の村に確実に支給品が届くように徹底してくださいよ」

「私の一存では決められるような事ではないのですが、陛下は元勇者様の提案をどう思いますか?」

「構わぬ。魔王も幻魔も屠っていただければそなたの望みを叶えようぞ」

「ありがとうございます。じゃあ、そろそろ魔王城も陥落したと思いますので、あの幻魔たちを迎え撃つ準備でもしますか」

「迎え撃つ準備とはまるであいつらの行動が読めるような言い方ですな。どこで迎え撃つのですかな?」

「おそらくですけど、王都の南にある草原を通ると思うんですよ。で、そこで迎え撃とうかなと思ってますね」

「もしやとは思いますが、三体同時ではないですよね?」

「いや、三体同時の方が効率がいいでしょ」

「確かに効率はいいかもしれませんが、それは少しばかりご自身の力を過信し過ぎているのではないでしょうか」

「そんな事ないですって、皆さんはそこで観測士の映しだす嘘偽りのない映像をご覧になっててくださいね。さ、久しぶりに世界を救ってくるとしますか」


 僕の想像よりも現魔王は弱かったようだ。元魔王たちが三体同時に攻めていたという事もあるのだろうが、それにしても守りが脆弱すぎると思う。もう少し早く勝負がついていたとしたら、僕は村にちゃんと補給をしてもらえるという約束を取り付けることが出来なかったかもしれない。

 神から定期的に色々と支給されているのだけれど、生活物資はいくつあっても困らないので問題ない。余った物資も適当に旅の商人にでも売りつければお互いに損はないだろう。


 そんな事を考えながら元魔王たちがやってくるのを待っていた。どうやっても僕が負けることは無いのだけれど、ちょっとばかし観衆にサービスでもしてあげようかな。僕が負ける寸前まで追い込まれてから、必殺技で大逆転というシナリオはどうだろうか。

 世界を何度も救うってのにも多少の演出は必要だろうしね。

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引退した元勇者だけどもう一度世界を救ってあげることにした 釧路太郎 @Kushirotaro

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