第3話 元勇者と元魔王

 僕たちの村が物資の補給を受けられないという問題は片付いたのだが、そうなってくると特に王都側に何かをする必要もなくなってしまった。というよりも、なぜ王都側はそんなに簡単に補給を諦めたのだろうか。それを確かめに行く必要があると感じていた。


「元魔王さんたちにお願いがあるのだけれど、聞いてもらってもいいかな?」

「お願いって何ですか?」

「僕はこれから王都に行って、どうして補給を途絶えさせたのか尋問……じゃなくて、質問してこようと思ってるんだよね。それでさ、この前みたいに魔王軍が攻めてきても面倒なんで、逆に魔王軍に対して攻撃なり嫌がらせなりしておいてもらってもいいかな?」

「それは構いませんが、今の魔王を我々で滅ぼしてしまってもいいというのですか?」

「もちろん。やっちゃってくれてかまわないよ。何だったら、君たちの力を全盛期の半分くらいまで与えてもいいと思ってるしね」

「半分も頂けるんでしたら、滅ぼすことなく嫌がらせを続けることも出来ますね。でも、そんなに力を戻してもらってもいいのですか?」

「別に構わんさ。君達に全盛期の力を返しても僕の方が強いと思うしね。何の問題も無いよ」

「それはそうなんですが、我々がまた世界に牙をむくかもしれませんよ」

「そうなったらそうなったで良いと思うんだよね。今の勇者たちがどれくらい強いのかって確かめることも出来るし、僕も久々に全力で戦うことが出来る可能性だって少しはあるかもしれないからね」

「またまた、ご冗談を。元勇者が本気になる相手なんてもうこの世界にはいませんよ。いたとしても、この村がある限り何とでもなりますでしょうに」

「それはそうか。じゃ、僕は王都に行ってくるんであとは頼むよ。そうだ、現魔王の拠点は全部潰しちゃっていいからね。僕のために何個か残しておこうなんて思わなくていいからさ」


 元魔王たちの力をある程度戻しておくことによって、その配下たちも同じように力が戻るはずだ。現魔王はこの村の秘密をある程度は理解していると思うのだけれど、本当の意味で理解することは僕と対峙するまで無いんだろうな。ここにいる元魔王もそうだったように、この魔法陣の事を聞くまでは自分の力が抑制されているなんて気が付かないんだからね。違和感を覚えたとしても、それは気のせいだと思って片付けちゃうと思うしね。

 ま、それは神や人間サイドにも言えることなんだけどさ。


 この村から王都までは歩きだと数か月かかるし、馬車でも一週間以上はかかってしまう。空を飛んでいくことが出来ればもっと早くたどり着くことは出来るのだけれど、あいにくと僕には空を飛ぶ力が備わっていない。じゃあ、どうすればいいのか。答えは簡単である。空を飛ぶことの出来る天使なり魔物なりを使えばいいだけの話なのだ。

 僕はそれを可能にすることが出来るのだが、その為には近くにそいつらがいないとダメなのである。運の悪いことに現魔王軍には空を高速で飛べそうな魔物はいなかったし、いたとしても元魔王軍の手によって殲滅されてしまっていたのだった。

 仕方がないので天使でも捕まえようかと思っていたのだけれど、そう都合よく天使なんているわけもないのだ。

 元魔王軍にも空を飛べる魔物はいるのだけれど、そんな魔物に乗って王都へ行ってしまうと変な誤解を持たれてしまうかもしれない。そう言った意味でも天使は適任だと思うのだけれど、この村に物資を運んでくる天使はなぜか空を飛んでこないのだ。村の近くに現れてそっと物資を置いていなくなる。それだけの存在なのだ。


 飛んでいければそれが一番いいのだけれど、天使なり神聖な鳥が見つからない以上は自分の足で向かうしかないのだ。あんまり走るのとかは好きではないのだけれど、この際は贅沢も言っていられないのだ。とにかく、僕は王都に行ってどうして補給を絶ってしまったのか確認する必要があるのだ。

 僕は歩いて数か月はかかる道のりの事を考えると気が重くなってしまっていたが、往復するのに必要となる食料二日分を準備して王都へと向かうことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る